薬局や病院が注目する「フォーミュラリー」導入のポイントとメリットを解説
近年、顧客(患者さん)からの理不尽な要求や暴言、暴力などが、単なるクレームの域を超えた「カスタマーハラスメント(カスハラ)」として社会問題化しています。薬局は、医療サービスと接客の境界があいまいになりやすいため、カスハラが発生しやすい現場のひとつです。
この記事では、薬局におけるカスハラの実態と、薬剤師・事務員を守るための具体的な対策を解説します。
1. 「フォーミュラリー」とは?
2. フォーミュラリーの種類
2-1. 院内(病院)フォーミュラリー
2-2. 地域フォーミュラリー
3. フォーミュラリー導入のステップ
3-1. ①作成組織の設置
3-2. ②現状の状況や実績の分析
3-3. ③収載薬の選定
3-4. ④多職種での合意形成
3-5. ⑤運用・改善
4. フォーミュラリー導入のメリット
まとめ
1. 「フォーミュラリー」とは?
フォーミュラリーとは、医薬品の有効性・安全性・経済性・供給安定性などを比較し、科学的根拠に基づいて選定した標準薬のリストです。欧米では一般的な仕組みであり、日本でも医療費増加や地域包括ケアの推進、重複投薬・多剤併用といった課題を背景に導入が広がっています。
医師・薬剤師・看護師などの多職種が協議しながらフォーミュラリーを作成することで、同効薬の整理や処方の均質化が可能となります。医療安全の向上、在庫管理の効率化、薬剤費削減など、医療機関全体の運営改善につながる点が大きな特徴です。
2. フォーミュラリーの種類
フォーミュラリーには、主に「院内フォーミュラリー」と「地域フォーミュラリー」の2種類があります。
2-1. 院内(病院)フォーミュラリー
院内フォーミュラリーとは、病院が院内の薬剤使用状況を踏まえて、独自に作成するものです。薬剤部門が中心となり、医師や看護師など多職種が意見を出し合いながら策定します。
院内フォーミュラリーの意義
- 院内での処方基準を明確化
- 同効薬を整理し、標準治療の定着を促進
- 医薬品の在庫管理が最適化
- 類似薬を減らし、取り違えなどの医療安全を向上
特に、降圧薬・糖尿病薬・コレステロール治療薬などの生活習慣病薬や抗菌薬といった、使用頻度が高い医薬品で院内フォーミュラリーの導入が進んでいます。
2-2. 地域フォーミュラリー
地域の病院・クリニック・薬局が、共同で策定するものです。高齢化に伴い、患者さんが複数の医療機関を受診するケースが増える中、地域全体で標準薬を共有する取り組みとして重要性が増しています。
厚生労働省の調査によると、2025年5月時点における地域フォーミュラリーの策定件数は18件です。参加主体で見ると薬剤師が15件と最も多く、次いで医師会13件、歯科医師会12件となっています。薬剤師会が中心的役割を担うケースも多く、薬局・薬剤師が地域フォーミュラリー推進の主要プレイヤーであることがわかります。
地域フォーミュラリーの意義
- 地域全体で標準治療薬を統一し、医療安全を向上
- 地域医療費の適正化に貢献
- 多施設間での治療方針のばらつきを抑制
- 地域包括ケアでの薬剤管理を円滑化
地域フォーミュラリーの作成過程で、地域包括ケアにおける薬局・薬剤師の役割もさらに明確になります。
出典
厚生労働省|フォーミュラリの運用について(保医発0707第7号)
厚生労働省|地域フォーミュラリの作成状況の調査結果
3. フォーミュラリー導入のステップ
フォーミュラリーの策定には、エビデンスに基づく比較評価、多職種連携、透明性の確保が不可欠です。ここでは、フォーミュラリーの導入のステップを解説します。
3-1. ①作成組織の設置
医師・薬剤師・看護師・病院管理者などの関係者間で、利益相反の開示など透明性を確保しつつ、フォーミュラリーの作成組織を設置します。地域フォーミュラリーの場合は、医師会・薬剤師会・歯科医師会に加え、地域の実情に応じて行政や保険者も関与することが望ましいとされています。
実際の地域フォーミュラリーの組織例として、以下のような体制が採用されています。
- 三師会(医師会・歯科医師会・薬剤師会)が主導(大阪府八尾市、茨城県つくば市)
- 中核病院が主導し、医師会と薬剤師会が連携(宮城県仙台市)
- 地域医療連携推進法人が主導(山形県北庄内)
フォーミュラリーの導入範囲に取り決めはないため、地域の医療資源や課題、人口構成などの実情に応じて、作成組織が自由に決定しても構いません。
出典:厚生労働省|フォーミュラリの運用について(保医発0707第7号)
3-2. ②現状の状況や実績の分析
フォーミュラリーの策定にあたって、現状把握と課題抽出を行います。医療機関や薬局、地域で使用されている医薬品の実態を正確に把握し、どの薬効群を優先的に検討すべきかを明確にします。
具体的には、以下のデータを体系的に収集・分析します。
- 薬剤使用量
- 医薬品費
- 同効薬の種類と処方のばらつき
- 副作用発生状況
特に、生活習慣病治療薬・抗アレルギー薬・抗菌薬といった「同効薬が多く処方のばらつきが生じやすい薬効群」は、見直しの優先対象となりやすい領域です。これらの薬効群は患者数が多く、費用にも大きな影響を与えるため、フォーミュラリー導入の効果が可視化しやすいという利点もあります。
3-3. ③収載薬の選定
収載薬の選定では、科学的根拠に基づき、合理的かつ患者さんにとって最適な薬剤を選ぶことが求められます。選定の際は、有効性・安全性・経済性に加えて、実際の臨床現場で使われる上での利便性や供給安定性も踏まえて、多角的に評価します。
収載薬選定の主な評価ポイント
- 有効性・安全性
- 経済性
- 適応範囲の広さ
- 製剤の特性(服用回数、副作用プロファイル)
- 製造販売業者の安定供給体制
後発医薬品を優先する場合もありますが、フォーミュラリーは「価格が最も低い薬を選ぶ」ことが必須ではありません。有効性・安全性を第一に、経済性を適切に考慮することが原則です。
また、選定にあたっては、システマティックレビュー(例:Cochrane Library)や海外の臨床ガイドラインの活用が推奨されています。ただし、海外の情報を使う場合は、国内の適応範囲や使用実態の違いに注意が必要です。
また、地域や医療機関の実情に適したフォーミュラリーとするためには、地域の医師への意見収集や実際の処方状況のヒアリングが不可欠です。現場の声を反映することで、実際に運用しやすく、導入後の定着率も高まります。
3-4. ④多職種での合意形成
フォーミュラリーを円滑に運用するためには、医師・薬剤師・看護師・医療機関管理者に加え、地域フォーミュラリーの場合は医師会・薬剤師会・自治体など、幅広い関係者との合意形成が不可欠です。地域全体で医薬品使用の最適化をめざす以上、関係者が同じ目的と基準を共有していることが重要になります。
厚生労働省のガイドラインでは、作成したフォーミュラリーを地域の医療機関や薬局、医療関係団体へ十分に周知し、必要に応じて説明会を実施することが推奨されています。背景や選定理由を丁寧に伝えることで、現場の医療従事者が迷わず活用できるようになります。
また、フォーミュラリーはあくまで推奨薬剤のリストであり、使用を強制するものではない点を明確に説明することも重要です。「治療中の患者さんを無理に切り替える必要はない」と伝えることで、丁寧な合意形成と地域一体となった薬物療法が実現します。
3-5. ⑤運用・改善
フォーミュラリーは、継続的な更新と改善が必要です。新薬の薬価収載(年4回)や後発医薬品の追加収載(年2回)、診療ガイドラインの改訂など、薬物療法の状況は常に変化するため、定期的な見直しが欠かせません。
また、運用の透明性を確保するため、COI(利益相反)の管理も重要です。選定の経緯、検討メンバー、製薬企業との関係などを定期的に公表し、日本医学会などの基準に沿ったCOI管理を徹底します。
更新のタイミングとしては、
- 新薬・後発品の収載時
- 診療ガイドライン改訂時
が目安となります。常に最新の医療知識や標準治療を反映することで、フォーミュラリーの信頼性を維持できます。
さらに、現場での活用状況のフィードバックも有効です。医療機関や薬局からの意見を集め、運用上の課題や誤解、改善すべき薬剤などを把握し、次回の改訂に反映させます。こうしたPDCAを回すことで、地域医療に根付いた実効性の高いフォーミュラリーとなります。
4. フォーミュラリー導入のメリット
フォーミュラリーの導入により、医療機関・薬局・患者さんそれぞれに多くのメリットが生じます。
- 医療の質向上
医薬品の選択基準が統一されるため、担当医師によって処方内容が大きく変わるような治療のばらつきが減っていきます。効果や安全性について科学的根拠のある薬が推奨されるため、患者さんにとってより適切な治療が受けやすくなるのも大きなメリットです。医師や薬剤師にとっても、同効薬の中から迷う時間が減り、判断の負担を軽くできます。
- 薬剤費の適正化
同じ効能を持つ薬を整理し、より費用対効果の高い薬を優先することで、医療機関全体の薬剤費を抑えられます。地域フォーミュラリーであれば、地域全体で医療費の適正化に取り組むことができ、持続可能な医療体制の構築にもつながります。
- 医療安全の向上
類似した薬が多数存在すると、取り違えなどのヒヤリ・ハットが発生するリスクがありますが、フォーミュラリーによって薬が整理されることで、そのリスクを大幅に減らすことができます。また、薬剤が見直されて統一されることで、患者さんが薬を理解しやすくなり、服薬アドヒアランス(飲み忘れ防止)も改善します。
薬局では、処方内容に一貫性が生まれることで調剤の効率が高まります。採用品目が整理されるため在庫管理が容易になり、欠品リスクの軽減にもつながります。さらに、薬剤師が医療機関とともに標準治療の策定に関わることで、専門性の向上や地域医療への参画といった効果も期待できるでしょう。
まとめ
フォーミュラリーは、医療機関・薬局・地域が協力し、エビデンスと多職種の合意に基づいて「標準的に使用する薬」を定める仕組みです。医療の安全性向上、薬剤費の適正化、在庫管理の効率化など多面的なメリットをもたらし、地域包括ケアが進む現在の医療において重要性が高まっています。
地域フォーミュラリーは、病院・診療所・薬局・行政・医師会・薬剤師会などが協力して策定され、地域全体で薬物療法を標準化することで、患者さんの安全性向上や負担軽減に大きく寄与します。
今後はICTを活用した情報共有や、多職種連携の強化によって、フォーミュラリーは地域医療の共通言語としてますます重要な役割を果たすようになるでしょう。医薬品の適切な評価や選定において、薬局・薬剤師の専門性がさらに発揮されることが期待されます。
きらりプライムサービスでは、在宅薬局・地域密着型薬局の経営を支援しています。2025年12月23日には、「地域フォーミュラリ推進の現状と展望~地域の薬剤師が果たすべき役割とは~」と題したセミナーを開催。(日本フォーミュラリ学会副理事長の小池博文氏を招いて、地域包括ケアシステムの現状と地域フォーミュラリ推進の展望や、薬局と薬剤師が果たすべき役割について事例を交えて解説します。
このセミナーに興味がある方は、こちらの申し込みフォーム(https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSerJyr4Thwgi5X4y1OVpUZu19MeSaXA_8NQl-1CGLxCvT4nFg/viewform)で概要をご確認ください。フォーミュラリーの導入や多職種連携に関するご相談も承っていますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

