「インフレに負けない在宅薬局」であり続けるために必ず押さえたい5つの施策
物価上昇や薬価引き下げなど、薬局経営を取り巻く環境はますます厳しさを増しています。とくに在宅業務では、人的コストや移動時間の負担が大きく、収益確保に苦慮する薬局も少なくありません。
薬局経営者には、いかに利益率を高め、安定した在宅薬局体制を構築するかが問われています。この記事では、「インフレに負けない在宅薬局」を実現するための5つの施策を紹介します。
1. 地域連携薬局・多職種連携の深化
2. デジタル化&薬局DX推進による業務最適化
3. 在宅患者訪問薬剤管理指導料・加算評価の確実な取得
4. かかりつけ薬剤師と薬局事務員の育成
5. 利益率の改善と経営の持続可能性
まとめ
1. 地域連携薬局・多職種連携の深化
在宅支援体制を強化するには、多職種間の円滑な情報連携が不可欠です。しかし、日本総研の委託調査によると、薬剤師のサービス担当者会議への出席は27.3%、地域ケア会議への出席は10.9%にとどまっています。
画像:日本保険薬局協会|2026年度改定における在宅業務に係る要望事項ー薬剤師の個人宅向け在宅業務実態に関する大規模調査よりー
この参加率の低さは、多職種連携の大きな課題です。在宅移行初期管理料を算定した薬剤師の多くが退院時カンファレンスに出席していたことからも、「在宅初期から医療チームの一員として動く体制の整備」が、多職種連携のポイントといえます。
とくに、地域包括ケアを実現するには、自治体との連携が重要です。地域の健康課題や医療資源を把握する自治体と協働し、健康教育や予防活動に取り組むことで、薬局の社会的役割を拡張できます。
その基盤となるのが、地域連携薬局や健康サポート薬局といった認定薬局制度です。認定取得によって薬局の信頼性が高まり、自治体や医療機関との協働機会が増えることで、地域医療の中での存在感をさらに高められます。
2. デジタル化&薬局DX推進による業務最適化
限られた人員で持続可能な運営を実現するには、デジタル化による業務効率化が欠かせません。「人がやるべき仕事」と「機械に任せる仕事」を明確に分けることで、業務効率化・ヒューマンエラー防止・人件費削減を実現できます。
- 電子処方箋
電子処方箋の活用により、重複投薬や相互作用チェックの精度が向上し、患者安全と効率化が両立します。2025年9月時点で薬局の導入率は85.9%に達する一方、病院16.1%・医科診療所22.5%と、医療機関側の導入率は低水準です(*1)。
今後の報酬改定や制作などが後押しとなって医療機関側も導入に進むことが見込まれるため、薬局はデータ連携への備えを進めるとともに、電子処方箋を活用した薬物療法の最適化について、講義や啓発活動を主体的に行うことも有効です。
- オンライン服薬指導
オンライン診療・服薬指導は、自宅にいながら診察や薬の受取ができるので、デジタルに慣れた若年層から外出困難な高齢者まで、幅広い世代にとって利便性の高いサービスです。近年は、電子お薬手帳や服薬フォローアップなどの機能を備えた、薬局向けのオンライン服薬指導ツールも登場しています。
- AI薬歴
音声認識による自動記録や要約、服薬指導内容の提案、相互作用チェックなどをAIがサポートするシステムです。薬剤師の判断を補助しつつ、記録業務を大幅に削減し、服薬指導の質向上にもつながります。
このほか、調剤ロボットや自動発注システム、自動受付など、薬局DXを推進するさまざまなシステムが登場しています。システム導入にあたっては、具体的な業務効率化の効果を算出して計画的に進めることが大切です。
(*1)出典:デジタル庁|電子処方箋の導入状況に関するダッシュボード
3. 在宅患者訪問薬剤管理指導料・加算評価の確実な取得
2020年・2022年・2024年の各調剤報酬改定では、在宅訪問業務への評価が拡充されてきました。緊急訪問加算や在宅薬学総合体制加算など、在宅薬局の実情を反映した見直しが進んでいます。
一方で、薬剤師1人あたり1時間の在宅業務収益は約4,715円とされ、給与費を下回るケースもあるなど、実際の現場負担は依然として大きいのが実情です(*2)。したがって、在宅薬局が利益を最大化するためには、算定可能な加算を確実に取得することが重要となります。
在宅訪問に関する主な加算としては、「在宅薬学総合体制加算1・2(15点・50点)」「在宅移行初期管理料(230点)」「在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料1・2(500点・200点)」などがあります。
これらを取得するには、在宅対応・24時間対応・多職種連携体制の整備が不可欠です。加算を確実に取得するには、薬局の加算取得状況を“見える化”し、未達項目ごとにアクションプランを策定するなど、定期的なPDCAを回す仕組みを整えましょう。
また、今後の報酬改定では、がんや腎不全、小児疾患など、より専門的な知識や対応力が求められる患者さんへの支援に対して、手厚い評価が設定される可能性もあります。薬剤師のスキルアップや、より高度な在宅体制の整備を進めることも重要です。
(*2)出典:株式会社日本総合研究所|薬剤師の個人宅向け在宅業務実態に関する大規模調査結果
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薬局の利益向上については、以下の記事もご覧ください。 |
4. かかりつけ薬剤師と薬局事務員の育成
人的リソース不足が深刻化する中で、薬局が持続的に在宅業務を担うには、人材育成とタスクシフトが欠かせません。薬剤師が在宅業務に集中できるよう、「薬剤師でなくてもできる業務」については、事務員へのタスクシフトを進めましょう。
かかりつけ薬剤師については、薬局側が認定の取得や地域活動への参加を促すことが重要です。かかりつけ薬剤師になる意義を伝え、薬剤師本人の地域貢献への意欲を高めていく環境をつくりましょう。
現状のかかりつけ薬剤師の要件は厳しく、出産・育児・転職を経た薬剤師の復職を妨げていることも指摘されています(注3)。今後の要件緩和にも期待しつつ、かかりつけ薬剤師の育成に努めましょう。
事務員については、研修やスキルマップを活用し、現状と目標地点を可視化することでモチベーション向上につながります。近年は各サービス業で人材獲得競争が激化しているため、未経験者向けの研修やメンタルケア、キャリアパス制度などを整備し、働きやすい環境を整備することが重要です。薬剤師と事務員がチームとして機能することが、薬局経営の差別化と継続性の決め手となるでしょう。
(注3)出典:株式会社日本総合研究所|薬剤師の個人宅向け在宅業務実態に関する大規模調査結果
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薬局事務員の育成については、以下の記事もご覧ください。 |
5. 利益率の改善と経営の持続可能性
在宅業務は社会的意義が大きく、地域医療の要でもあります。しかしその一方で、人的コストや移動時間、訪問経費などが報酬に見合わず、赤字を抱える薬局も少なくありません。こうした課題を克服するには、「効率化」と「評価獲得」を両立させる経営戦略が不可欠です。
ここまでで紹介したように、薬局DXによる効率化や在宅関連の加算獲得は、利益率改善に直結します。人材配置を最適化し、残業をなくすことで、無駄な人件費も削減できるでしょう。
この他の施策として、医薬品コストの削減や、周知活動による在宅患者獲得も考えられます。在宅患者さんが増えているなら、M&Aを活用した在宅専門店舗の出店も視野に入れることができます。
今後の薬局経営では、やはり在宅医療への貢献が重要な要素です。在宅に適した体制を整えつつ、経営状況を把握しながら、戦略を練りましょう。
まとめ
在宅薬局の推進は、国の医療政策の柱であり、高齢化と医療費増大という社会課題に対する解決策です。今後、在宅医療の需要はさらに増し、報酬面でも在宅薬局が優遇されるでしょう。
昨今のインフレ環境下では、薬局経営の抜本的な見直しが迫られています。地域連携・DX・評価獲得・人材育成・利益率改善——この5つの施策を総合的に進めることで、変化に強く、選ばれ続ける在宅薬局を実現できます。
きらりプライムサービスでは、在宅薬局経営にまつわるお悩みを幅広く受け付けています。加算取得、人材育成や評価制度の構築、在宅患者獲得など、どのようなことでもご相談ください。


