調剤報酬改定のベースアップ評価料対応は2024年と2026年でどう変わる?
2026年度調剤報酬改定では、薬剤師や事務員の賃上げを目的として、「調剤ベースアップ評価料」が新設されました。これまでの基本料一律引き上げ方式から、届出と実績報告を伴う評価料へと格上げされ、薬局にはより透明性の高い賃金設計が求められています。
この記事では、2024年度改定と2026年度改定を比較しながら、調剤ベースアップ評価料について詳しく解説します。
1. 2026年改定「調剤ベースアップ評価料」の点数・算定要件
1-1. ベースアップは原則として「基本給」
2. 2024年度 vs 2026年度:賃上げ対応の違い
3. 2026年改定「調剤ベースアップ評価料」のポイント
3-1. 賃上げ目標値の明確化(薬剤師3.2%、事務員5.7%)
3-2. 届出と報告の義務化
4. 薬局経営者が対応すべきことと注意点
4-1. 40歳以上の薬剤師・管理薬剤師への対応
4-2. 労働法上の留意点(不利益変更)
4-3. 長期的に持続可能な給与体系の設定
5. 薬剤師・事務員のベースアップを実現する方向性
6. まとめ
1. 2026年改定「調剤ベースアップ評価料」の点数・算定要件
2026年度調剤報酬改定では、薬局に勤務する薬剤師および事務職員等の確実な賃上げを目的として、調剤ベースアップ評価料が新設されました。
| 点数 | 2026年:4点(処方箋1回につき) | 2027年6月~:所定点数の100分の200に相当する点数(実質8点) |
| 算定要件 | ・地方厚生局長等に届出を行っていること | |
| 施設基準 | ・対象職員の賃金改善を実施するための具体的な計画や体制が整備されていること | ・固定的な支給であること(一時的な賞与や手当は不可) |
| 対象職員 | ・40歳未満の薬局の勤務薬剤師 | ・事務職員 |
1-1. ベースアップは原則として「基本給」
調剤ベースアップ評価料による賃上げは、原則として「基本給」または「決まって毎月支払われる手当」の引き上げによって行わなければなりません。これは、一時的な補填ではなく、職員の生活基盤を恒久的に底上げすることを目的としているためです。
業績に連動して変動する賞与や、期間限定のインフレ手当などは、原則として評価料による実績にはカウントされません。毎月必ず同額が支給される項目での引き上げが必須となります。
特に混同しやすいのが、従来の昇給制度との関係です。
通常の定期昇給は、勤続年数や個人のスキルアップ、評価に基づき毎年自動的・慣習的に行われます。
一方、調剤ベースアップ評価料による賃上げは、評価料の算定に伴い、物価上昇や処遇改善を目的に、定期昇給とは別枠で上乗せされるものです。なお、ベースアップに連動して増加する賞与や法定福利費(社会保険料の事業者負担分)については、評価料の収入から充当することが認められています。
実績報告においては、これら2つを明確に区分して支給していることを証明する必要があります。「例年の定期昇給に含めてしまった」という形では、適切な賃上げ措置とみなされないリスクがあるため、給与規定の改定や辞令の発行などで、ベースアップ分を明示しておくことが推奨されます。
2. 2024年度 vs 2026年度:賃上げ対応の違い
2024年度改定では、「基本料の一律引き上げ」という形で見えにくかった原資が、今回の改定で評価料として独立し、その使途がより厳格に管理されるようになっています。
| 2024(令和6)年度改定 | 2026(令和8)年度改定(予定) | |
| 主な評価項目 | 調剤基本料の引き上げ(+3点) | 外来・在宅ベースアップ評価料I(新設) |
| 評価の仕組み | 基本料への一律上乗せ | 賃上げ実績に連動した届出・報告が必要 |
| 賃上げ目標 (薬剤師) |
2024年:+2.5% 2025年:+2.0% |
2026年:+3.2% 2027年:+3.2% |
| 賃上げ目標 (事務員) |
2026年:+5.7% 2027年:+5.7% |
2024年度改定では、医科や歯科で導入したベースアップ評価料とは別に、調剤基本料を全区分一律で3点引き上げるというシンプルな方式が採られました。しかし、この方式には「引き上げられた報酬が、実際にスタッフの給与に還元されているかが見えにくい」という課題が残りました。
こうした背景を踏まえ、2026年度改定では、医科・歯科の仕組みと足並みを揃える形で、調剤ベースアップ評価料が新設されました。独立した評価項目とすることで、調剤ベースアップ評価料が「薬剤師や事務職員の給与を上げるためのものである」ことが明確化されています。
さらに、2026年の「4点」(2027年6月以降は8点)という点数は、2024年度の「3点」を実質的に上回る水準であり、より確実に賃上げ原資を確保する狙いがうかがえます。
3. 2026年改定「調剤ベースアップ評価料」のポイント
2026年度改定の最大の特徴は、賃上げ対応を基本料から切り離し、人件費への充当を前提とした独立評価として位置づけた点にあります。
3-1. 賃上げ目標値の明確化(薬剤師3.2%、事務員5.7%)
2026年度改定で特に注目すべき点が、職種別に明確な賃上げ目標が示されたことです。
| 薬剤師 (40歳未満の勤務薬剤師等) |
2026年度・2027年度 それぞれで+3.2% |
| 薬局事務職員 | 2026年度・2027年度 それぞれで+5.7% |
中医協のシミュレーションでは、薬剤師3.2%、事務職員5.7%の賃上げを実現するために必要な原資を点数換算すると、中央値は処方箋1枚あたり3.9点となりました(*1)。この結果から、4点の評価料の新設によって、多くの薬局において国が掲げる目標水準を概ね達成できると考えられています。
特に、事務職員の5.7%という数字は極めて高く、最低賃金の引き上げや待遇改善を強く意識した設定であることがわかります。薬局経営を支える事務職の専門性を認め、処遇を大幅に改善しようとする国の強い意思の表れといえるでしょう。
*1 厚生労働省|中央社会保険医療協議会 総会(第641回) 議事次第
3-2. 届出と報告の義務化
調剤ベースアップ評価料を算定するためには、地方厚生局への事前の届出が必須です。
2026年(令和8年)6月から算定を開始する場合、2026年5月中に届出を完了する必要があります。届出を行わない場合、処方箋1枚あたり4点の算定は認められません。経営への影響が大きいため、早期の準備が求められます。
算定期間は6月から翌年5年となり、8月中に「賃金改善中間報告書」を提出し、2026年6月〜7月時点での賃上げ状況を報告する必要があります。
報告が行われない場合や、正当な理由なく賃上げが実施されていない場合には、算定が認められなくなる可能性もあります。原則として、評価料として得た収益は、全額を対象職員の賃金改善に充てましょう。
出典:厚生労働省|ベースアップ評価料等について
4. 薬局経営者が対応すべきことと注意点
ここでは、調剤ベースアップ評価料のメリットを享受しつつ、法的・組織的なリスクを回避するための注意点を整理します。
4-1. 40歳以上の薬剤師・管理薬剤師への対応
調剤ベースアップ評価料で注意したいのが、対象外となる薬剤師への対応です。
| 対象 | 40歳未満の薬剤師、事務職員、その他薬局従事者 |
| 対象外 | 事業主、使用者、開設者、管理者(管理薬剤師)、40歳以上の薬剤師、業務委託、管理的業務に専従する者(本部職員、エリアマネージャーなど) |
調剤ベースアップ評価料の対象外である「管理者」には、管理薬剤師も含まれます。30代の若手管理薬剤師であっても、管理者という立場であれば、原則として対象外となります。このため、薬局経営者にとって「最も責任が重く、報いたい人材」が制度から漏れてしまうケースは少なくありません。
若手の給与だけが底上げされ、責任あるベテランや管理者の給与が据え置かれると、「責任は重いのに報酬は上がらない」という不満も生じるでしょう。これによる離職を防ぐには、評価料以外の収益から、中堅・ベテラン層への独自手当を捻出する経営努力も必要です。
4-2. 労働法上の留意点(不利益変更)
固定的な手当や基本給として一度導入した賃金は、労働条件の一部となります。将来的に処方箋枚数が減少し、評価料の収益が減ったからといって、経営者が一方的にこれらを廃止・減額することは、労働契約法上の「不利益変更」に該当し、原則として認められません。
調剤ベースアップ評価料による賃上げを固定の手当として支給する場合は、労働条件通知書や就業規則に、「本手当は、診療報酬におけるベースアップ評価料の算定が継続されることを支給の条件とする」といった旨を明記するなどの対策が推奨されます。
4-3. 長期的に持続可能な給与体系の設定
調剤ベースアップ評価料は、一時的な手当の支給ではなく、給与テーブルそのものの底上げを求める制度です。薬局経営者には、この制度を「一過性の加算」としてではなく、持続可能な経営戦略にどう組み込むかが問われています。
2027年度の点数倍増を見据えた制度設計
制度設計において見逃せないのが、導入翌年度の点数引き上げです。調剤ベースアップ評価料は2027年6月以降、所定点数の100分の200(実質8点)での算定となります。
このため、2026年度の開始時に一気に基本給を引き上げるのではなく、2027年度の点数増額を見越した賃金設計が大切です。初年度から無理な引き上げを行わず、次年度の増額分を原資として確保しておくことで、中長期的な賃金上昇サイクルを保てます。
制度の縮小・廃止リスク
将来的に、調剤ベースアップ評価料が縮小、あるいは他の項目へ統合・廃止されるリスクはゼロではありません。評価料がなくなったからといって、一度引き上げた基本給を一方的に減給することは、先述した「不利益変更」に該当し、原則として認められません。強引な減給は、法的トラブルを招くだけでなく、薬剤師や事務員の離職を招く要因となります。
このようなリスクに備えるためには、調剤ベースアップ評価料をあくまで「呼び水」として活用する視点が大切です。評価料に頼るのではなく、経営基盤のさらなる強化によって薬局自体の収益力を高めることが、ベースアップの原資を確保する本質的な解決策となります。
5. 薬剤師・事務員のベースアップを実現する方向性
調剤ベースアップ評価料は、スタッフの処遇改善において強力な追い風となります。その一方で、制度の継続性や年齢制限といった不確定要素に経営を左右されないためには、薬局独自の収益構造を強化することが不可欠です。
その中核となるのが、高単価かつ対人業務の真価が問われる、在宅医療の強化です。2026年改定では、在宅薬学総合体制加算2で、個人在宅の評価が100点に引き上げられるなど、患者さん一人ひとりの生活に踏み込んだ支援がより強く求められています。
在宅を強化するうえでは、薬局事務員の戦略化も重要です。ピッキングや在庫管理をはじめとする対物業務を事務員の仕事として切り分けることで、薬剤師が対人業務に専念できる体制が整います。
事務員の活躍によって、一人当たりの生産性が向上し、訪問件数を最大化できれば、評価料に頼らずとも、利益の中から薬剤師・事務員のベースアップを継続的に実現することが可能となります。在宅医療の強化と組織全体の生産性向上に取り組み、薬局の競争力を高めていくことが大切です。
6. まとめ
調剤ベースアップ評価料は、薬剤師・事務員の採用市場にも大きな影響を与えると考えられます。「評価料を適切に算定し、ルールに沿って還元しているか」という姿勢は、求職者が薬局を選ぶ際の重要な判断材料の一つです。評価料の原資を確実にスタッフへ還元できる体制を整えることは、“選ばれる薬局”となるための前提条件といえるでしょう。
一方で、評価料に依存せず、薬局の利益の中からベースアップを実現するという視点も欠かせません。在宅訪問の強化による収益基盤の拡充や、事務員の戦力化による生産性向上、さらには薬剤師の専門性向上による付加価値創出など、複合的な取り組みによって持続可能な賃上げを実現していく必要があります。
きらりプライムサービスでは、調剤報酬改定の読み解きから、在宅患者の獲得、事務員の戦力化まで、薬局経営に関する幅広い課題解決をサポートしています。制度対応に不安を感じている方や、この機に経営基盤を抜本的に強化したいとお考えの薬局経営者の方は、ぜひ一度ご相談ください。地域に選ばれ続ける薬局づくりを、ともに実現していきましょう。


