調剤薬局やドラッグストアはなぜ人手不足なのか? 採用・育成・退職予防のためにできること

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薬剤師の数は年々増加しているにもかかわらず、調剤薬局の現場では依然として人手不足が続いています。在宅医療やかかりつけ機能など、薬局に求められる役割が多様化する中、優秀な薬剤師の確保は経営上の重要課題です。さらに、薬剤師を支える調剤薬局事務の存在も欠かせません。

本記事では、薬局の人材不足の背景を整理しつつ、採用・育成・退職防止の観点から、薬局経営者が取り組むべき具体的な施策を紹介します。

1. 調剤薬局の人材不足の背景

調剤薬局やドラッグストアにおける人材不足は、以前から業界全体の課題とされており、現在も採用や定着に悩む薬局が少なくありません。この背景には、次のような要因が考えられます。

  • 郊外・地方での採用難

薬学部の定員数は増加したものの、都市部に薬剤師が集中する傾向が続いており、地方や郊外の薬局は慢性的な人手不足に陥っています。地方や僻地は高齢化率が高く、医療ニーズが増大しているにもかかわらず、十分な人材が確保できていない状態です。

  • 薬局サービスの多様化

在宅医療や地域包括ケアの推進に伴い、薬剤師の業務は服薬指導、医療機関との連携、在宅訪問、服薬フォローアップなどへ拡大しています。より高度な専門知識やコミュニケーション力が求められる結果、薬剤師や調剤薬局事務の業務負担が増し、離職につながるケースも少なくありません。

  • 人間関係の悩み

薬局は少人数体制であるため、職場内の人間関係のトラブルが離職理由となりやすいという現実があります。良好な人間関係づくりやメンタルケアの体制は、人材確保に欠かせない要素です。

  • 残業・仕事量が多い

外来の患者さんの来局が夜遅くまで続くケースや、閉局後の発注・書類作成などによって長時間労働が常態化した職場では、薬剤師や調剤薬局事務の離職率も高い傾向にあります。

2. 【体制整備】働きやすい環境を整える

薬剤師の人材不足に対応するには、まず「長く働ける」「安心して働ける」環境をつくることが大事です。働きやすい環境を整備することは、既存スタッフの満足度向上にもつながります。

2-1. デジタル化・業務効率化を推進する

対人業務の拡充やサービスの多様化を進めるには、デジタル化・IT化を活用する薬局DXが不可欠です。システムの導入により業務の自動化や効率化が叶えば、薬剤師や調剤薬局事務の業務負担を軽減し、患者対応に集中できる環境を整えることができます。

薬局における代表的なシステム導入の効果は、以下のとおりです。

オンライン服薬指導

  • 遠隔の患者さんに対応できる
  • 薬剤師の在宅勤務が可能
  • 在宅訪問との併用により移動負担を軽減

調剤ロボット

  • 調剤業務の自動化・半自動化
  • ヒューマンエラー防止
  • 安全性・衛生面の確保
  • 調剤業務の時間短縮
  • 薬剤師の精神的負担の軽減

報告書作成システム

  • 報告書作成業務の一元化
  • 時間短縮・業務負担軽減
  • クラウド型ならリアルタイムの情報共有も可能

在庫管理システム

  • 在庫管理の適正化
  • スピーディーな発注が可能
  • 発注業務の属人化を解消

システムの導入や利用には費用がかかるものの、効率化によって患者数の拡大やサービスの向上が見込まれるなら、投資する価値はあると判断できます。業務の自動化・効率化が進めば、薬剤師や調剤薬局事務の残業も解消されるため、間接的な人件費削減やライフワークバランスの実現のためにも有効です。

2-2. 研修・教育体制を整備する

薬剤師や調剤薬局事務に安心して業務に臨んでもらうためには、計画的な育成スケジュールや研修体制が必要です。研修はOJTだけでなく、座学やeラーニングを組み合わせ、一人ひとりのレベルに応じた育成スケジュールを組みましょう。

新人研修のほかにも、管理者研修や緩和ケア研修、在宅研修など、階層別・難易度別のカリキュラムを用意することも大切です。キャリアの段階に合わせた学びの場を提供することで、スタッフは将来像を描きやすくなり、離職防止にもつながります。

さらに、新人教育には、経験豊富な先輩社員が後輩社員の成長をサポートする「メンター制度」の導入もおすすめです。メンターがいることで、新人スタッフの「誰に相談すればいいかわからない」という不安が解消され、日々の悩みやキャリア形成について相談いやすい環境が整います。

2-3. シフトを見直し、人材配置を最適化する

「薬剤師でなくてもできる業務」は、積極的に事務員へタスクシフトを行いましょう。たとえば、薬剤のピッキング、一包化、薬の配達、在庫管理・発注などは、事務員でも対応可能です。薬剤師と事務員で業務を明確に切り分けることは、お互いに信頼しながら効率的に連携する体制の構築にも寄与します。

また、外来と在宅を両立させるには、薬局の状況に合わせたて柔軟にシフトを調整することがポイントです。外来が込み合う時間帯には薬局内スタッフを増やしたり、訪問スケジュールに合わせて薬剤師のシフトを組んだりと、過不足のない人員配置を意識しましょう。

「どこで・誰が・何をしているのか」を把握するために、ホワイトボードや共有カレンダーを活用して、個人の予定を“見える化”することも効果的です。スタッフ全員がリアルタイムでお互いの状況を把握できれば、連携がスムーズになり業務の混乱を防げます。

3. 【採用】ミスマッチを防ぐための対策

採用においては、人数を確保することよりも、長く働いてもらえる人を採用することが重要となります。人手不足を理由に焦って採用してしまうと、早期離職につながり、結果として採用コストの増大を招く恐れがあるため注意が必要です。

3-1. 求人は頻繁に更新し、母集団形成を重視する

自社に合う人材を採用するには、なるべく多くの応募者の中から適性のある人を選べる環境づくりが欠かせません。そのためには、まず十分な母集団を形成することが重要です。

母集団形成を成功させるには、求人の鮮度を保つことと、スカウト機能の活用などがポイントとなります。求職者の目に留まりやすくするためには、月1回を目安に求人情報を更新し、新着表示を継続させましょう。

さらに、短期間で優秀な人材を確保したい場合には、スカウト応募を積極的に狙うのも有効です。スカウトメッセージは、汎用的な文面ではなく、相手のプロフィールを踏まえたオリジナリティを加えることで、関心を引きやすくなります。

3-2. 面接で適性を見極める

面接では、コミュニケーション力やチームワーク志向、地域医療への関心度などに注目しましょう。特に、未経験採用の多い調剤薬局事務の場合、ホスピタリティや対人スキルの有無は重要な判断基準となります。

また、適性検査を併用するのも有効です。適性検査の結果を記録しておくと、早期離職者の傾向を把握し、次回以降の採用活動に活かすことができます。

面接時には、よい面だけでなく、現状の課題や今後の改善点も正直に伝えることが大切です。入社前に薬局の考え方や職場の実情を共有することで、入職後のギャップを最小限に抑えられます。

3-3. 採用はスピード感を重視する

優秀な人材は、多くの企業にとって争奪戦です。採用までに時間がかかると、他社に取られてしまう可能性があるため、採用活動ではスピード感を重視することが大切です。

書類選考の返事は翌日まで、面接は1週間以内、採用までに2週間など、大まかなスケジュールを立てて動きます。面接担当者が多忙で時間を確保しづらい場合でも、採用を優先事項として伝え、可能な限り調整してもらいましょう。

また、採用意思の高い人材については、面接終了時などに内定意思を積極的に伝えることも重要です。迅速で丁寧な対応は、応募者の関心を維持し、採用成功率の向上につながります。

3-4. 店舗と連携してウェルカムな雰囲気づくり

面接での店舗見学の際は、応募者が過ごしやすい雰囲気づくりも大切です。店舗の雰囲気が悪いと、優秀な人材の入社意欲を削いでしまう可能性があります。

面接前には、スタッフに事前に予定を共有し、応募者を歓迎する雰囲気づくりを徹底しましょう。5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)を意識し、清潔で整った環境を保つことがポイントです。

挨拶ひとつでも、応募者が持つ印象は大きく左右されます。店舗スタッフと連携してウェルカムな環境を整えることが、採用成功につながります。

4. 【育成】自主的に学べる環境づくり

薬剤師・調剤薬局事務それぞれの能力を最大限に引き出し、自主的な学びをサポートすることが、薬局の価値向上につながります。自己成長を本人の意欲に任せるのではなく、自主的に学びたいと思える環境を整備することが大切です。

4-1. 薬剤師・事務員それぞれのキャリアパスを確立する

目標を明確に持ち、日々の業務に主体的に取り組むためには、薬剤師と事務員それぞれに応じたキャリアパスを提示することが重要です。キャリアの道筋が見えることで、成長意欲が高まり、長期的な定着にもつながります。

具体例として、薬剤師の場合は一般薬剤師から薬局長、マネージャー、本部職へのステップアップが考えられます。事務員であれば、一般事務から薬局長補佐、エリアマネージャーといった道も参考にできるでしょう。

さらに、各ステップで必要なスキルや経験を明示することで、スタッフは自分が次に目指すべき目標を具体的に理解でき、計画的なスキル習得や研修参加につなげられます。

4-2. リーダー・マネージャー職を育成する

薬局の経営力を高めるには、現場の中堅層やリーダー職の育成も重要です。役職に就く薬剤師や事務員が、マネジメントの視点を身につけることで、業務効率化やオペレーションの最適化が進み、パフォーマンスが飛躍的に向上します。

マネジメントスキルを学ぶには、社内でOJTを実施するほか、外部研修を導入するのも効果的です。専門家からの指導により、正しいマネジメントスキルを早期に習得できます。

また、役職者が悩みを相談しやすい環境づくりも大切です。経営者自らがサポートしたり、役職者同士で交流の場を設けたりなど、薬局全体でフォローする体制を整えましょう。

4-3. スキルの到達度を可視化する

スタッフの成長を支援するためには、スキルの到達度を可視化する仕組みも有効です。

定期的に知識テストやケーススタディ形式の確認テストを実施し、その結果を数値化することで、スタッフは自分の能力を客観的に把握できます。どの分野に強みがあり、どこに課題があるかを明確にすることで、本人の学習意欲も高まり、指導者側も適切な教育プランを立てやすくなります。

こうした可視化は、薬機法や調剤報酬改定といった制度変更への対応力を高めるうえでも有効です。常に最新のルールやガイドラインに準拠した業務が行えているかを確認し、改善点を早期に修正できる体制を整えることが、薬局全体の信頼性向上につながります。

4-4. 薬局やエリアごとに勉強会を開催する

薬局やエリア単位での勉強会は、スタッフの知識向上だけでなく、現場のつながりを強めるうえでも効果的です。日々の業務のなかで直面した課題や成功事例を共有することで、個々の薬局で得られたノウハウがエリア全体に広がり、対応力の底上げにつながります。

エリア内での勉強会は、スタッフ同士の交流の場にもなり、孤立感の解消やモチベーション維持にも寄与します。現場で抱える悩みを気軽に相談できる関係性を築くことは、働きやすい職場づくりにもつながります。

5. 【退職防止】仕事とプライベートの両立を推進する

人材を定着させるには、スタッフそれぞれのライフプランに寄り添うことも大切です。薬局DXを進めつつ、ライフワークバランスの実現をめざした体制を整えましょう。

5-1. スタッフのメンタルケアを行う

薬局は少人数で運営されることが多く、職場の人間関係がスタッフ一人ひとりのモチベーションに直結します。さらに、患者さんや医師・看護師など他職種との関わりにおいても細やかな配慮が求められるため、精神的なストレスが大きくなりがちです。

加えて、「仕事でミスをしてしまった」「リーダーとしてチームをまとめる自信がない」など、実務上の悩みを抱えるスタッフも少なくありません。このような不安を放置すると離職につながる恐れがあるため、早い段階で適切にサポートすることが重要です。

具体的には、マネージャー職を中心にメンタルケア体制を整え、経験豊富な先輩薬剤師が日常的に相談に乗れる仕組みをつくると効果的です。月1回程度の定期面談や、日常的な声かけ・フィードバックの習慣も、スタッフが相談しやすい雰囲気づくりに役立ちます。

5-2. スタッフそれぞれに応じたキャリア形成をサポートする

価値観の多様化に伴い、スタッフが思い描くビジョンもさまざまです。「調剤のスペシャリストを目指したい」「在宅医療に関わりたい」「経営に携わりたい」、あるいは「家族との時間を大切にしたい」「地元で働き続けたい」など、希望する働き方・キャリアは、人によって異なります。

個々のニーズに寄り添い、選択肢のあるキャリアパスを提示することで、優秀な人材の確保・定着につながります。具体的には、定期的なキャリア面談を通じて本人の目標や関心を明確化し、それに沿った研修や資格取得の支援を行うことが有効です。また、本人の強みや適性を活かせるよう、業務の幅を広げる機会を提供することもモチベーション向上につながります。

5-3. 休暇制度や福利厚生を充実させる

今、多くの企業が人材確保のために、福利厚生の拡充に取り組んでいます。求職者から選ばれる薬局となるためには、制度面の充実も欠かせません。

特に、少人数の薬局では「休むと周囲に迷惑がかかる」と考え、有給休暇を取得しにくい雰囲気が生まれがちです。経営者やマネージャーが率先して休暇取得を促し、計画的に人員を補う仕組みを整えることで、スタッフも安心して休めるようになります。

また、薬剤師は女性の割合が多く、出産・育児を理由に退職するケースも少なくありません。産休・育休や介護休暇の整備だけでなく、復帰後に柔軟な働き方を選べる体制をつくることも重要です。時短勤務や在宅勤務に加えて、育休復帰後手当や未就学児への補助など、金銭的サポートも喜ばれます。

健康診断や予防接種の補助、社宅手当、資格取得支援などの福利厚生を充実させることは、スタッフのモチベーション維持・向上に直結します。薬局の利益を福利厚生で還元する視点を持つことも大切です。

6. 薬剤師・調剤薬局事務が「退職したい」と申し出た際の対応

どれだけ職場環境を整備しても、さまざまな理由により、退職希望者が出ることは避けられません。その申し出をどのように受け止め、対応するかにより、薬局の印象やその後の経営も大きく変わります。

本人が嫌がらない場合は、退職理由を丁寧にヒアリングしましょう。「給与が低い」「人間関係が悪い」「キャリアアップしたい」など、退職を希望する背景には何らかの原因があります。退職者の声は職場改善のヒントとして捉え、同様の理由で他のスタッフが離職しないよう予防策を講じることで、今後の人材定着や職場環境の向上につながります。

また、退職者には「いつでも戻ってきてほしい」という意思を伝え、連絡を取りやすい関係を保つことで、将来的に復職してもらえる可能性も生まれます。再雇用やアルバイトとしての関わりなど、柔軟な関係性を築いておくことも、長期的な人材戦略の一環といえるでしょう。

まとめ

人材の専門性やスキルが企業価値に直結する薬局において、人材確保は最も重要なテーマのひとつです。人材不足に悩む薬局は、DX推進による業務効率化や働き方の見直し、人材配置の最適化、個別のキャリア支援など、幅広い視点から人材戦略を見直す必要があります。スタッフ一人ひとりの意欲を引き出し、安心して長く働ける環境をつくることが、薬局の持続的な成長と地域医療への貢献につながります。

きらりプライムサービスでは、薬剤師・事務員・管理者向けの研修や、人材採用アドバイス、DX推進支援などを通じて、薬局の人材育成の課題解決に取り組んでいます。さらに、薬局ホームページの作成や人事評価制度の策定など、経営戦略についてのご相談も可能です。薬剤師・調剤薬局事務の採用や育成に悩む薬局経営者の方は、ぜひきらりプライムサービスまでお問い合わせください。

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