在宅薬学総合体制加算の算定要件となる施設基準と周知活動をわかりやすく解説

2024年度調剤報酬改定で新設された「在宅薬学総合体制加算」は、在宅患者さんへ薬学管理や指導を行う際に必要となる体制を評価するものです。上位区分の在宅薬学総合体制加算2では、より高度な在宅医療の提供体制が求められます。在宅薬局にとって、在宅薬学総合体制加算の算定が体制整備におけるひとつの目安となるでしょう。
今回の記事では、在宅薬学総合体制加算1・2の施設基準を詳しく解説します。在宅に取り組む薬局経営者の方は、ぜひ参考にしてください。
1. 在宅薬学総合体制加算とは
在宅薬学総合体制加算とは、薬局の在宅医療の提供体制を評価する、調剤基本料の加算です。在宅薬学総合体制加算の新設に伴い、従来の「在宅患者調剤加算」は廃止され、評価体系が見直されました。
在宅薬学総合体制加算が新設された背景には、在宅患者さんの多様化とニーズの高度化があります。在宅医療を必要とするのは、高齢者だけではありません。注射による麻薬投与が必要な患者さんや、自宅で医療的ケアを受けながら生活する子どもも増えています。在宅医療の中で薬剤師が果たす役割が大きくなる中、さらなる機能の拡充をめざすため、在宅薬学総合体制加算が設けられました。
1-1. 点数
在宅薬学総合体制加算1 |
15点 |
在宅薬学総合体制加算2 |
50点 |
※特別調剤基本料Aを算定する保険薬局は、100分の10に相当する点数を算定する。
※特別調剤基本料Bを算定している保険薬局は、在宅薬学総合体制加算1・2ともに算定不可。
在宅薬学総合体制加算1は、旧在宅患者調剤加算と同じ15点です。在宅薬学総合体制加算2は、加算1の上位区分としての位置づけで、50点という高い配点が設定されています。
なお、在宅薬学総合体制加算を算定するには、地方厚生(支)局長への届出が必要です。
1-2. 算定要件
在宅薬学総合体制加算は、すべての処方箋を対象とせず、在宅患者さんの処方箋を受けた場合のみ算定できます。具体的には、以下の指導料を算定している患者さんの処方箋を受け付けて調剤を行った場合に算定可能です。
医療保険 |
|
介護保険 |
|
在宅協力薬局が、上記の処方箋を受け付けて訪問薬剤管理指導または居宅療養管理指導を行った場合は、在宅薬学総合体制加算の届出を行っている場合に限り、算定可能です。
(出典:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要【調剤】|令和6年3月5日版」)
2. 在宅薬学総合体制加算1・2の施設基準の比較
在宅薬学総合体制加算2を算定するには、加算1の施設基準をすべて満たすことが条件となります。このため、まずは在宅薬学総合体制加算1の算定をめざし、その後に加算2の要件に取り掛かりましょう。
在宅薬学総合体制加算1・2の要件の比較
加算1 |
加算2 |
|
在宅患者訪問薬剤管理指導の届出 |
〇 |
〇 |
在宅薬剤管理の実績(24回以上/年) |
〇 |
〇 |
開局時間外における在宅業務対応 |
〇 |
〇 |
在宅業務実施体制に係る地域への周知 |
〇 |
〇 |
在宅業務に関する研修・学会等への参加 |
〇 |
〇 |
医療材料・衛生材料の供給体制 |
〇 |
〇 |
麻薬小売業者免許 |
〇 |
〇 |
開局時間の調剤応需体制 |
- |
〇 |
かかりつけ薬剤師指導料等の算定回数の合計 (24回以上/年) |
- - |
〇 |
高度管理医療機器販売業の許可 |
- |
〇 |
ア)ターミナルケア患者に対する体制 |
- |
〇 (ア、イのどちらか) |
イ)小児在宅患者に対する体制 |
- |
〇 (ア、イのどちらか) |
(出典:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要【調剤】|令和6年3月5日版」)
在宅薬学総合体制加算1は、在宅業務に取り組む薬局の基本的な体制を評価するものです。要件のハードルも高くないため、在宅薬局は必ず押さえておきましょう。
一方、在宅薬学総合体制加算2では、がん末期や小児在宅への対応体制など、より高度な体制が求められます。在宅薬局に力を入れている薬局であればぜひ取得したい加算ではあるものの、無菌製剤処理の設備や小児在宅患者の実績がない場合は、計画的な準備が必要となります。
3. 在宅薬学総合体制加算1の施設基準
在宅薬学総合体制加算1の施設基準
(1)在宅患者訪問薬剤管理指導を行う旨の届出を行っている保険薬局であること。 (2)直近1年間に、在宅薬剤管理の算定実績(在宅患者訪問薬剤管理指導料、在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料、在宅患者緊急時等共同指導料、居宅療養管理指導費、介護予防居宅療養管理指導費)が合計24回以上あること。 (3)開局時間外における在宅業務の対応体制が整備されていること。(在宅協力薬局との連携含む。) (4)地域の行政機関、保険医療機関、訪問看護ステーション及び福祉関係者等に対して、患者の急変時等の開局時間外における在宅業務対応体制に係る周知を、自薬局及び同一グループで十分に対応すること。また、地域の行政機関または薬剤師会等を通じて、情報の周知を十分に行っていること。 (5)在宅業務の質向上のために研修実施計画を作成し、計画に基づいた職員の研修実施の実績があること。また、職員が定期的に外部の学術研修を受講していること。(認知症・緩和医療・ターミナルケアの内容が含まれることが望ましい。) (6)医療材料及び衛生材料の供給に必要な整備があること。 (7)麻薬小売業者免許を取得していること。 |
(出典:厚生労働省「特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて|保医発0305第6号 」)
在宅薬学総合体制加算1の施設基準は、旧在宅患者調剤加算をほぼ引き継いだ形となっています。大きな変更点として、在宅実績が年間10回→24回と引き上げられましたが、それに伴い緊急対応の実績(在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料、在宅患者緊急時等協同指導料)がカウントできるようになりました。
3-1. 情報の周知について
在宅薬学総合体制加算1の要件である「在宅業務実施体制に係る地域への周知」については、周知内容や周知対象の条件を満たす必要があります。
周知内容
在宅患者さんの急変時などに対応するための、開局時間外における在宅業務の対応体制について周知する。 [具体例]
上記のほか、地域にとって必要な情報や集約・整理を行い、周知すること。 |
(出典:厚生労働省「疑義解釈資料の送付について(その2)|事務連絡令和6年4月 12日 」)
周知対象
|
薬剤師会の会員のみが情報を閲覧できる場合や、薬局機能情報提供制度による情報では、施設基準を満たしていることにはなりません。地域住民や保険医療機関など周知対象全員が把握しやすいこと、そして在宅業務の対応体制についてわかりやすくまとめた形で情報を周知することが必要です。
周知する情報については、市町村や地区単位で整理することが求められます。実際に情報の集約・整理を実施するのは行政機関や薬剤師会となるので、必要に応じて相談してください。
在宅医療では、多職種連携が不可欠です。地域の医療機関や施設に、薬局の在宅対応体制について周知しておき、日頃から連携体制を構築しておきましょう。
4. 在宅薬学総合体制加算2の施設基準
在宅薬学総合体制加算2の施設基準
(1)加算1の施設基準を全て満たしていること。 (2)開局時間には2名以上の保険薬剤師(うち1名以上は常勤)が勤務し、常態として調剤応需体制を取っていること。 (3)直近1年間に、かかりつけ薬剤師指導料・かかりつけ薬剤師包括管理料の算定回数の合計が24回以上あること。 (4)高度管理医療機器等の販売業の許可を受けていること。 (5)次のアまたはイの要件を満たすこと。 ア)がん末期などターミナルケア患者に対する体制(以下①②を全て満たすこと) イ)小児在宅患者に対する薬学的管理及び指導の実績 |
(出典:厚生労働省「特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて|保医発0305第6号 」)
在宅薬学総合体制加算2は、特に高度な在宅医療の提供体制への評価であり、求められるレベルも高くなります。
- 開局時間の調剤応需体制
2名以上の薬剤師が勤務し、1人が在宅業務で外出しても、もう1人が外来に対応できる体制を整備することが求められます。また、常勤の薬剤師を1人以上配置することも条件です。
- かかりつけ薬剤師指導料の実績
かかりつけ患者さんへの継続的なサポートを想定し、年間24回以上の実績が求められます。ただし、同一グループの保険薬局の勤務者及びその家族に係る算定回数は除きます。
- ターミナルケア患者の対応体制または小児在宅患者の実績
【(ア)ターミナルケア患者に対する体制】では、「医療用麻薬の備蓄・取扱い」と「無菌製剤処理体制」の両方が必須となります。実績ではなく取扱いの可否が問われているので、体制を整えれば要件に適合できます。また、【(ア)ターミナルケア患者に対する体制】と【(イ)小児在宅患者の実績】については、どちらか一方を満たすことが求められます。ターミナルケア患者に対する体制がある場合は、小児在宅患者の実績は必要なく、その逆も然りです。
4-1. 無菌製剤処理を行うための設備について
ほかの薬局にある無菌調剤室の共同利用では、在宅薬学総合体制加算2の無菌製剤処理の要件を満たすことにはなりません。つまり、在宅薬学総合体制加算2を算定するには、自薬局内に【無菌調剤室、クリーンベンチ、安全キャビネット】のいずれかを整備する必要があります。
また、患者さんからの求めがあれば、速やかに無菌製剤処理を実施できる状態を維持するために、以下について定期的な保守点検を実施することが求められます。
- 設備の清掃
- プレフィルターの洗浄などの日常管理や清浄度
- HEPAフィルターの性能
無菌製剤処理の環境整備については、公益社団法人日本薬剤師会「薬局における無菌製剤(注射剤)の調製について」も参考にしてください。
無菌製剤処理の設備を導入するには、数万〜数十万円のコストがかかります。導入にあたっては、在宅薬学総合体制加算の算定回数と導入及び運用管理にかかるコストを算出し、投資回収ができるかがポイントとなるでしょう。また、無菌製剤処理の設備についても多様な種類があるため、それぞれのメリット・デメリットを比較検討して選択することも必要です。
コストはかかるものの、無菌製剤処理の設備を整えることで緊急時にもスピーディーな対応が可能となり、在宅薬局としての価値を上げることができます。薬局の方針や算定状況を見ながら、導入について検討してください。
(出典:厚生労働省「疑義解釈資料の送付について(その4)|事務連絡令和6年5月 10日 」)
まとめ
在宅薬学総合体制加算は、薬局の在宅業務対応体制を評価するため、2024年調剤報酬改定で新設されました。
在宅薬学総合体制加算1は、在宅業務に取り組む薬局であれば取得しやすい加算です。一方、在宅薬学総合体制加算2では、加算1の要件をすべて満たした上で、【無菌製剤処理の設備】または【小児在宅患者の実績】が求められるなど、より高度な体制が必要となります。在宅医療に力を入れている薬局は、ぜひ加算2の取得をめざしてください。
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監修薬剤師:原 敦子
HYUGA PRIMARY CARE株式会社
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