在宅医療における薬剤師の悩みとは?実践で大切なスキルを解説!
高齢者が増えるにつれて在宅医療の需要も高まってきました。
しかし、在宅医療をしていくなかでさまざまな悩みを抱えている薬剤師は少なくありません。
「これってどうすればいいの?」と悩み、患者さんへ思うような介入ができないこともあるでしょう。
そこで今回は、薬剤師が在宅医療をしていくうえで抱えがちな悩みについて紹介します。
自信をもって在宅医療に挑めるようになるために必要なスキルも解説しているので、こちらも参考にしてみてください。
目次
在宅医療は今後どうなる?
在宅医療は今後も需要が増していくと考えられます。なぜなら、高齢者の増加にブレーキをかけることが難しいためです。
日本の高齢者の割合は、驚くことに1950年から上がり続けています。
ただ増えているだけでなく、増えるスピードが海外と比べて非常に早いことも特徴です。
2000年に65歳以上の高齢者の割合は17.4%でしたが、2020年では28.7%にまで増えています。
このままのペースだと、2040年には35.3%にまで上がる見込みです。
医療費のうち約60%は高齢者が占めていることから、高齢者が増えるほど医療を必要とする方が増えるのは簡単に想像できます。
高齢になると通院はもちろん薬剤の管理や服用などが難しくなることが多いため、在宅医療はこれからますます需要が増すでしょう。
在宅医療で薬剤師はどんなことを悩むのか?
では、在宅医療に関わる薬剤師が抱えがちな悩みとは一体なんなのでしょうか。ここでは代表的な3つの悩みを紹介します。
①どこまで薬剤師が踏み込んでいいのかわからない
在宅医療を始めるとまず悩むのが「患者さんに触れてもいいのか」という点ではないでしょうか。
たとえば体温や血圧、酸素飽和度などの測定、軟膏の塗布や点眼などです。医行為は医師しかできないと医師法で定められているため、うかつに患者さんへ触れることができません。
上記の行為は厚生労働省の通知により「医行為ではない」とされているので、とくに問題はない行為です。
しかしフィジカルアセスメントと呼ばれるもののなかには、グレーゾーンのものもあります。
どこまで薬剤師が患者さんへ触れてよいのかを社内で話し合い、統一しておくと安心でしょう。
②患者さんがいつまでも心を開いてくれない
在宅医療で患者さんの家に行っても「帰ってくれ!」と強く言われる方もまれにいます。
患者さんご本人は在宅医療を望んでいないものの、ご家族の意向で頼んでいるケースがあるのです。
薬を飲みたがらなかったり、治療に後ろ向きだったりすることもあるでしょう。
このような患者さんが相手の場合、なかなか会話も進みません。とはいえ、在宅医療を行っている以上、ただ薬を渡して帰るわけにもいかないものです。いかにして患者さんの心を開き、服薬アドヒアランスを高められるかを考えなければいけません。
また、患者さんとの会話が続かず気まずい時間が流れてしまう場合もあるでしょう。スムーズなコミュニケーションが取れず悩んでいる方は意外と多いものです。
③切り上げて帰るタイミングが難しい
とくに一人暮らしの患者さんで多いのが、帰り際の引き留めです。
話す相手がいることが嬉しいのでしょう。「お茶でも飲んでいきませんか?」と誘われ、なかなか帰れないことがあります。断るのも申し訳ないと思いつつも、報告書の記入や監査などがあるため、あまり長居はできません。
とはいえ、患者さんとの会話は健康状態を把握するためにはとても重要な手かがりとなります。
程よいタイミングで切り上げられず時間が押してしまうことは、在宅医療をしていると必ずといっていいほど直面する悩みです。
在宅医療の薬剤師で大切なスキル
在宅医療で薬剤師がしっかりと職能を発揮するためには、最低限、次の3つのスキルが必要になります。すぐに身につけられるスキルではないため、日々の生活のなかで少しずつ習得していきましょう。
①コミュニケーション能力
さまざまな個性をもった患者さんの対応をしていくためには、コミュニケーション能力が必須です。
・会話が途切れて気まずい空気が流れないようにする
・最低限の会話から必要な情報を聞き取る
・自分のペースを乱さずに患者さんへ説明や指導を行う
・医師に話しづらいことでも相談してもらえるような雰囲気を作る
コミュニケーション能力といっても、ただ会話が弾めばいいというわけではありません。上記のように、相手に安心感を与えながら必要な情報を聞き取る力が必要です。
②小さな変化にも気づける観察力
変化に気づける力は在宅医療でとても重宝されます。小さな変化への気づきが患者さんの命を救うことにつながる可能性もあるためです。
もし患者さんの手や足に傷があるのに気づいたら、あなたはどのような感想をもちますか?「転んでしまったのかな?」と思うのか、「転倒しやすくなっているのでは?」と思えるのかで在宅医療の質は大きく変わります。
転倒しやすくなっているのだとすれば加齢による筋力低下の影響なのか、薬の副作用によるものなのか、それとも脳出血のような疾患があるのかなどさらに一歩踏み込まなければなりません。場合によっては医療機関の受診を促したり、服薬内容を変更したりする必要もあるでしょう。
転倒による骨折でそのまま寝たきりになる高齢者は少なくないため、傷のような小さな変化でも見逃さない観察力が必要です。
③薬剤師としての知識
薬に関してはもちろん、服薬指導や薬剤管理など薬剤師が調剤を行うために必要なスキルはしっかり身につけておきましょう。
薬の知識がなければ、せっかく在宅医療を行っているのに副作用の発現に気づきにくくなります。
服薬指導に慣れていなければ必要な情報を聞き出したり服薬アドヒアランスやコンプライアンスを上げたりすることができません。
薬局では決して見ることのできない患者さんの私生活に踏み込んでいく以上、薬剤師としての知識と経験がなければ在宅医療のメリットを存分に活かすことは難しいでしょう。
まとめ
在宅医療を行う場合、薬剤師が一体どこまで介入していいのか悩んでしまう方は多くいます。
体温や血圧測定などは問題ありませんが、聴診や触診などのフィジカルアセスメントはグレーゾーンです。
また、患者さんがなかなか心を開いてくれなかったり、帰るタイミングが難しかったりといった悩みを抱えている薬剤師もいるでしょう。
スムーズかつ効率よく在宅医療を行うためには、コミュニケーション能力や観察力が必要です。
一朝一夕で身につけることは難しいため、日々の業務のなかで少しずつスキルを磨いていきましょう。
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監修薬剤師:原 敦子
HYUGA PRIMARY CARE株式会社
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参考資料
統計局ホームページ/令和元年/統計トピックスNo.121 統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで-/1.高齢者の人口
https://www.stat.go.jp/data/topics/topi1211.html
総務省 統計からみた我が国の高齢者
https://www.stat.go.jp/data/topics/pdf/topics126.pdf
健康保険組合連合会 2025年度に向けた国民医療費等の推計
https://www.kenporen.com/include/press/2017/20170925_1.pdf
在宅医療にかかわる薬剤師の患者に対する直接接触行為に関する
研究─必要性の認識と行為頻度─
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsp/35/1/35_10/_pdf/-char/ja