「薬局のカスハラ対策」の現状と薬剤師を守るために必要なこと

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近年、顧客(患者さん)からの理不尽な要求や暴言、暴力などが、単なるクレームの域を超えた「カスタマーハラスメント(カスハラ)」として社会問題化しています。薬局は、医療サービスと接客の境界があいまいになりやすいため、カスハラが発生しやすい現場のひとつです。

この記事では、薬局におけるカスハラの実態と、薬剤師・事務員を守るための具体的な対策を解説します。

1. 薬局のカスハラとは?

カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、顧客から職員に対して行われる、暴言・脅迫・過剰な要求・威圧的行動などによって、従業員の就労環境を害する行為のことです。薬局では、待ち時間や薬の在庫、服薬指導の内容、ジェネリック選択などを理由にトラブルへ発展するケースが多く見られます。

日本薬剤師会によるアンケート調査(*1)によると、2025年春までの約1年で、薬局業務におけるカスハラの事例が多数報告されています。

主な行為として、次のような内容が上位を占めています。

  • 大声、暴言、脅迫的言動:62.2%
  • 過剰、不当な要求:42.0%
  • 不当なクレーム(調剤や販売等) :31.6%
  • 長時間の拘束:27.9%
  • 人格否定、侮辱的言動:27.8%

被害者の約8割は薬剤師ですが、事務員や店舗責任者が巻き込まれるケースも少なくありません。また、トラブルが「解決した」のは約5割にとどまり、「解決していない」「不明」という回答も多く、現場の厳しさがうかがえます。

(*1)出典:公益社団法人日本薬剤師会|薬局業務におけるカスタマーハラスメント発生時の対応事例に係る アンケート調査結果報告

2. カスハラ被害による薬剤師・事務員への影響

薬局スタッフが受けるカスハラは、心身の負担だけでなく、医療安全にも直結する深刻な問題です。

  • 精神的なストレス・不調

暴言や威圧的態度が続くと、メンタル不調や睡眠障害を引き起こすことがあります。特に女性職員は、恐怖心から休職や離職に追い込まれるケースも報告されています。

  • 業務効率の低下

長引くクレーム対応で調剤業務や受付が滞り、他の患者さんへの対応が遅れることで、さらなる不満やクレームにつながりやすくなります。

  • 医療事故のリスク増加

カスハラ発生時はスタッフの集中力が著しく低下し、調剤ミスや説明漏れの危険性が高まります。医療安全の観点からも放置できない問題です。

  • 離職・人材不足の加速

「患者さんの言動が怖い」「守ってもらえない」と感じた薬剤師や事務員が退職するケースもあります。カスハラが常態化すると人材が定着せず、慢性的な人手不足につながりかねません。

3. 薬局のカスハラを防ぐための対策

カスハラについて、薬剤師からは「実際の調剤拒否の事例集や運⽤指針が欲しい」「拒否できる接客⾏為の定義を設けてほしい」といった声も挙がっています(*2)。現場に立つ薬剤師や事務員にとって、カスハラ対策は一刻も早く取り組んでほしい課題です。

ここからは、薬局で取り組むべき具体的な対策を紹介します。

(*2)出典:公益社団法人日本薬剤師会|薬局業務におけるカスタマーハラスメント発生時の対応事例に係る アンケート調査結果報

3-1. 薬局の基本方針を策定する

まず、「カスハラを許容しない」という姿勢を明文化し、薬局の基本方針として掲げることが重要です。院内掲示やホームページで周知することで、患者さんにも薬局の方針を明確に伝えられます。

基本方針には、以下のポイントを含めましょう。

  • 不当要求・暴言などのハラスメントを認めない
  • 医療安全を最優先とする
  • 迷惑行為があった場合の対応方針(退店要請・警察相談など)

薬局としての方針が明確にあることで、スタッフが「組織に守られている」と感じやすくなり、心理的安全性も高まります。

日本薬剤師会が公開しているカスタマーハラスメント防止啓発ポスターも、ぜひ活用してください。

3-2. カスハラ対応マニュアルを作成する

次に、実際の対応手順をまとめた「カスハラ対応マニュアル」を整備します。マニュアルは、現場が迷わず対応できるよう、場面ごとに判断基準や対応フローを明確化しておくことがポイントです。

マニュアルに盛り込みたい内容の例

  • カスハラのよくある事例(待ち時間、在庫、服薬指導への不満など)
  • 初期対応の方法
  • 言い返さず、落ち着いた言葉で伝えるフレーズ集
  • 記録・報告の手順(日時・発言内容・状況の記載など)
  • 警察通報や出禁対応などの対応基準

マニュアルの作成にあたっては、厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」も参考にできます。

3-3. カスハラ対策研修を実施する

マニュアルは作って終わりではなく、研修によって現場で使えるスキルとして定着させる必要があります。

研修では、以下のような内容を取り上げるとよいでしょう。実際にカスハラを経験した場合は、情報共有を兼ねて対応を振り返るのも有効です。

  • カスハラと通常クレームの違い
  • 初動対応のロールプレイ
  • 言葉の選び方・距離の取り方
  • 怒りをエスカレートさせない会話技法
  • ほかの社員がカスハラを受けている場面での対処方法

日頃からカスハラの認識を持つことで、いざというときに適切な対応ができるようになります。薬局スタッフが一丸となり、カスハラ対応を一人で抱え込ませないことが、薬局全体の安全性を高めます。

3-4. エスカレーション体制を明確化する

カスハラの現場で最も困るのは、「どこまで自分で対応すべきか」という判断です。エスカレーション基準を明確にすると、迷いなく対応できます。

レベル1

改善の余地があるクレーム→スタッフが対応

レベル2

暴言・威圧的態度がある→管理者に即時報告

レベル3

脅迫・器物破損・危険行為が見られる→警察通報を含め対応

このような基準があると、薬剤師や事務員が状況をスピーディーに判断でき、被害を最小限に食い止めることが可能です。

必要に応じて、外部の弁護士・社労士・産業医と連携し、精神面のフォローや法的助言が得られる体制を整えておくと、よりスタッフの安心感が高まります。

まとめ

薬局におけるカスタマーハラスメント(カスハラ)は、単なる接客トラブルではなく、医療の質・スタッフの安全・離職問題に直結する深刻な社会問題です。

薬剤師や事務員を守るためには、カスハラを許さない基本方針の策定、カスハラ対応マニュアルの整備、研修・相談窓口を通じたスタッフ支援、エスカレーション基準の明確化と組織対応などがポイントとなります。

薬局が安全で働きやすい場所であるためには、スタッフが安心して業務に集中できる環境づくりが重要です。カスハラ対策は、薬局のリスク管理であると同時に、地域医療の質を守るための取り組みでもあります。

きらりプライムサービスでは、在宅薬局経営のトータルサポートを行っています。カスハラのマニュアル作成や研修実施などをお考えの薬局経営者の方は、ぜひご相談ください。

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