薬局経営の生産性を高める3つの視点 「業務分担」「DX」「報酬改定」
物価高や人材不足、そして次期調剤報酬改定。薬局経営を取り巻く環境がめまぐるしく変わる中で、生産性の高い薬局経営が求められています。より多くの地域住民に貢献できるよう、薬剤師が専門性を最大限に発揮できる環境をつくることが重要です。
本記事では、薬局の生産性を高めるための3つの視点として、「業務分担」「DX」「報酬改定」を軸に、実践的なアプローチと次期改定への備え方を解説します。経営効率と医療の質を両立させたい薬局経営者の方は、ぜひ参考にしてください。
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本記事は、2025年9月26日に開催したWEBセミナー「生産性から考える薬局経営 ~業務分担・DX・報酬改定の視点~」の内容をもとに作成しています。KIRARI PRIMEのセミナー情報は、こちらよりご確認いただけます。 |
1. 薬局の生産性向上が重要な理由―患者貢献と利益追求の両立
2. 薬局の生産性を上げる3つの視点
2-1. 薬剤師から事務員へのタスクシフト
2-2. 薬局DX(デジタルトランスフォーメーション)
2-3. 2026年度調剤報酬改定に向けて
3. 生産性を向上させるためのロードマップ
3-1. ①現状の見えるかと業務の棚卸
3-2. ②タスクシフトとDX導入
3-3. ③対人業務への注力と戦略的経営
まとめ
1. 薬局の生産性向上が重要な理由―患者貢献と利益追求の両立
薬局経営において、利益を上げることは、患者貢献と対立するもののように受け取られることもあります。しかし実際には、利益の確保をなくして、持続的な地域貢献を実現することはできません。薬剤師や事務員の雇用を守り、より良いサービスを提供するためにも、経営的な視点は不可欠です。
薬局スタッフの能力を引き出すためには、明確な目標設定が必要となります。そのために有用となるのが、調剤報酬です。「加算算定を20%増やす」といった具体的な目標は、薬局全体の共通目標となり、日々の行動に方向性を与えます。
調剤報酬の算定要件は、国がめざす医療の方向性を示すものです。加算を積極的に算定することは、国の医療政策へ貢献するだけでなく、患者さんにより質の高い医療を提供することにつながります。薬局は堂々と加算を算定し、より良い医療提供体制を築いていくことで、患者さんへの貢献と経営の安定の両立を実現できます。
2. 薬局の生産性を上げる3つの視点
薬剤師が専門性を発揮するには、調剤や事務作業に追われない仕組みづくりが欠かせません。タスクシフトやDX、自動化、外部委託などを組み合わせ、生産性を高める3つの視点を紹介します。
2-1. 薬剤師から事務員へのタスクシフト
対人業務、とくに在宅医療を強化するには、薬剤師が専門業務に集中できる体制が必要です。そのために重要となるのが、事務員へのタスクシフトとなります。
きらり薬局では以前から、「薬剤師の専門業務」と「事務が担当できる業務」を明確に線引きし、調剤以外の多くの工程を事務員が担っています。
きらり薬局における薬剤師・事務員の業務分担(在宅)
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処方箋受付 |
事務員 |
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処方監査 |
薬剤師 |
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処方箋入力 |
事務員 |
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ピッキング |
事務員 |
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一包化 |
事務員 |
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数量監査 |
事務員 |
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最終監査 |
薬剤師 |
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セット |
事務員 |
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セット確認 |
事務員 |
※一包化と数量監査は、薬剤師資格を持つスタッフの指示・管理の下で行う必要があります。
在宅業務の受付・調剤プロセスのうち、薬剤師が関わるのは、監査・チェック業務のみ。これにより、薬剤師は服薬フォローや在宅訪問といった本来の対人業務に集中できるようになっています。
タスクシフトを進めるには、事務員の教育体系を見直すことも重要です。OJT(実務研修)とoff-JT(座学研修)の両輪で育成し、「経験×知識」で判断できる人材を育てることで、薬局全体の生産性を押し上げることができます。
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薬局事務員の育成については、以下の記事もご覧ください。 |
2-2. 薬局DX(デジタルトランスフォーメーション)
次に注目すべきは、業務の自動化とデジタル化による効率化=薬局DXです。近年は、あらゆるメーカーが薬局DXを推進するシステム開発に取り組んでいます。
たとえばAI薬歴は、音声認識による自動記録や要約、服薬指導内容の提案、相互作用チェックなどをAIが支援するシステムです。過去薬歴からのアドバイス生成も可能で、薬剤師の判断を補助しつつ、記録業務を大幅に削減します。
さらに、RPAを導入すれば、繰り返し発生するPC業務の自動化が可能です。レセプト処理、薬歴転記、在庫照合など、定型的な操作をロボットが代行することで、事務員の業務効率が各段にアップ。人的リソースを対人業務に再配分することができます。
このほか、薬局向けのオンライン服薬指導ツールや、自動受付機も普及が始まっています。部分的に人材が不足している場合は、このようなツールを導入することで解決できる可能性もあります。
2-3. 2026年度調剤報酬改定に向けて
2025年9月10日、来年度の調剤報酬改定に向けて、中央社会保険医療協議会(中医協)総会が開催されました。2026年度調剤報酬改定では、引き続き、かかりつけ機能や在宅医療への貢献が重要テーマとして扱われます。
「地域支援体制加算」については、現状「加算1」でとどまる薬局が多く、1と2の点数差を拡大することが検討されています。また、「調剤後薬剤管理指導料」や「薬学総合体制加算」は、在宅需要と算定薬局の増加を理由に、次回の報酬改定で地域支援体制加算の評価要件に含まれる可能性も指摘されています。
来年度の報酬改定は、かかりつけ機能・在宅業務の実績がより重視され、さらに地域貢献の流れが強まる見通しです。薬局は地域医療の中で、自らの存在価値を証明していく必要があります。薬局経営者には、「効率化によって生まれた時間を、どれだけ地域や患者さんに還元できるか」という視点で、経営戦略を再設計することが求められるでしょう。
出典:厚生労働省|中央社会保険医療協議会 総会(第616回) 議事次第
3. 生産性を向上させるためのロードマップ
ここでは、薬局経営の生産性を高めるための具体的なステップを紹介します。薬局経営の見直しと戦略策定の参考にしてください。
3-1. ①現状の見えるかと業務の棚卸
まず、現場の業務量と担当者を洗い出し、「誰が、何を、どれくらいの時間で行っているか」を明確にします。
次に、「薬剤師にしかできない業務」と「事務でもできる業務」を区分し、理想的な業務設計を行いましょう。「人が足りないからできない」ではなく、「教育課程を整備すれば、事務員に任せられる」というように、理想をベースにして実行手段を考えていくことがポイントです。
そして、Excelなどを用いて、削減できる時間や生産性向上率を試算します。導入効果を数値で可視化することで、「やってみたけど効果が見られない」という残念な結果を防ぎましょう。
3-2. ②タスクシフトとDX導入
続いて、段階的な導入スケジュールを策定します。業務分担は明文化し、「誰がどこまで担当するか」を手順書に落とし込んで共有することが重要です。
スタッフの意見を取り入れるため、定期的なミーティングやアンケートを実施し、現場が納得して進められる環境を整えます。特定の人の意見だけでなく、スタッフ全員の声に耳を傾けることが大切です。
3-3. ③対人業務への注力と戦略的経営
業務効率化によって生まれた時間を、何に充てるのかを具体化しておきましょう。「かかりつけ対応」「在宅訪問」「服薬フォローアップ」など、これまで十分に取り組めていなかった対人業務に充てることで、薬剤師の専門性を最大限に発揮できます。
生産性指標を定期的にモニタリングし、進捗を見える化することも継続のポイントです。計画が停滞している場合は早期に修正を図り、目標を達成する意思を持って取り組みましょう。
そして最も重要となるのが、経営者や管理者が「なぜこの取り組みを行うのか」を、繰り返し発信し続けることです。新しい仕組みの導入には、必ず抵抗が生まれます。だからこそ、「薬剤師の対人業務を確保し、患者さんにより良い医療を届けるため」という理念を明確に伝えることが大切です。目的と意義を共有することで、薬局スタッフ全員が同じ方向を向いて行動できる、強い組織文化が育まれていきます。
まとめ
薬局の生産性向上は、薬剤師が患者さんと向き合う時間を増やし、よりよいサービスを届け続けるための経営戦略です。「時間の創出」「ミス削減」などの明確な目的をもって、段階的な計画を策定しましょう。
調剤報酬改定では、今後さらに地域貢献への実績が求められる可能性が高く、生産性向上と医療サービスの質向上を両立していくことが重要です。タスクシフトやDXの導入などの取り組みを通じて、薬剤師が専門性を最大限に発揮できる環境を整えることが、患者さんの満足と経営安定の両立につながります。
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