「インフレに負けない在宅薬局」であり続けるために必ず押さえたい5つの施策
物価高騰、薬価引き下げ、そして深刻な人手不足と、薬局経営を取り巻く環境はますます厳しさを増しています。特に在宅業務は、コストや対人業務の比重が大きく、「多忙だが利益が残らない」状況に陥りやすい点に注意が必要です。
この記事では、調剤報酬改定の動向や2025年以降のデジタル化の潮流を踏まえ、インフレ局面でも揺るがない「持続可能な在宅薬局」を構築するための5つの重要施策を解説します。
1. 地域連携薬局・多職種連携の深化
1-1. 「在宅初期」への介入が多職種連携への入口
1-2. 自治体と協働し地域包括ケアを実現させる
2. デジタル化&薬局DX推進による業務最適化
2-1. オンライン服薬指導の戦略的活用
2-2. 対人業務の拡充に向けたAIやシステムの活用
3. 在宅患者訪問薬剤管理指導料・加算評価の確実な取得
3-1. 近年の調剤報酬改定における在宅評価の拡充
3-2. 加算取得の「見える化」とPDCAの実践
4. かかりつけ薬剤師と薬局事務員の育成・タスクシフト
4-1. 薬剤師から事務員へのタスクシフト
4-2. かかりつけ薬剤師の確保と質向上
5. 利益率の改善と経営の持続可能性
5-1. コストの最適化
5-2. M&Aによる攻めの経営戦略
まとめ
1. 地域連携薬局・多職種連携の深化
在宅医療に薬剤師が介入することで、患者さん一人ひとりに応じた最適な薬物療法の実施に貢献できます。しかし現状では、在宅薬局が増えているにもかかわらず、薬剤師が十分に専門性を発揮できていないケースも少なくありません。
在宅薬局として利益を安定させるには、在宅医療における薬局の存在価値を見直し、多職種の中で担う役割を明確にする必要があります。
1-1. 「在宅初期」への介入が多職種連携への入口
在宅医療体制を強化するには、円滑な多職種連携が不可欠です。しかし、日本総研の委託調査によると、薬剤師のサービス担当者会議への出席は27.3%、地域ケア会議への出席は10.9%にとどまっています。この参加率の低さは、多職種連携において、薬剤師がまだ「十分なプレゼンスを発揮できていない」ことを示唆しています。
画像:日本保険薬局協会|2026年度改定における在宅業務に係る要望事項ー薬剤師の個人宅向け在宅業務実態に関する大規模調査よりー
特に注力すべきは「退院時カンファレンスへの出席」です。在宅移行初期管理料を算定している薬剤師の多くが退院時カンファレンスに出席しており、このことから、在宅初期から医療チームの一員として関与する体制を整備することが、多職種連携を進める上での重要なポイントであるといえます。
1-2. 自治体と協働し地域包括ケアを実現させる
地域包括ケアの構築で重要となるのが、自治体との連携です。自治体は、高齢化率や独居高齢者の増加、生活習慣病の有病率といった地域ごとの健康課題や、医療・介護資源の分布状況を把握しています。薬局が地域の医療インフラとしての役割を果たすためには、こうした情報を持つ自治体と協働し、さまざまな啓蒙活動に関与することが望まれます。
具体的には、自治体主催の健康教室やフレイル予防事業への参画、災害時の医薬品供給体制への協力などが挙げられます。これらの活動は収益に直結しにくい一方で、地域住民や行政からの信頼につながり、結果として在宅患者の紹介増加や医療機関との関係強化といった中長期的な経営安定に寄与します。
その基盤となるのが、地域連携薬局や健康サポート薬局といった認定薬局制度です。認定は、薬局の機能や強みを「見える化」し、自治体や医療機関に対して、一定水準以上の体制を有していることを示す客観的な指標となります。地域包括ケアの中で継続的に選ばれる薬局となるための重要な要素といえるでしょう。
2. デジタル化&薬局DX推進による業務最適化
インフレ下で人件費や固定費が上昇する中、薬局経営においては「限られた人員でどれだけ付加価値を生み出せるか」が重要な経営課題となっています。特に在宅業務は人手と時間を要するため、収益を維持・向上させるには生産性向上が不可欠です。
そのためには、薬局DXにかかるコストを、将来の収益性と持続可能性を高めるための投資と捉える視点が求められます。業務全体を俯瞰し、どこに人的リソースを集中させるべきかを見極めた上で、デジタル化を段階的に進めることが重要です。
2-1. オンライン服薬指導の戦略的活用
自宅にいながら診察や薬の受取ができるオンライン診療・服薬指導は、デジタルに慣れた若年層から外出困難な高齢者まで、幅広い世代にとって利便性の高いサービスです。近年は、電子お薬手帳や服薬フォローアップ、服薬状況の記録共有などの機能を備えた、薬局向けオンライン服薬指導ツールも登場しており、在宅医療との親和性は高まっています。
在宅薬局において、移動時間をゼロにできるオンライン服薬指導は、人手不足や移動コスト増への有効な対策となります。対面での訪問を基本としつつも、症状が安定している患者さんや、服薬状況の確認・副作用チェックなどフォローアップが主目的となるタイミングでは、オンラインを併用することで、薬剤師一人あたりの対応可能件数を増やすことができます。
また、夜間・休日における緊急時対応においても、必ずしも訪問が必要でないケースでは、オンライン服薬指導を活用することで迅速な対応が可能です。画面越しでも顔を見ながら説明できる点は、患者さんや家族の不安軽減につながり、在宅医療における安心感の向上にも寄与します。
対面とオンラインを戦略的に使い分けることで、質の高い薬学管理と持続可能な在宅薬局経営の両立が実現できます。
2-2. 対人業務の拡充に向けたAIやシステムの活用
AI薬歴による記録業務の自動化や、調剤ロボットによる調剤の自動化は、対人業務へリソースを集中させるための有効な手段です。近年は、服薬指導内容の要約や薬歴入力を支援するAIツールも登場しており、業務の質を保ちながら記録時間を大幅に短縮することが可能になっています。
特に、一包化業務が多い在宅薬局において、調剤ロボットの導入は効果的です。調剤の自動化により、ヒューマンエラーの発生リスクを低減できるだけでなく、確認作業に伴う精神的負担も軽減されます。その結果、薬剤師は患者さんとのコミュニケーションや多職種連携といった、より付加価値の高い業務に時間を充てることができます。
また、AIやシステムの活用は、人材不足への対応や働き方改革の観点からも重要です。残業時間の削減や業務負担の平準化は、薬剤師の定着率向上につながり、長期的には採用コストの抑制にも寄与します。
3. 在宅患者訪問薬剤管理指導料・加算評価の確実な取得
薬剤師1人あたり1時間の在宅業務収益は約4,715円とされ、給与費を下回るケースもあるなど、実際の現場負担は依然として大きいのが実情です(*2)。在宅薬局が利益を最大化するためには、算定可能な加算を確実に取得することが重要となります。
(*2)出典:株式会社日本総合研究所|薬剤師の個人宅向け在宅業務実態に関する大規模調査結果
3-1. 近年の調剤報酬改定における在宅評価の拡充
2024年度の改定では、在宅薬学総合体制加算の新設など、より高度な体制を維持する薬局への評価が明確化されました。
在宅薬学総合体制加算1・2(15点・50点)
24時間対応体制や十分な在宅実績に対する評価。
在宅移行初期管理料(230点)
計画的に在宅患者訪問薬剤管理指導を実施する前の段階で、患者宅を訪問して指導を行った際の評価
在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料1・2(500点・200点)
在宅患者さんの状態が急変した場合などの緊急訪問に対する評価
上記をはじめとする在宅関連加算を算定するには、在宅対応・24時間対応・多職種連携体制の整備が不可欠です。
今後の報酬改定では、がんや腎不全、小児疾患など、より専門的な知識や対応力が求められる患者さんへのサポートに対して、手厚い評価が設定される可能性が高いです。薬剤師のスキルアップや、より高度な在宅体制の整備にも取り組みましょう。
3-2. 加算取得の「見える化」とPDCAの実践
加算を確実に取得するには、薬局の加算取得状況を“見える化”し、未達項目ごとにアクションプランを策定し、PDCAを回す仕組みを整えることが有効です。
| Check(評価) | 加算取得状況や利益率を可視化し、課題を把握する。 |
| Plan(計画) | 具体的な目標を設定して戦略を練る。 |
| Do(実行) | アクションプランを現場に落とし込み、スタッフ一人ひとりに実践してもらう。 |
| Action(改善) | 結果を見て不足部分を補い、PDCAサイクルを回す。 |
目標を数値化し、「いつまでに」達成するのか、そのために「誰が・何をするのか」を明確に示すことがポイントです。現場の行動に落とし込めるように、定期的なミーティングや研修を実施して、薬剤師や事務員への意識づけも忘れずに行いましょう。
| 薬局の利益向上については、以下の記事もご覧ください。
▶薬局経営で利益を増やすために検討したい取り組みと見直しポイント |
4. かかりつけ薬剤師と薬局事務員の育成・タスクシフト
在宅薬局の最大の資本である人材を最適に配置することで、利益率改善が見込まれます。
4-1. 薬剤師から事務員へのタスクシフト
在宅薬局において薬剤師が専門性を十分に発揮するためには、「薬剤師でなくてもできる業務」を明確に切り分け、事務員へのタスクシフトを進めることが不可欠です。薬剤師は臨床判断や服薬指導、多職種との連携といった高度な対人業務に集中し、事務員は調剤補助や在宅業務を支える店舗運営を担うというように、役割分担を明確化することで、薬局全体の生産性が向上します。
タスクシフトを円滑に進めるためには、事務員を「薬局運営を支える専門職」として育成する視点が欠かせません。業務マニュアルやOJT体制を整備し、未経験者でも安心して成長できる研修制度を構築することが重要です。あわせて、一般事務員から店舗リーダー、エリア担当へとステップアップできるキャリアパスを用意することで、モチベーション向上と定着率改善が期待できます。
近年は、薬局事務員においても人材獲得競争が激化しています。業務負担の偏りを防ぐためのチーム体制づくりや、定期的な面談・メンタルケアの実施、働きやすいシフト設計など、職場環境の整備にも取り組みましょう。薬剤師と事務員が対等なパートナーとして協働できる体制を築くことが、在宅薬局の持続的成長を支える土台となります。
4-2. かかりつけ薬剤師の確保と質向上
かかりつけ薬剤師指導料の算定は、患者さんとのエンゲージメントを高め、他局への流出を防ぐだけでなく、在宅移行時のスムーズな受け入れも可能にします。薬剤師には、かかりつけ薬剤師になる意義を伝え、薬剤師本人の地域貢献への意欲を高めていく環境をつくることが大切です。
かかりつけ薬剤師には、認定取得に必要な研修費用の補助や、地域活動への参加を業務として認めるなど、会社を挙げたバックアップが必要です。現状ではかかりつけ薬剤師の要件が厳しく、出産・育児・転職を経た薬剤師の復職を妨げていることも指摘されています(注3)。今後の要件緩和にも期待しつつ、かかりつけ薬剤師の育成に努めましょう。
(注3)出典:株式会社日本総合研究所|薬剤師の個人宅向け在宅業務実態に関する大規模調査結果
| 薬局事務員の育成については、以下の記事もご覧ください。
▶薬局事務員の採用・戦力化・定着の事例とノウハウを人事のプロが紹介! ▶薬局の在宅対応・効率化に必要となる薬局スタッフの成長のためにやっておきたいこと |
5. 利益率の改善と経営の持続可能性
インフレによる経費増に対処するには、構造的な利益率改善が必要です。
5-1. コストの最適化
在宅では、人的コストや移動コストなどが報酬に見合わず、赤字を抱える薬局も少なくありません。こうした課題を克服するには、「効率化」と「評価獲得」を両立させる経営戦略が不可欠です。
人材コストの削減
薬局の人件費削減においては、給与や福利厚生は維持・向上をめざし、「無駄な部分を削ぐ」ことに重点を置くことがポイントです。たとえば、報告書や薬歴システム、在庫管理システムを導入し、残業をなくすことで間接的に人件費を減らせます。また、在宅訪問スケジュールに合わせてシフトを調整するなど、人材配置の過不足をなくすことも大切です。
医薬品コスト
購買力の小さい中小薬局や個人薬局は、医薬品の共同購入や医薬品購入交渉代行サービスを活用することで高い割引率を実現できる可能性があります。また、デッドストック(不動在庫)の解消に向けて、在庫管理を徹底したり、最終的な活用方法を確立したりすることも有効です。
5-2. M&Aによる攻めの経営戦略
今の薬局だけで体制維持が困難な場合、在宅に特化した店舗を新設したり、M&Aによってエリアのシェアを拡大したりすることも有効な選択肢です。
薬局で在宅患者さんが増えすぎると、外来とのバランスが取れなくなり、多忙によりスタッフの関係性も悪化してしまいます。店舗の面積とスタッフの人数、そして在宅患者さんの人数を考慮し、在宅専門店舗の立ち上げも検討しましょう。
在宅専門店舗の新規出店には費用がかかりますが、M&Aで小規模薬局を買収すると、外来+在宅のハイブリッド経営によって、最初から黒字経営でスタートできる可能性もあります。十分に営業戦略を練った上で、さらなる地域貢献を果たしましょう。
| 在宅薬局のM&Aについては、以下の記事もご覧ください。
▶調剤薬局業界のM&Aと事業承継の現状と最新事例 ▶調剤薬局の戦略的M&A急増の背景とメリット |
まとめ
在宅薬局は、インフレや制度改正という外部環境の変化を「経営体質を改善するチャンス」と捉え、サービスの質向上へつなげていきましょう。
在宅医療の需要は、高齢化率が高まる2040年にかけてピークを迎えます。今、在宅体制を整えることは、10年後、20年後の薬局の存続を決定づける重要な投資です。
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