調剤薬局の戦略的M&A急増の背景とメリット

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近年の調剤薬局業界では、地域医療連携の強化やかかりつけ薬局機能の拡充など、戦略的な目的でM&Aを採用するケースが増えています。大手チェーンだけでなく、中小規模の薬局も積極的にM&Aを活用する動きが見られ、経営改善や成長戦略のひとつとして定着しつつあります。

この記事では、調剤薬局の戦略的M&Aについて、目的別にそれぞれの背景とメリットを整理したうえで、売却側・買収側の双方が検討すべきポイントを解説します。

1. 【目的別】調剤薬局の戦略的M&Aの背景とメリット

近年、調剤薬局業界ではM&Aが急増しており、2016年以降は公表ベースで年間20〜40件、非公表も含めると約1,000店舗で行われていると予測されています。

従来のM&Aは、大手ドラッグストアやチェーン薬局が地域の調剤薬局を買収し、シェア拡大を図るケースが中心でした。しかし近年は、中小規模の薬局経営者も戦略的なM&Aに積極的に取り組む傾向が見られ、M&Aは経営改善や新規サービス展開のための重要な手段となっています。

ここからは、M&Aが行われる主な目的ごとに、その背景とメリットを整理します。

1-1. 地域医療連携の強化

地域包括ケアシステムの構築に伴い、薬局にも医療機関や介護施設との連携が強く求められています。単独の薬局では対応できるエリアや診療科に限界があるため、M&Aによってネットワークを広げる動きが活発化しています。

複数の薬局を傘下に持つことで、在宅医療や24時間対応など地域包括ケアで必要とされる幅広い医療支援の提供が可能となり、医師や介護施設からの信頼獲得にもつながります。


売却側のメリット

買収側のメリット

  • 大手や地域密着型チェーンの傘下に入ることで、在宅医療や24時間対応体制を整備できる

  • 行政や医師会からの評価が高まり、地域医療の一翼を担う薬局として社会的役割を維持できる

  • 経営者の高齢化や人手不足で提供できなかったサービスを、既存スタッフに負担をかけず提供できる
  • 多店舗展開により、医師・介護事業者との連携を強化できる

  • 地域包括ケアへの対応力が向上する

  • 在宅患者支援加算、地域支援体制加算などの取得につながる

1-2. かかりつけ薬局の推進

かかりつけ薬剤師制度は、患者さん一人ひとりに対して継続的な服薬管理や健康相談を行うことを目的としています。かかりつけ機能では、情報の一元的・継続的管理や在宅医療、夜間対応などの体制が求められますが、人的・設備的リソースが不足しやすい小規模薬局は対応が難しいケースも少なくありません。

そこで、M&Aによって規模を拡大し、人材やノウハウを確保することで、かかりつけ機能を強化する動きが広がっています。


売却側のメリット

買収側のメリット

  • 買収先の支援を受けながら、在宅医療や夜間・休日対応などを実現できる

  • かかりつけ機能を持つことで、地域医療における薬局の価値を向上できる

  • 大規模チェーンの教育制度やキャリアパスを活用でき、スタッフの雇用や働きがいを維持できる
  • 店舗網を広げ、地域全体でかかりつけ薬局としての存在感を発揮できる

  • 医師や介護事業者からの信頼が増し、地域包括ケアにおける役割を強化できる

1-3. 個人薬局の買収

高齢化や人口減少を理由に、多くの企業で後継者不足が深刻化しています。2024年時点で、全業種の後継者不在率は52.1%。なかでも薬局を含む医療業は61.8%と、業種中分類別で下位3位に位置しており、依然として厳しい状況が続いています(*1)。

こうした中で、高齢の薬局経営者が引退を考える際に、第三者承継として大手チェーンや近隣薬局に事業を譲渡するケースが増えています。


売却側のメリット

買収側のメリット

  • 後継者がいなくても、患者さんや従業員を守りながら事業を継続できる

  • 地域に薬局を残すことができる

  • 引退後の生活資金を確保できる
  • 既存の患者さんや医師との関係を引き継げるため、ゼロからの新規出店に比べてリスクが小さい

  • 立地条件やスタッフが整った即戦力店舗を獲得でき、投資回収が早い

  • 地域密着型の薬局を取り込むことで、ブランド価値や地域での信頼感を高められる

(*1)出典:株式会社帝国データバンク|全国「後継者不在率」動向調査(2024年)

1-4. 医療モールの拡大

都市部を中心に、医療モール(複数のクリニックと薬局を併設した施設)が増えています。2024年度調剤報酬改定の見直しにより、医療モール内の薬局が調剤基本料2の対象となる可能性がありますが、集客力の高さから、大手チェーンが積極的に買収によるシェア獲得に乗り出すケースも少なくありません。


売却側のメリット

買収側のメリット

  • モール内の立地を確保したまま、安定した経営を承継できる

  • 比較的高いバリュエーション(企業価値評価)が期待できる
  • 医療モールの立地を活かし、幅広い診療科の処方箋を安定的に獲得できる

  • 患者さんの利便性向上につながる

  • 医療機関との一体的な連携を深めることで、長期的な収益確保につながる

2. 売却側の薬局経営者が考えるべきこと

調剤薬局のM&Aで売却を考える際は、スタッフや患者さんへの影響を最大限配慮することが大切です。売却条件を整理し、後悔のないM&Aを実現しましょう。

2-1. 売却の目的と条件を整理する

M&Aを成功させる第一歩は、売却の理由を明確にすることです。後継者不在の解消を目的とする場合と、経営基盤の強化や事業拡大を狙う場合とでは、適切な買い手像が異なります。たとえば、地域医療の継続を重視するなら地元の医療法人や薬局チェーンが望ましい一方で、規模拡大やシナジー効果を重視するなら、全国展開する企業への譲渡も選択肢となるでしょう。

また、売却条件は金額だけではありません。スタッフの雇用維持や待遇、店舗の屋号継続、取引先との関係維持、在宅業務の引き継ぎなど、非金銭的な要素こそ慎重に取り決める必要があります。特に地域密着型の薬局では、スタッフや患者さんとの信頼関係が経営の基盤となっているため、条件設定を誤ると譲渡後の混乱や離職につながりかねません。

売却の目的や条件を整理する際には、専門家による客観的な意見を取り入れることも重要です。税理士やM&Aアドバイザーなどに相談し、希望条件が現実的か、将来の経営環境を踏まえて適切かを検証しておくとよいでしょう。

2-2. 自薬局の強み・弱みを明確化する

M&Aで選ばれる薬局となるためには、薬局の強みを効果的にアピールすることが重要です。具体的には、以下のような点が評価ポイントとなります。

  • 立地条件:病院門前、医療モール内、住宅地立地など
  • 医師との関係性:特定の診療科との結びつきが強い薬局は差別化ポイントになる
  • 在宅医療の実績:地域包括ケアでの役割を提示できる
  • スタッフの専門性・定着率:薬剤師が安定している薬局は評価が高い

一方で、売上の偏り、薬剤師不足、老朽化した設備といった、薬局の弱みも明確にしておく必要があります。強みと弱みの両方を可視化することで、買収側もリスクを把握しやすくなり、交渉がスムーズに進みます。

2-3. スタッフと患者さんからの理解を得る

M&Aを進める際は、スタッフや患者さんに対して事前に丁寧な説明を行い、譲渡後も安心して働き・通院できる環境を整えることが不可欠です。

M&Aが決定する前の段階から、スタッフには経営者の意図や目的、譲渡後の方針について可能な範囲で説明します。給与水準や勤務条件が大きく変わらないことや、職務内容やシフト体制の継続性を示すことも大切です。譲渡後の管理薬剤師や店舗責任者が誰になるか、研修やキャリアパスの見通しも共有すると安心感が高まります。

患者さんに対しては、メッセージ配信や店頭での案内などを活用し、「薬局がなくなるわけではなく、より充実したサービス体制になる」ことを伝えましょう。在宅医療や夜間対応など、新たに提供可能となるサービスがあれば積極的に周知することで、信頼維持につながります。

従業員や患者の理解を得られないままM&Aを進めると、買収成立後にスタッフの離職や患者離れが生じ、薬局の価値や地域での信頼を損なうリスクがあります。事前準備と丁寧な説明を通じて、譲渡後もスムーズに運営が継続できる環境を整えることがM&A成功の鍵です。

3. 買収側の薬局経営が考えるべきこと

薬局を買収し、店舗数を拡大したからといって、必ずしも経営がうまくいくとは限りません。M&Aを成功させるには、計画的な行動と細やかな配慮が必要です。

3-1. 買収の目的と戦略を明確化する

無計画に買収を無計画に繰り返すと、投資負担だけが膨らみ、経営悪化につながるリスクがあります。M&Aを成功させるためには、買収のタイミングの見極めと、目的に応じた店舗の選定が不可欠です。

たとえば、在宅医療やかかりつけ機能の強化が目的の場合は、地域密着型の小規模薬局を選ぶことで既存店舗との連携がスムーズになり、サービス提供の効率化が期待できます。収益基盤の安定を重視する場合は、集客力の高い医療モール型の薬局が買収対象の候補となるでしょう。

買収対象の優先順位を明確にする際には、以下のチェックリストを参考にしてください。

買収選定チェックリスト

立地条件

  • 既存店舗からのアクセス
  • 医療機関や地域住民の利便性

処方箋の傾向

  • 処方箋枚数や診療科が自社戦略と合致しているか
  • 特定疾患や高負荷化価値処方箋への対応力

スタッフ体制

  • 薬剤師や事務員のスキル・定着率
  • 人材不足や離職リスク

設備・システム

  • 薬歴システムや在庫管理システムの整備状況
  • 既存店舗との統合にかかるコスト

財務・収益状況

  • 売上や利益率は安定しているか
  • 借入や負債状況は健全か

地域との関係性

  • 医療機関や介護施設との信頼関係の有無
  • 患者さんとのコミュニケーションの質

買収案件は、薬局の中長期的な経営戦略と一致しているかを慎重に見極めることが大切です。薬局の方向性と合致していれば、M&Aによるシナジー効果を最大限に発揮することができます。

3-2. 中長期的な統合計画を組む

薬局のM&Aは契約成立がゴールではなく、その後の統合作業(PMI:Post Merger Integration) が成否を左右します。統合が不十分だと、スタッフの離職や医療機関との関係悪化などが生じる恐れがあります。

統合計画の策定にあたっては、以下のステップを参考にしてください。

  • システム統合の早期実施

電子薬歴や在庫管理システムを統合し、業務効率を確保します。データの移行や操作研修を計画的に行うことで、スタッフの混乱を最小化できます。

  • スタッフの役割明確化と教育体制の整備

買収店舗の薬剤師や事務スタッフの役割を整理し、適切な人員配置を行います。研修制度を整備し、新たな業務フローや方針を共有し、スムーズな移行を進めます。

  • 差別化戦略の検討

地域のドラッグストアや大手チェーンとの差別化ポイントを明確にし、薬局のアイデンティティを確立します。在宅医療やかかりつけ薬局機能、専門薬剤師の在籍など、自社の強みを活かしたサービス展開を図りましょう。

  • 段階的なロードマップの設定

1年、3年、5年ごとの目標を設定し、段階的に統合を進めるロードマップを作成します。KPI(重要業績評価指標)や進捗管理を導入し、計画の達成度を定期的に確認します。

適切なPMIを実行することで、コスト削減や業務効率化、サービス品質向上、そして患者さんや医療機関からの信頼獲得にもつながります。統合にかかる時間はM&Aの規模によるものの、6ヶ月〜1年を目安にするとよいでしょう。

3-3. 買収店舗と関係のある医療機関や施設と関係を構築する

在宅薬局を運営する場合、医師・介護施設・訪問看護ステーションなどとの信頼関係は、経営の基盤を支える重要な要素です。この関係が途切れると、処方箋の減少や在宅依頼の減少につながり、薬局経営そのものに影響を及ぼしかねません。

買収にあたっては、事前の情報共有と丁寧な対応が不可欠です。以下のステップを参考に、関係構築を進めましょう。

  • 譲渡背景と今後の運営方針の説明

買収前に、主要な医療機関や施設へ、譲渡の経緯や今後の運営方針を丁寧に伝えます。透明性のある情報提供は、信頼関係維持の第一歩です。

  • 新しい経営陣・管理薬剤師の訪問

新体制の薬局責任者が直接訪問し、挨拶や自己紹介を行うことで“顔の見える関係”を構築します。医療機関との日常的なコミュニケーションの土台を作ることが重要です。

  • 情報共有体制の強化

処方箋の引き継ぎや患者情報の管理など、システムやルールを整備し、情報共有を円滑に行います。定期的な報告や連絡体制を整えることで、信頼関係をより強固にできます。

このような対応を積極的に行うことで、従来以上に強固な医療機関との関係構築が可能となり、買収後の薬局経営の安定化につながります。

4. まとめ

これまでM&Aは、大手チェーンやドラッグストアが事業拡大のために活用するケースが中心でした。しかし近年では、中小規模の薬局でも事業承継や経営改善の手段として、戦略的にM&Aを活用する動きが広まっています。

売却側にとっても、M&Aは単なる「身売り」ではなく、患者さん・薬局経営者・薬局スタッフの三方にとってよりよい未来をつくる選択肢です。調剤薬局のM&Aには、地域医療連携の強化、かかりつけ薬局の推進、個人薬局の承継など、目的ごとに異なるメリットがあります。買収・売却を進める際には、目的を明確にしたうえで、計画的に進めることが重要です。

きらりプライムサービスでは、調剤薬局のM&Aに関する情報提供や経営相談を承っております。「経営改善に悩んでいる」「薬局の将来を見据えてM&Aを検討したい」という薬局経営者の方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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