薬局の在宅対応・効率化に必要となる薬局スタッフの成長のためにやっておきたいこと

多くの薬局では薬剤師の育成に力を入れていると思いますが、事務員(調剤事務)についてはどうでしょうか? 在宅医療を成功させるには薬局スタッフの育成が不可欠であり、事務員も例外ではありません。薬剤師から事務員へのタスクシフトを行い、事務員が継続的に成長できる環境を整えることで、効率のよい在宅医療提供体制を構築できます。
この記事では、薬局事務員のキャリアモデルの必要性を述べた上で、きらり薬局での育成事例、キャリアモデル策定のポイントを解説します。事務員の成長やモチベーション維持にお悩みの薬局経営者の方は、ぜひ参考にしてください。
本記事は、2025年5月27日に開催したWEBセミナー「薬局事務員のキャリアモデルの必要性と事例紹介」の内容をもとに作成しています。きらりプライムサービスのセミナー情報は、こちらよりご確認いただけます。 |
1. 薬局事務員のキャリアモデルの必要性
2. きらり薬局の事務員のキャリアモデル
2-1. PC:一般の事務員
2-2. 管理PC:店舗をまとめるリーダー的ポジション
2-3. SVPC:複数店舗をまとめるエリアマネージャー
3. きらり薬局のスキルチェックとは?
3-1. スキルチェックは年2回・正答率8割超が目標
4. 【SVPCが語る】キャリアアップでのやりがいと苦労
5. 薬局事務員のキャリアモデルを策定するポイント
まとめ
1. 薬局事務員のキャリアモデルの必要性
在宅薬局を成功させるには、人材配置の適正化と業務効率化が必要であり、これらを実現するには薬局事務員の協力が欠かせません。しかし、実際の現場では、次のような理由で事務員のモチベーション維持が難しくなっています。
- 仕事が単調でやりがいを感じられない
- 将来的なキャリアプランを描くことができない
- 何をすれば評価されるのかわからない
このような状況を打破するための解決策となるのが、薬局事務員のキャリアモデルの確立です。薬局事務員のキャリアパスを明確化することで、一人ひとりが目標を持てるようになり、スキルアップに自主的に取り組む社風が生まれます。
きらり薬局では、薬局事務員が主体となり、現場視点での業務改善に取り組んでいます。たとえば、「施設患者さんの公費の上限管理表で記載漏れが多い」という課題に対し、薬局事務員が管理表のフォーマットを作成して、薬剤師の書き漏れを防ぐことに成功しました。
薬局事務員のポテンシャルを引き出すことができれば、薬局経営は良い方向へと大きく変わります。経営者視点を持つ薬局事務員を育てるためにも、ぜひキャリアモデルの構築に取り組みましょう。
2. きらり薬局の事務員のキャリアモデル
きらり薬局では、薬局事務員のキャリアモデルを「PC→管理PC→SVPC」の3段階で構成しています。一般の薬局事務員から、徐々にマネージャーポジションへと業務範囲を広げていく仕組みです。
きらり薬局には未経験者で入社する事務員が約8割と多いものの、早ければ1〜2年で管理PC、その後3年ほどでSVPCへとステップアップすることが可能です。
ここからは、それぞれの職種の業務内容について詳しく解説します。薬局事務員のキャリアモデルを構築する際の参考にしてください。
2-1. PC:一般の事務員
きらり薬局に入社した事務員は、まずは一般のPC(ファーマシークラーク)として現場に入ります。
PCの主な業務内容
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PCの業務範囲は、一般的な事務から調剤補助、在庫管理まで多岐にわたります。きらり薬局では、薬剤師以外でもできる業務を、ほぼすべて薬局事務員にタスクシフトすることで、効率的な在宅訪問の業務フローを組み立てています。
調剤補助では、薬剤師の指示を受けてピッキングや錠剤の一包化、ホチキス止めなどを行います。薬剤師の一包化監査をフォローするために、事前の一包化チェックも実施します。
在宅の施設患者さんへの配薬も、薬局事務員の業務です。あらかじめ薬剤師が服薬指導を済ませた上で、PCが処方薬を施設へ配達します。
PCの業務は、きらり薬局事務員の基礎であり、管理PC、SVPCへ昇格しても対応できることが前提となります。
2-2. 管理PC:店舗をまとめるリーダー的ポジション
PCの次は、店舗を取りまとめる管理PCへと昇格します。管理PCは各店舗に1人在籍し、薬局内の事務員(PC)3〜5人を束ねます。
管理PCの主な業務内容
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管理PCは、PCの業務を担いつつ、薬局長の補佐的な立場で、店舗の運営や管理の仕事にも携わります。
日次スケジュールはホワイトボードなどに書き出し、配薬、ピッキング、外来受付など、1日の持ち場を時間単位で決めます。PC一人ひとりのスケジュールを細かく割り振ることで、無駄のない人員配置を実現します。
薬局長不在時の店舗スタッフへの指示出しや、本部からの問い合わせ対応も行います。現時点での調剤報酬の算定回数を把握して、数字の面からも薬局長をフォローし、経営に関する知識を養います。
2-3. SVPC:複数店舗をまとめるエリアマネージャー
SVPC(スーパーバイザー・ファーマシークラーク)は、複数店舗(3〜5店舗)を取りまとめる、いわばエリアマネージャーです。
SVPCの主な業務内容
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SVPCは、管理PCからさらに視点を広げて、エリア店舗の業務改善にも取り組みます。残業の多い店舗の原因を考えたり、スタッフが働きやすい環境づくりに励んだりと、さまざまな改善案を出して薬局運営に関与します。
薬局事務員のメンタルフォローも、SVPCの役割です。一人ひとりの性格を理解した上で、本人の成長を見据えたアドバイスを行います。特に、薬局内では人間関係に悩む人も多いため、SVPCのようにいつでも相談できる存在がいることは、スタッフにとって心強い支えとなります。
また、SVPCは月1回のペースでエリア勉強会を開催し、店舗で実際にあった事例を共有します。この勉強会には、エリア内すべてのPCと薬剤師が参加します。
3. きらり薬局のスキルチェックとは?
SVPCが実施するPCのスキルチェックとは、達成度確認のことです。実技とWEBの2つに大きく分け、それぞれでテストを行います。
実技 |
①入力テスト |
ダミー患者の処方箋を用いて、20分以内に医療・介護の新患入力を行う。スピーディーかつ正確に入力できるかを確認する。処方薬には麻薬や外用薬も含まれる。 |
②保険・公費のテスト |
公費番号の選択や優先順位、介護保険適用になる公費を選択できるか確認する。公費には自治体も含まれる。 |
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③口頭テスト |
1対1で口頭テストを行う。錠剤ピッキングや確認などのルーティン業務、ジェネリック変更、お薬手帳、かかりつけ薬剤師などについて、正しく説明できるか確認する。 |
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WEB |
調剤報酬の算定や加算要件、社内ルールに関する問題を出題。番号選択もしくは〇✖形式で回答する。 |
実技の場合、できなかった部分はその場でフィードバックを行います。WEBテストについては1ヵ月の期間を設け、期間中に間違った部分をPC本人に確認してもらいます。
テスト結果について合格・不合格は出さないものの、現状スキルの確認やスキルの標準化を図る上で、このスキルチェックが役立ちます。
3-1. スキルチェックは年2回・正答率8割超が目標
スキルチェックは年2回、すべてのPCを対象に実施します。定期的にスキルチェックを行うことで、調剤報酬改定への迅速な対応やPC全体のスキルレベルの維持につなげています。
スキルチェックで目標となる正答率は、8割以上です。未経験から薬局事務として入社した場合でも、1〜1年半ほどでこの水準に到達するケースが多く見られます。
SVPCは、すべてのPCが正答率8割以上を達成できるよう、日々の教育・指導に取り組みます。
4. 【SVPCが語る】キャリアアップでのやりがいと苦労
きらり薬局のSVPCのTさんは、2016年2月に入社。2016年10月に管理PC、2019年にSVPCへと着実にキャリアアップを重ねてきました。現在はSVPCとして、毎月PCや管理PCとの面談を行い、一人ひとりの話を聞くことを大切にしながら店舗の経営改善に取り組んでいます。
「PCの頃は自分の店舗のことしか考えられなかったのが、SVPCになってからは複数店舗に視野が広がり、会社全体での自分の役割を意識するようになりました」と語るTさん。PCや管理PCからの質問に即座に答えられるよう、日頃から調剤事務の知識を深め、自己研磨に励むようになったことも大きな変化だといいます。
一方で、苦労した経験もありました。管理PCになった当初は周囲に頼れず、自分一人で残業し、「誰かに任せるより自分でやったほうが早い」と気を張っていた時期もあったそうです。ところが、「仕事を任せなければ後輩も成長しない。店舗全体で力を高めていくことが大切」と気づいてからは、PC一人ひとりの能力を伸ばす視点で業務に取り組むようになりました。
現在も、管理者向け研修への参加や、上司からの助言を受けながら、マネジメントスキルの向上に努めるTさん。キャリアアップを通じて、自身の成長を実感できていると言います。
5. 薬局事務員のキャリアモデルを策定するポイント
薬局事務員のキャリアモデルを策定する際には、単に役職をつくるだけでなく、取り組みや実力をフォローするための包括的な体制づくりがポイントとなります。
- 各ポジションへのフォロー体制の整備
キャリアが上がって「何をすればいいかわからない」という状況を避けるために、各ポジションで相談できるフォロー体制をつくることが大切です。昇格後のOJT期間の設置、管理者向けの研修の実施などにより、管理業務について学べる体制を作りましょう。また、管理PCやSVPCなどの同じ職種同士が交流を持つ機会をつくるのも効果的です。
- 人材評価制度の構築
事務員の取り組みを正しく評価し、適切な人材がキャリアアップできるよう、人材評価制度の設計も欠かせません。ビジネスマナーや社交性、当事者意識、事務スキルなどを評価項目として明文化することで、薬局の方針・理念に沿った事務員を育成できます。また、評価制度を定着させるためには、評価者の意識づくりや評価サイクルの設定といったルール設計も必要です。
きらりプライムサービスでは、薬局の評価制度構築を伴走型でサポートしています。企業の課題抽出から評価項目の設定、評価サイクルのルール設計まで丁寧に支援しますので、評価制度にお悩みの薬局経営者の方はぜひご相談ください。
6. まとめ
在宅医療で効率のよいオペレーションを構築するには、薬局事務員の協力が不可欠です。薬剤師の業務を事務員へとタスクシフトし、事務員が店舗の業務改善に取り組むことで、薬剤師が安心して対人業務に専念できる仕組みが整います。薬局事務員の成長と自主的な学びを支援するためには、事務員のキャリアモデルの策定が有効です。
きらり薬局では、一般の薬局事務員(PC)から、店舗管理者(管理PC)、エリアマネージャー(SVPC)へと進むキャリアパスがあります。定期的なスキルチェックや勉強会を開催し、薬局事務員が常にスキルアップできる環境を整え、一人ひとりの成長を支援しています。
きらりプライムサービスでは、薬局事務員の人材育成や評価制度の構築をサポートしています。在宅医療の人材育成にお悩みの薬局経営者の方は、ぜひきらりプライムサービスにご相談ください。