調剤薬局のマーケット動向と生き残り戦略【2025年最新版】
調剤薬局の数は全国で約6万軒に達し、コンビニエンスストアの数を上回りました。大手チェーンから中小規模薬局まで、業界全体で競争が激化しています。さらに、大手ECサイトが医薬品販売やオンライン服薬指導に参入したことで、従来の「薬局の価値」が問われる時代になりました。
厚生労働省は、在宅医療やかかりつけ薬局、地域連携、健康サポート機能の強化を推進しています。2025年以降は、高齢者人口の増加と通院困難者の増加により、在宅医療への対応が薬局の生き残りを左右する要因となるでしょう。
本記事では、調剤薬局を取り巻く市場動向を整理し、M&Aや在宅医療、専門性強化などを軸とした具体的な生き残り戦略をレポートします。
1. 【2025年】調剤薬局を取り巻くマーケット動向
1-1. 2024年度調剤医療費は約8.4兆円で横這い傾向
1-2. 1~8月の調剤薬局の倒産は20件と高水準
1-3. 新規参入による競争の過熱
1-4. 大手ECサイトによる処方薬ネット販売の開始
2. M&Aで進む薬局業界再編
2-1. 2025年・調剤薬局業界のM&A事情
2-2. M&Aが活発化する背景
2-3. 売却側のメリットとリスク
2-4. 買収側のメリットとリスク
3. 在宅医療と薬局経営のポイント
3-1. 在宅医療の需要拡大と役割の強化
3-2. 在宅医療での収益モデルとデジタル化
3-3. 医師・訪問看護・介護との連携強化
3-4. 在宅業務の効率化と人材確保のポイント
3-5. 地域包括ケアシステムにおける薬局の位置づけ
4. 薬局の生き残り戦略~専門性・信頼構築・ネットワーク拡大
4-1. オーダーメイドの服薬指導
4-2. 対人業務に強い薬剤師の育成
4-3. 在宅医療の体制整備と質向上
4-4. 薬局ブランド価値を高めるコミュニケーション戦略
4-5. M&Aを活用した経営戦略
まとめ
1. 【2025年】調剤薬局を取り巻くマーケット動向
コロナ禍を経て、調剤報酬改定やかかりつけ薬剤師の浸透など、調剤薬局を取り巻く環境は大きく変化しています。2025年も引き続き、業界再編やデジタル化が加速するでしょう。ここでは、調剤薬局業界の最新トレンドを紹介します。
1-1. 2024年度調剤医療費は約8.4兆円で横這い傾向
厚生労働省による「令和6年度 調剤医療費(電算処理分)の動向」によると、2024年度の調剤医療費は8兆4,008億円で、前年度比1.6%増となりました。技術料は3.5%増と比較的高い伸び率を示したものの、2021〜2023年度の約6%増と比較すると、やや鈍化しています。薬剤量も0.9%増にとどまり、調剤業務の中心が対物から対人へと移行している様子がうかがえます。
また、年齢階級別の医療費を見ると、75〜80歳が7.7%増、80〜85歳が6.2%増と、高齢層での伸びが顕著です。高齢化の進行に伴い、慢性疾患や複数薬服用者への対応が一層重要になっていることが読み取れます。
1-2. 1~8月の調剤薬局の倒産は20件と高水準
東京商工リサーチの調査によると、2025年1〜8月の調剤薬局倒産件数は20件でした。前年同期比では9.0%減ですが、2021年同期・2024年同期の22件に迫っており、高止まりの状況です。2015〜2020年の倒産件数が10件前後であったことを考えると、近年の薬局経営の厳しさがうかがえます。今後の状況次第では、年間倒産件数が初めて30件に到達する可能性もあると指摘されています。
倒産した薬局の多くは中小・個人経営ですが、近年では複数のグループ企業を傘下に持つ中堅規模の法人にも影響が及び始めています。主な要因として、薬価引き下げによる売り上げ減少、人件費や電気代などの固定費上昇、長引く物価高が重なったことが挙げられるでしょう。地域によっては、医療モールやドラッグストア併設型薬局との競合激化も進み、処方箋枚数の減少が薬局経営を直撃しています。
出典:東京商工リサーチ|「調剤薬局」 中小・零細はリソース不足で苦戦 大手は戦略的M&A、再編で経営基盤を拡大1-3. 新規参入による競争の過熱
倒産件数が高水準で推移する一方で、薬局業界ではドラッグストアをはじめとする異業種による市場参入が活発化しています。特に大手企業は、豊富な資金力とIT技術によって、在宅支援やオンライン服薬指導などの新サービスの展開が可能なため、従来型の調剤薬局の競争優位性が揺らいでいます。
今後の薬局経営に求められるのは、量の拡大ではなく、地域密着・専門特化型の価値提供です。具体的には、かかりつけ薬剤師制度や、医療機関・介護施設との連携強化、在宅・服薬フォロー体制の整備など、地域に根差した薬局づくりが差別化の鍵となります。
出典:東京商工リサーチ|「調剤薬局」 中小・零細はリソース不足で苦戦 大手は戦略的M&A、再編で経営基盤を拡大1-4. 大手ECサイトによる処方薬ネット販売の開始
オンライン服薬指導の恒久化や、薬機法改正により一部の要指導医薬品のオンライン販売の解禁が決定したことで、大手ECサイトの参入も過熱しています。
2024年7月には、世界最大級のECサイトAmazonが、オンライン服薬指導から処方薬の配送までを一気通貫で行う「Amazonファーマシー」を日本でもスタートさせました。11月からはマイナ保険証にも対応し、オンライン診療・服薬指導アプリ「CLINICS」とも連携するなど、デジタル医療のインフラとして急速に存在感を高めています。
こうしたオンライン完結型の仕組みは、診療から服薬指導、薬の配送までを一貫して行えるため、患者さんにとって非常に便利です。特に都市部では、忙しい生活の中でもスマートフォン一つで完結できる手軽さから、若年層を中心に利用者が増えています。
2. M&Aで進む薬局業界再編
近年、調剤薬局業界ではM&Aによる再編が進んでいます。これまでは大手チェーンを中心に進んでいたM&Aですが、近年では中小規模の薬局にも広がりを見せています。さらに、ドラッグストアや医療・介護事業者など、異業種による参入や提携も活発化している点も見逃せません。
2-1. 2025年・調剤薬局業界のM&A事情
2025年5月、株式会社アインホールディングスが、クラフト株式会社を買収するM&Aが公表されました。クラフト株式会社は、首都圏を中心に「さくら薬局」を約800店舗を運営しており、単純に合算すると売上が5,000億円を超える薬局チェーンが誕生する見込みです。業界トップ同士の統合は、規模の経済を生かした仕入れ効率化や、地域医療ネットワークの強化を狙った動きといえます。
同じく5月には、株式会社クスリのアオキホールディングスが、食品スーパーの株式会社ミワ商店を買収。食品と医薬品を組み合わせた戦略を推進し、スーパーを利用する主婦層や高齢者層の囲い込みを図っています。
さらに4月には、福岡の株式会社大賀薬局が、動物病院の株式会社MUを買収しました。「ペットも人と同じように健康を守るべき存在である」という理念のもと、動物医療の安全性と質の向上を目指しています。
このように、調剤薬局のM&Aは規模拡大だけでなく、異業種との提携を通じた新たな価値創出へと進化しています。さまざまな企業が経営基盤を強化しながら、医療・生活・地域をつなぐ総合的なヘルスケア体制の構築をめざしています。
2-2. M&Aが活発化する背景
薬局業界では、近年M&Aが急速に増加しています。その背景には、次のような複合的要因が考えられます。
- 経営環境の複雑化に対応するため
調剤報酬改定の厳格化が続き、薬局経営者や薬剤師への負担は年々大きくなっています。さらに、人件費や医薬品コストの上昇も、収益を圧迫する要因です。加えて、医療サービスの高度化に伴い、専門知識の習得やICTシステム導入などの投資も求められています。こうした複雑化する経営課題に対応するため、スケールメリットを活かせるM&Aが有効な選択肢となっています。
- 後継者不足・人材不足を解決するため
地方を中心に、個人薬局では経営者の高齢化が進み、事業を引き継ぐ後継者が不足しています。後継者が見つからない場合、M&Aを通じて大手や中堅チェーンへ事業を譲渡するケースが増加傾向にあります。また、人材確保が難しい環境で、在宅医療やICT化への投資を個人で行うことは困難です。M&Aによる統合は、このようなリスクを軽減し、薬局の持続的な運営を可能にします。
- 在宅医療を推進するため
在宅医療需要が高まる中で、対応エリアの拡大や訪問体制の強化を目的に、M&Aを通じて他の薬局を買収・統合するケースも見られます。広域的な在宅医療ネットワークを構築することで、地域全体で安定したサービス提供が可能になり、収益モデルの多角化にもつながります。
2-3. 売却側のメリットとリスク
後継者不在に悩む薬局は、M&Aで売却することで事業承継問題を解決できます。買収によって薬局経営の継続が可能となり、地域住民にサービスを届け続けることが叶います。また、売却によって負債を軽減したり、一定の資金を確保したりすることも可能です。経営者自身の引退や新たな挑戦の資金源として活用できるケースもあります。
複数店舗を経営している薬局の場合は、採算の合わない店舗や、立て直しが難しい薬局を売却することで、安定した経営基盤を取り戻せます。買収先から人員や設備といったリソースを享受でき、売却した店舗のスタッフもよりよい労働環境を得られるでしょう。
一方で、M&Aにはリスクも存在します。まず、買収先の経営方針や運営方法が従来のやり方と大きく異なる場合、スタッフの定着率低下や地域患者の離脱が起きる可能性があります。特に、地域密着型で信頼関係を築いてきた薬局では、買収後のブランド変更や運営方針の転換が、顧客離れにつながるリスクを十分に検討する必要があるでしょう。また、売却条件によっては薬局スタッフの待遇や勤務条件が変わることもあり、内部的な混乱を招く可能性も否めません。
売却価格や契約条件が市場価値と乖離している場合、期待していた資金回収ができないリスクもあります。売却にあたっては、事前の価値評価や専門家のアドバイスを活用することが重要です。
2-4. 買収側のメリットとリスク
買収側の最大のメリットは、店舗数を一気に増やし、市場シェアを拡大できることです。既存店舗と買収店舗の統合により、物流や人材の効率化、システムの共通化など、規模の経済を活かした経営改善に取り組めます。また、地域ごとの在宅医療基盤を強化したり、オンライン服薬指導を展開したりすることで、新たな収益源を確保することが可能です。
さらに、買収によって得られる既存患者さんや地域ネットワークも大きな資産です。地域医療機関との関係構築が既に整っている薬局を買収することで、短期間で信頼関係を獲得でき、在宅医療や健康サポートサービスの展開がスムーズになります。
一方で、買収側にもリスクがあります。買収後、従業員の働き方や評価制度が変わることで離職が発生すると、既存患者さんへのサービス低下につながります。また、統合プロセスが計画通り進まない場合、収益悪化のリスクも伴います。
さらに、地域の競合状況や患者さんの属性を正確に把握していない場合、期待した買収効果が得られない可能性もあるでしょう。たとえば、都市部で過剰供給地域の薬局を買収しても、既存の競合との競争激化により収益が伸びないことが考えられます。買収を成功させるには、事前の市場分析と統合計画の綿密な策定が欠かせません。
3. 在宅医療と薬局経営のポイント
高齢化が進む中、調剤薬局の在宅医療推進は避けて通れない課題となっています。ここでは、在宅医療における薬局の役割を再確認し、今後の薬局経営のポイントを解説していきます。
3-1. 在宅医療の需要拡大と役割の強化
超高齢社会に突入した日本では、通院が困難な高齢者や慢性疾患患者の割合が増加しており、在宅医療の需要は今後ますます高まることが予想されます。薬局は調剤にとどまらず、医師や看護師、介護職と連携し、患者さんの生活を支える在宅医療チームの一員として積極的な関与が望まれています。
在宅医療における薬剤師の業務は多岐にわたり、訪問先での服薬指導、薬剤の一包化、残薬調整、服薬状況のモニタリングなどがあります。特に、多剤併用や認知症患者への対応では、薬剤師の介入が医療費抑制や副作用防止に直結するケースも多いです。
しかし、在宅患者訪問薬剤管理指導料の算定を届け出ている薬局のすべてが、十分な在宅対応を実施できているわけではありません。2023年度厚生労働科学研究によると、茨城県つくば市のレセプトデータを用いた調査で、在宅を実施している薬局は届出の約6割であることが明らかとなりました(*1)。
在宅薬局として役割を果たすには、設備や人員体制を整備し、在宅に適した業務フローを確立する必要があります。在宅医療の中身をいかに充実できるかが、今後の薬局経営の分かれ目となるでしょう。
(*1)出典:株式会社 湯山製作所|【厚労科研報告書】在宅実施薬局は届出の6割‐訪問指導増加も応需と差
3-2. 在宅医療での収益モデルとデジタル化
在宅業務は人手や移動で負担が大きい一方、報酬面では「在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料」や「在宅薬学総合体制加算」などが設けられており、安定的な収益源となります。また、2024年度調剤報酬改定では、「地域支援体制加算」の施設基準に在宅実績24回以上・かかりつけ薬剤師の届出が追加され、加算の算定には在宅対応やかかりつけ機能が必須となりました。
在宅やかかりつけ機能に関する評価を拡充する傾向は、今後も続いていくでしょう。処方箋単価を上げるためには、外来のみから在宅対応へ移行する必要があります。地域支援体制加算取得やターミナル対応など、在宅対応の中身を充実させることで、高単価処方箋の獲得も可能です。
また、在宅医療を推進するうえで欠かせないのが、薬局DXです。今後はオンラインでの服薬フォローアップやIoTデバイスによる服薬管理など、デジタル技術を組み合わせた在宅支援が普及し、効率的かつ高度なサービス提供が主流になると予想されます。
3-3. 医師・訪問看護・介護との連携強化
在宅医療では、他職種との情報共有と信頼関係が不可欠です。処方内容に関する医師へのフィードバック、服薬状況を共有する看護師との連携、介護職への薬剤管理アドバイスなど、日常的なコミュニケーションが質の高い在宅ケアを実現します。
薬剤師は、患者宅を定期的に訪問することで生活の現場を把握できる立場であり、患者さんの家庭環境や食事、服薬管理環境を医師に共有することで、より安全で実効性の高い薬物療法に貢献できます。
また、緊急時にスピーディーかつ柔軟に対応できるのも、薬局の強みです。患者さんが夜間や休日に急な発熱や体調変化に見舞われたときも、医師の指示に基づき薬剤師が時間外対応を行うことで、不要な救急搬送や入院を防ぐことができます。薬剤師がチーム医療に参画することは、地域包括ケア全体の質向上に大きく寄与します。
3-4. 在宅業務の効率化と人材確保のポイント
在宅医療を拡充するうえで、人材確保と業務効率化は大きな課題です。訪問スケジュールの調整、服薬準備、医療機関との連絡業務など、在宅現場の負担は決して少なくありません。
このような課題を解決するため、クラウド型の在宅支援システムや電子カルテ連携を導入する薬局が増えています。訪問記録や指導内容をデジタル管理し、チーム全体でリアルタイムに共有できる環境を整えることで、業務効率が飛躍的に向上します。
さらに、薬局の現状と目標を見える化し、薬剤師や事務員がミッション達成に向けて主体的に動ける環境を整えることも重要です。スタッフのスケジュールや、地域支援体制加算の取得状況、スキルマップなどを通じて、各々の業務や成長を可視化することで、薬局全体の効率化につながります。
人材採用では、在宅経験者だけでなく、地域貢献に意欲のある薬剤師を育成することがポイントです。OJTや同行研修を通じてノウハウを継承し、地域密着型の薬局として信頼を軸とした組織づくりを行うことが、長期的な成功につながります。薬剤師・事務員ともに、未経験者向けの研修体制や、定期的なスキルチェックを実施し、目標を持って学べる仕組みをつくりましょう。
3-5. 地域包括ケアシステムにおける薬局の位置づけ
厚生労働省が推進する「地域包括ケアシステム」は、高齢者が住み慣れた地域で自立した生活を続けられるよう、医療・介護・予防・住まい・生活支援を一体的に提供する体制を目指すものです。この中で薬局は、医療と日常生活をつなぐ地域の健康拠点としての役割が求められています。
薬局の機能分化と専門化が進む中、「地域連携薬局」や「専門医療機関連携薬局」といった制度区分が設けられました。今後は「健康サポート薬局」が「健康増進支援薬局」と名称を改め、新たに認定薬局に加えられる予定です。
これらの認定を受けることで、行政・医療機関・介護施設との連携が一層強化され、地域医療体制の中での信頼性と存在感を高めることができます。今後は、多面的かつ専門的な医療サービスを提供できる薬局が、地域包括ケアの中心的存在として活躍していくでしょう。
4. 薬局の生き残り戦略~専門性・信頼構築・ネットワーク拡大
M&Aの活発化や在宅医療など、さまざまな 調剤薬局。団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる「2025年問題」の節目を迎え、これからの薬局にはさらなる専門性と利便性、そして信頼構築が求められています。
4-1. オーダーメイドの服薬指導
従来の調剤業務は、薬を正確に渡す対物業務が中心でした。しかし、薬剤師本来の価値は、患者理解と個別対応にあります。年齢・疾患・生活環境・服薬歴などによって、同じ薬でも最適な服薬タイミングや注意点は異なります。そのため、画一的な説明ではなく、患者さん一人ひとりに合わせたオーダーメイドの指導が必要です。特に高齢化が進む地域では、服薬アドヒアランスの維持やポリファーマシー(多剤併用)の調整など、生活背景を踏まえた総合的な支援が求められています。
服薬指導の質を高めるうえでは、デジタルツールの活用が有効です。近年は、電子薬歴システムにAIを搭載し、薬歴データやお薬手帳情報をもとに服薬指導の内容を提案する機能も登場しています。AIがリスクを自動検知したり、過去の指導内容を参照してアラートを出したりすることで、分析や確認にかかる時間を短縮することが可能です。これにより薬剤師は、患者さんとのコミュニケーションや心理的ケアといった対人業務により多くの時間を割けるようになります。
さらに、AI音声入力によって指導時の会話を自動テキスト化するシステムや、タップ操作だけで薬歴が作成できる電子薬歴も登場しています。これらの仕組みを導入することで、服薬指導の属人化を防ぎ、経験の浅い薬剤師でも一定水準以上の指導が実施できる環境を整備できます。
デジタル技術で業務効率化を図りつつ、薬剤師自身が専門性を磨くことで、質の高いオーダーメイドの服薬指導が実現します。
4-2. 対人業務に強い薬剤師の育成
薬局が生き残るためには、専門知識と対人スキルを備えた薬剤師の育成が不可欠です。今後は在宅患者さんの病態が多様化・複雑化する中で、糖尿病・がん・循環器疾患など、特定分野に精通した疾患別の専門薬剤師の需要はさらに高まるでしょう。
日本薬剤師会や各学会では、専門薬剤師・認定薬剤師の資格制度が整備されています。今後は、このような資格の認知度も増し、薬剤師のスキルや医療サービスの質で薬局が選ばれる時代になるでしょう。
高度化する薬物治療に対応するには、医師や看護師と同じ目線で患者さんの状態を共有し、治療方針に積極的に関与できる薬剤師が求められます。同時に、患者さんの生活背景を理解し、信頼関係を築くコミュニケーション力も重要です。在宅薬剤師には、服薬指導や副作用の確認にとどまらない包括的なサポートが求められ、幅広い疾患・医療・介護分野の知識を継続的に学ぶ環境の整備も不可欠です。
さらに、専門性を持つ薬剤師を軸に、多職種連携を強化することで、薬局単体では実現できない包括的な医療サービスの提供も可能となります。薬剤師の資格取得支援や研修参加を促し、専門性の高い人材を育成することで、薬局の持続的成長につなげましょう。
4-3. 在宅医療の体制整備と質向上
在宅医療を安定的に展開するには、在宅訪問に適した体制づくりが必要です。訪問スケジュールの調整や、電子カルテ・クラウドシステムを活用した情報共有の仕組みを整えることで、業務効率化と安全性を両立できます。特に、多職種連携が重要となる在宅医療では、ICT活用による医師・看護師・ケアマネジャーらとのリアルタイムでの情報共有体制は、サービスの質向上に欠かせません。
また、在宅薬局の効率化には、薬局事務員の協力も不可欠です。薬剤師が訪問業務や服薬指導に集中できるよう、請求処理や在庫管理、配達準備など、薬剤師でなくても対応可能な業務は、事務員に任せましょう。役割を明確化することで、チーム全体の生産性が高まり、限られた人員でも持続的な在宅対応が可能となります。
在宅薬剤師には、服薬管理や副作用確認だけでなく、患者さんの生活状況や食事・栄養、介護環境まで踏み込んだ包括的サポートが求められます。そのため、疾患別知識に加えて、栄養学・リハビリ・介護制度などの幅広い知識の習得が不可欠です。
4-4. 薬局ブランド価値を高めるコミュニケーション戦略
調剤技術や立地による差別化が難しくなった今、薬局のブランド価値を決めるのは地域からの信頼です。「薬をもらう場所」から「日常的に健康を相談できる場所」へ転換し、住民との関係づくりを強化することが求められています。
まず大切なのは、薬剤師の顔が見えるコミュニケーションです。店舗の掲示板やSNSで、薬剤師の紹介や日常の活動を発信するだけでも、親近感を持ってもらえます。
次のような取り組みは、コストを抑えて始められるので、ぜひ取り入れてみましょう。
- 店頭での定期的なお薬相談会の実施
- 介護施設や自治会で、薬剤師のミニ講義や座談会の実施
- 季節ごとの健康情報発信や予防接種案内をSNS・アプリで配信
- LINE公式アカウントを活用したセルフメディケーション支援
地域住民と顔の見える関係を築いておくと、「困ったときに最初に相談する場所」として、薬局を思い出してもらえます。在宅訪問や服薬フォローアップを行う薬局は、地域住民の認知度を高めることで多職種からの信頼も得られ、新たな訪問依頼や処方箋獲得にもつながるでしょう。
また、他の医療機関や介護施設、自治体との連携イベントも有効です。たとえば、「医師・薬剤師・管理栄養士による健康フェア」などを地域包括ケアの一環として開催すれば、医療ネットワークの中で薬局の存在感を高めることができます。
4-5. M&Aを活用した経営戦略
近年の薬局業界では、後継者不足や採算悪化を背景に、中小薬局のM&Aが急増しています。特に注目されているのが、在宅医療に特化した薬局の買収・統合です。
新規で在宅対応薬局を立ち上げようとすると、訪問車両・設備投資・スタッフ採用・医療機関連携の構築など、軌道に乗るまでに膨大な時間とコストを要します。一方、すでに在宅ネットワークや地域連携基盤を持つ薬局をM&Aで取得すれば、初期投資を抑えつつ即戦力として事業展開できる点が大きな魅力です。
M&Aは、将来の成長を見据えた攻めの経営戦略です。在宅医療・オンライン服薬指導・かかりつけ体制・デジタル化など、多様化するニーズに対応するためには、単独店舗での対応には限界があります。複数店舗をネットワーク化し、地域包括ケアの一翼を担う薬局グループとして機能することで、安定した経営基盤を築けます。
まとめ
2025年の調剤薬局業界は、店舗数の増加や大手ECサイトの参入などにより、これまで以上に競争が激化しています。在宅医療の需要拡大や、かかりつけ薬局・地域連携機能の強化は、薬局の存在価値を左右する重要な要素です。
在宅医療の質向上や専門薬剤師の育成、デジタル活用による業務効率化は、患者さんとの信頼構築と収益安定に直結します。また、M&Aを活用したネットワーク拡大や経営統合も、生き残り戦略の有力な手段です。立地や規模だけでなく、機能・質・地域貢献力を高めることが、これからの薬局経営の鍵となるでしょう。
きらりプライムサービスでは、在宅と外来のハイブリッド経営を行うきらり薬局のノウハウを活かし、在宅薬局のお悩みをサポートしています。在宅業務の効率化から薬局DX、人材育成、そしてM&Aや事業承継のご相談まで、在宅薬局に関するお悩みは何でもご相談ください。


