薬局経営者と薬剤師は押さえていきたい 「特定薬剤管理指導加算3」の算出要件と実例

2024年度調剤報酬改定で新設された「特定薬剤管理指導加算3」は、算定頻度が高い一方で、算定の可否に悩むケースも多い加算です。これを受けて、KIRARI PRIMEではWEBセミナーを開催し、実際のきらり薬局のオペレーションを紹介しながら、特定薬剤管理指導加算3の算定要件について解説しました。
今回の記事では、KIRARI PRIMEのセミナーの内容をもとに、特定薬剤管理指導加算3の算出要件をわかりやすく解説した上で、きらり薬局のオペレーションの実例をご紹介します。
本記事は、2024年7月23日に開催したWEBセミナー「どんな時に算定していいの? 特定薬剤管理指導加算3の解説と実例」の内容をもとに作成しています。KIRARI PRIMEのセミナー情報は、こちらよりご確認いただけます。 |
目次
1. 「特定薬剤管理指導加算3」とは?
2024年度調剤報酬改定で新設された「特定薬剤管理指導加算3」は、特に重点的な服薬指導が必要な患者さんに対し、薬剤師が丁寧な説明や指導を行った場合の評価です。2つの区分があり、RMP(医薬品リスク管理計画)に基づいた薬学的管理・指導を行った場合や、長期収載品の選定療養についての説明や指導を行った場合等に算定できます。
特定薬剤管理指導加算3は、対物業務から対人業務への移行を推進する加算のひとつです。薬剤師には、患者さん個々のニーズに応じた細やかな指導を行い、より安全性の高い薬物療法を提供することが求められます。患者さんにとっては難しい内容であることも多いので、聞き手に寄り添った丁寧なコミュニケーションを行い、十分な理解を得るための工夫が必要です。
1-1. 算定要件・点数
特定薬剤管理指導加算3は、薬剤師が重点的な服薬指導が必要と判断し、必要な説明及び指導を行った際の評価です。患者1人につき、当該医薬品に関して、最初に処方された1回に限り算定できます。点数は、(イ)(ロ)ともに5点です。
特定薬剤管理指導加算3の主な算定要件は、以下の通りです。
特定薬剤管理指導加算3(イ) |
5点 |
以下2点について、特に安全性に関する説明が必要な説明を行った場合 ①RMPの策定が義務づけられている医薬品について、当該医薬品を新たに処方された場合に限り、患者またはその家族等に対し、RMPに係る患者向け資材を用いて適正使用や安全性等に関して指導を行った場合 ②処方された薬剤について、緊急安全性情報(イエローレター)及び安全性速報に関する情報提供と指導を行った場合 |
特定薬剤管理指導加算3(ロ) |
5点 |
医薬品の選択に係る情報提供が必要であり、以下2点について調剤前に説明を行った場合 ①選定療養の対象となる先発医薬品を希望する患者に説明を行った場合(説明の結果、患者が選定療養とならなかった場合も算定可) ②医薬品供給不安定のため、前回と異なる銘柄で薬剤を交付することを説明した場合 |
(出典:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要【調剤】」p65)
上記すべての算定要件において、薬歴への記載が必要です。(イ)では、指導に使用したRMP資材等の名称を記載する必要はありませんが、指導の要点は薬歴等に記載してください。
また、(ロ)②では、調剤報酬明細書の摘要欄に、確保できなかった薬剤名とやむを得ない事情を記載する必要があります。後述しますが、この「やむを得ない事情(=提供困難な事情)」については薬局内で基準を設けておき、スタッフによって対応の差が出ないようにすることが大切です。
1-2. (イ)(ロ)の併算定について
(イ)(ロ)の併算定は可能です。しかし、1枚の処方箋で(イ)を2回算定することはできません。
処方箋の内容 |
算定の可否 |
〇〇錠10mg→(イ)に該当 |
(イ)の算定は1回のみ |
〇〇錠10mg→(イ)に該当 |
(イ)(ロ)の併算定が可能 |
▶▶錠10mg→(イ)(ロ)に該当 |
想定されないが、説明した場合は算定可能 |
(出典:厚生労働省「疑義解釈資料の送付について(その1)」(事務連絡令和6年3月28日)p131)
2024年3月28日の疑義解釈では、1つの医薬品で(イ)(ロ)の両方に該当する場合は想定されないと記されています。しかし、それぞれの観点で必要な説明をした場合は算定可能となっているため、併算定を行う際は十分に注意してください。
2. RMP(医薬品リスク管理計画)とは?
RMP(Risk Management Plan)とは、開発・審査・市販後の一連のリスク管理をひとつの文書にまとめた「医薬品リスク管理計画」のことです。医薬品の副作用を最小化することを目的とし、製薬会社が作成します。
(画像元:独立行政法人 医薬品医療機器総合機構「RMP解説資料|『3分でわかる!RMP講座』」)
医薬品の添付文書とRMPの異なる点は、記載されているリスクの種類です。医薬品の添付文書にはすでに確認されたリスクが記載されるのに対し、RMPではまだ確認が十分ではない副作用や、症例数が少ないことによる情報不足の条件等、リスクに関する情報が幅広くまとめられています。
RMPに記載されている内容
安全性検討事項 |
重要な特定されたリスク |
医薬品安全性監視活動 |
情報収集のための活動
副作用症例の収集 |
リスク最小化活動 |
情報提供のための活動
添付文書・患者向け医薬品ガイドの作成及び提供 |
2-1. RMPが閲覧できる場所
すべてのRMPは、PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)のホームページで閲覧可能です。RMPを閲覧するには、2通りの方法があります。
RMPの閲覧方法(1)
①PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)のホームページにアクセス。 |
RMPの閲覧方法(2)
①PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)のホームページにアクセス。 |
RMP資材には「医療従事者向け」と「患者向け」があり、医薬品によっては患者向けのRMP資材がない場合もあります。特定薬剤管理指導加算3を算定するには、患者向けのRMP資材を使用することが条件です。患者向けのRMP資材がない場合は、特定薬剤管理指導加算3を算定することはできません。また、薬機法の再審査により、RMPの策定・実施が解除された医薬品についても、算定対象外となります。
なお、2024年8月時点では、295品目に患者向けのRMP資材があります。すべてのRMP資材を瞬時に把握することは困難なため、患者向けRMP資材の有無を自動表示できる薬歴管理システムなどを上手に活用し、特定薬剤管理指導3の取りこぼしがないように努めましょう。
3. 特定薬剤管理指導加算3のQ&A ~きらり薬局ではどうしてる?~
特定薬剤管理指導加算3の算定要件には不明点が多く、算定に悩む薬局が少なくありません。きらり薬局では、薬局スタッフ間で齟齬が生まれないように、薬局内で特定薬剤管理指導3の算定基準を設けています。
KIRARI PRIMEで開催したWEBセミナー「どんな時に算定していいの?特定薬剤管理指導加算3の解説と実例」では、特定薬剤管理指導3について特に多く寄せられた質問を取り上げ、一例としてきらり薬局のオペレーションをご紹介しました。ここからはセミナーの内容をもとに、特定薬剤管理指導加算3の算定に係る考え方について、きらり薬局の実例をご紹介します。ぜひ、自薬局に適したオペレーションを組み立てる際の参考にしてください。
3-1. 「最初に処方された1回」ってどういうこと?
特定薬剤管理指導加算3は、(イ)(ロ)ともに、「当該医薬品に関して最初に処方された1回」に限り算定できます。しかし、この「最初に処方された1回」について、具体的なケースは明言されておらず、薬局の判断に委ねられています。この「最初に処方された1回」の算定可否について、期間と指導するタイミングの2つのケースを考えてみましょう。
■再算定が可能となる期間は?
当初、きらり薬局では、「3ヵ月間来局がない場合」を「最初の処方」として判断するのがベストではないかという意見が出ました。理由としては、特定薬剤管理指導加算と同じく服薬管理指導料もしくはかかりつけ薬剤師指導料に紐づくお薬手帳や吸入薬指導加算が、3ヵ月毎に算定可能であったためです。
このように、「最初の処方された1回」の考え方において、3ヵ月はひとつの目安となります。ただ、オペレーションの都合により、きらり薬局では6ヵ月となりました。薬局の状況に応じて、ベストなタイミングを検討してください。
■自薬局では初めて指導するが、他薬局ですでに指導されている場合は?
特定薬剤管理指導加算3の算定対象となる医薬品について、「以前から処方されているが、自薬局では初めて指導する」という場合、特定薬剤管理指導加算3は算定できないと考えられます。
その理由は、「特定薬剤管理指導加算1(イ)」の疑義解釈で、「患者としては継続して使用している医薬品ではあるが、当該薬局において初めて患者の処方を受け付けた場合」は、算定できない旨が明記されているためです。これに倣い、特定薬剤管理指導加算3も、患者さん基準で初めて処方されたタイミングで算定するとよいと考えられます。
(出典:厚生労働省「疑義解釈資料の送付について(その1)」(事務連絡令和6年3月28日)p130)
3-2. 「後発医薬品を提供することが困難」ってどんな状況?(区分ロ)
特定薬剤管理指導加算3(ロ)では、「当該保険医療機関又は保険薬局において、後発医薬品の在庫状況等を踏まえ、後発医薬品を提供することが困難な場合」は、保険給付の対象です。これについては、出荷停止や出荷調整等を基準とするのではなく、あくまでも薬局で後発医薬品を提供することが困難かどうかで判断するとされています。具体的にどのような状況を提供困難と呼ぶのかは、それぞれの薬局が決める必要があります。
きらり薬局では、「発注して確定できないもの」を提供困難と判断しています。その他の状況として、「1週間以内に入手できない場合」「患者さんの手持ちに間に合わない場合」なども提供困難と考えられるでしょう。
どのような状況を選択するにしても、薬局内で判断軸がブレていないことが重要です。薬局内で「提供困難な状況」を具体的に定めておき、すべてのスタッフで共有しておきましょう。
(出典:厚生労働省「長期収載品の処方等又は調剤の取扱いに関する 疑義解釈資料の送付について(その1) (事務連絡令和6年7月12 日)」
3-3. 薬剤を交互に変更した場合は算定できる?(区分ロ)
きらり薬局では、前回の処方に対し、供給問題で薬剤を変更した場合は、すべて特定薬剤管理指導加算3を算定しています。
たとえば、医薬品供給が不安定なことを理由に、アムロジピン「日医工」→アムロジピン「トーワ」→アムロジピン「日医工」→アムロジピン「トーワ」と交互に変更した場合、すべてのケースで特定薬剤管理指導加算3を算定できるという判断です。
医薬品の名称に関わらず、供給不安定により処方を変更する場合は、特定薬剤管理指導加算3の算定対象となります。たとえ医薬品が交互に入れ替わっても、迷わずに算定して問題ないでしょう。
3-4. 患者さんが後発医薬品を希望した場合は?(区分ロ)
先発医薬品を希望する患者さんに対し、薬剤師が選定療養について説明を行った結果、患者さんが後発医薬品を選んだ場合でも、特定薬剤管理指導加算3の算定が可能です。特定薬剤管理指導加算3(ロ)は、薬剤師が丁寧な説明を行ったことに対する評価なので、患者さんがどのような医薬品を選んでも算定できます。
なお、最終的に後発医薬品を選んだ場合は保険給付の対象となるので、患者さんが自己負担額を支払う必要はありません。
(出典:厚生労働省「疑義解釈資料の送付について(その1)」(事務連絡令和6年3月28日)p131)
まとめ
特定薬剤管理指導加算3とは、特に重点的な服薬指導が必要な患者さんに対し、丁寧な説明や指導を行った場合の評価です。患者さん1人につき、最初に処方する1回に限り、5点を算定できます。「最初に処方された1回」「後発医薬品を提供することが困難な場合」などについては、薬局内で判断基準を明確化し、根拠を持って算定できるように準備することが大切です。
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監修薬剤師:原 敦子
HYUGA PRIMARY CARE株式会社
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