2024年の薬局業界動向を占う4つのトピックス

在宅医療への参入やオンライン化など、変化の多い薬局業界。2024年は医師の働き方改革やトリプル改定が施行され、薬局にもより本格的な変革が迫られるでしょう。
この記事では、2024年の薬局業界動向を、4つのトピックスからレポート。2024年度に押さえておきたい制度・改定の概要を述べた後、薬局経営のポイントについて解説します。
1-2. M&Aは引き続き活発
1-3. 在宅薬局やかかりつけ薬局移行が促進
1-4. 後継者不足・人材不足が深刻化
2. 2024年度の改定・新制度をチェック
2-1. 医師の働き方改革
2-2. 2024年度調剤報酬改定(トリプル改定)
1. 2024年の薬局業界動向・注目トピックス4選
近年はサービス多様化により、多くの保険薬局が体制整備に奮闘しています。今年は2025年問題を翌年に控えており、薬局を含む医療・福祉業界はさらに多忙な年となるでしょう。
ここでは、2024年の薬局業界動向で、注目したい4つのトピックスを取り上げます。
1-1. 敷地内薬局の営業利益率が悪化
2024年度調剤報酬改定では、敷地内薬局に対し厳しい改定が行われました。敷地内薬局が対象となる特別調剤基本料は、7点から5点にマイナス。さらに、服薬情報等提供料や吸入薬指導加算等の各種加算については、減算や算定不可の措置も取られています。
同様に、診療報酬改定では、敷地内薬局を保有する医療機関に対しても厳しい措置が取られました。国として、患者本位の医薬分業・かかりつけ薬局化を強く推し進めている様子が窺えます。
1-2. M&Aは引き続き活発
大手調剤薬局チェーンやドラッグストアのM&Aによる業界再編は、2024年も継続するでしょう。ドミナント戦略による新規出店が落ち着いた今、大手薬局・ドラッグストアは中小薬局を買収することでエリア拡大を図っています。
M&Aにより大手の傘下に入ることで、存続を図る中小薬局も増えています。かかりつけ薬局や24時間体制に対応できず、経営不振に陥る中小薬局にとって、M&Aは存続をかけた最後の選択肢と言っても過言ではありません。2021年度までは、2〜5店舗の薬局の売却が盛んでした。今後はM&Aの影響をまだ受けていない、6〜19店舗の薬局にも波紋が広がるでしょう。
(出典:厚生労働省「薬局薬剤師に関する基礎資料(概要)」|P5:薬局数の推移等)
近年ではドラッグストアをはじめ、コンビニエンスストアや物流業界などの異業種による調剤薬局業界への参入が相次いでいます。大手調剤薬局チェーンはもちろん、小規模薬局の経営者も、生き残るためのマーケティング戦略を練る必要があります。
1-3. 在宅薬局やかかりつけ薬局移行が促進
「患者のための薬局ビジョン」では、2025年までに、すべての薬局をかかりつけ薬局にすることをめざしています。言い換えれば、2025年以降はかかりつけ機能を持たない場合、薬局としての立場を失う可能性があるということです。可能な限り、2024年中にかかりつけ薬局への移行を済ませておく必要があります。
2025年を目標としている背景に、2025年問題があります。2025年問題とは、すべての団塊世代が75歳以上の後期高齢者となり、医療保険制度の崩壊をはじめとするさまざまな社会問題の総称です。2025年に備えるため、医療・薬局業界では早急な地域包括ケアシステムの構築が求められています。
地域包括ケアシステムの構築において、かかりつけ薬局・薬剤師は、安全かつ最適な薬物療法を提供する役目を担っています。まだかかりつけ機能を持っていない薬局は、薬剤師が在宅医療に参入する意義・役割を理解し、積極的な地域医療への参加について検討しましょう。
1-4. 後継者不足・人材不足が深刻化
企業では経営者の高齢化が進み、後継者不足が大きな課題となっていますが、薬局も例外ではありません。薬局の場合、経営者の子どもが薬剤師になっても、調剤報酬改定の厳格化等を考慮し、事業の引継ぎを断念するケースも目立ちます。
地方や郊外、離島などの医療へき地にある薬局では、薬剤師不足も深刻です。2023年の「薬剤師偏在指標等について (厚生労働省)」によると、地域別の薬局薬剤師偏在指標(二次医療圏別)は、東京都の区中央部が3.08に対し、島しょ部は0.43となっています。2036年度には、島しょ部の薬局薬剤師偏在指標を0.63まで引き上げることを目標としていますが、それでも薬剤師が不足している点に変わりはありません。
後継者の育成には時間がかかるため、経営者が高齢の場合は早めに着手する必要があります。親族もしくは社員から後継者候補を探すのか、社外から後継者を招くのか、あるいはM&Aを行うのか、具体的な方針を明確にしておきましょう。
人材不足については、薬局の工夫次第で解消できる可能性があります。オンライン化や働き方改革を進め、薬剤師が働きたいと思える環境を提供することが大切です。
2. 2024年度の改定・新制度をチェック
2024年4月、医師の働き方改革が施行されました。2024年6月には、医療・介護・障害福祉が同時に改定される、6年に一度のトリプル改定が施行されました。この2つの制度は、2024年の薬局業界動向にも大きな影響を与えています。
ここでは、医師の働き方改革と調剤報酬改定について、押さえておきたいポイントを解説します。
2-1. 医師の働き方改革
2024年4月、「医師の働き方改革」が施行されました。医師の働き方改革とは、医師が健康に働ける環境を整備することで、医療の質・安全を確保し、持続可能な医療提供体制の維持をめざす制度です。
医師の働き方改革では、常態化している医師の長時間労働を解消するため、医師の時間外労働にも上限規制が適用されます。また、医師の負担軽減とパフォーマンス最大化を目的として、医師のタスクシフト・タスクシェアも推進します。
医師のタスクシフト・タスクシェアとは、医師の業務の一部を、看護師や薬剤師等の医療専門職と分担することです。以下に、医師から薬局薬剤師へのタスクシフト・タスクシェアが可能な業務を取り上げます。
医師から薬局薬剤師へのタスク・シフト/シェアが可能な業務
①薬物療法に関する説明等 |
(出典:厚生労働省「現行制度の下で実施可能な範囲におけるタスクシフト/シェアの推進について」)
薬剤師は患者さんに対し、薬の有効性や副作用の詳しい説明や、相談に応じて薬学的知見に基づいた指導を行えます。日々進歩する薬学について、より正確な情報の提供を行うことで、薬剤師の実力を発揮するチャンスになります。
患者さんの残薬管理や重複投薬チェック等を確認し、医師へ処方提案を行うことも、薬剤師の重要な役割です。特に、在宅医療では患者さんの処方薬が多い傾向にあるため、安全かつ最適な薬物療法を提案するために、薬剤師の介入が望まれています。
2-2. 2024年度調剤報酬改定(トリプル改定)
2024年6月の調剤報酬改定では、在宅医療・かかりつけ機能の強化や、医療DX・多職種連携の推進が図られました。
医療従事者の賃上げ策として、調剤基本料はそれぞれ3点アップ。一方で、地域支援体制加算は7点マイナスとなり、かかりつけ機能を適切に評価するために要件の見直しが行われました。、薬局の地域支援体制加算の項目達成状況を確認しておきましょう。
地域支援体制加算のマイナス分を補うには、医療DX加算や在宅薬学体制加算等、基本料の加算を確実に算定する必要があります。加算の取りこぼしがないよう、優先順位を決めて要件達成に取り組むことが重要です。
(出典:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要【調剤】」)
3. 2024年の薬局経営のポイント
ここまで、2024年の薬局業界動向の予想をお伝えしました。調剤薬局が厳しい環境を生き抜くには、ニーズを満たすサービスを提供し、地域に根付いた経営を行うことが大切です。
ここでは、2024年の薬局経営のポイントを紹介します。
3-1. かかりつけ薬局をめざす
「患者のための薬局ビジョン」で示されているとおり、すべての薬局はかかりつけ薬局へと転換する必要があります。かかりつけ薬局となるためには、在宅対応・24時間対応が必須です。
大手薬局が総じて在宅医療への参入に踏み切る中、小規模薬局では資金不足・人材不足等が原因で、在宅医療を諦めるケースが珍しくありません。以下では、小規模薬局が在宅対応・24時間対応体制を整備するポイントを紹介します。
- 薬局スタッフのマインドセット醸成を図る
在宅薬局の経営では、薬剤師はもちろん、事務員の協力も不可欠です。薬局・薬剤師が在宅医療に参入する意義・役割について理解してもらうことで、スタッフの主体的な行動が促せます。
- 人材シェアリングを活用する
人材シェアリングを活用すると、既存薬剤師に負担をかけずに24時間体制を整備できます。人材シェアリングは夜間や早朝等、人材が不足する時間だけ利用できるので、新規採用に比べるとコストパフォーマンスの面でも優れています。
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- リモート薬剤師を採用する
人材不足に悩む薬局は、オンライン服薬指導を導入し、リモート薬剤師を採用するという手もあります。在宅勤務ができる体制が整えば、育児や介護等ライフスタイルの変化による薬剤師の離職も防げます。
- 対物業務の効率化を図る
在宅業務は工程が多いため、ムリ・ムダを省き、生産性向上を図ることが大切です。オペレーションを最適化できれば、少ない薬剤師でも効率よく在宅訪問軒数を増やせます。
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3-2. 在宅医療の拡大・質向上
2024年度調剤報酬改定では、地域包括ケアシステム構築に向けて、薬局の在宅対応の拡充が推進されます。これまでは在宅療養中に対する加算が基本でしたが、2024調剤報酬改定では、在宅移行期やターミナル期にも評価が新設されています。
在宅移行初期管理料 (230点/1回限り) |
訪問薬剤管理指導の前の段階で患者宅を訪問し、服薬状況の確認や薬剤の管理等の必要な指導等を実施した場合の評価 |
在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料 夜間訪問加算(400点) 休日訪問加算(600点) 深夜訪問加算(1,000点) |
末期の悪性腫瘍や注射による麻薬の投与が必要な患者の急変時等に、医師の指示に基づいた緊急訪問をした場合の加算 |
今後、高齢者が増加するに伴い、在宅ニーズも多様化すると予想されます。すでに在宅医療に取り組んでいる薬局は、緩和ケアや特殊調剤等、在宅医療サービスの拡大を図りましょう。緊急時にも速やかに動けるよう、医師やケアマネジャー等との連携を密に取ることも大切です。
3-3. 薬剤師のスキルアップ
在宅薬剤師には、幅広い薬学の知識と技術、そしてコミュニケーション能力が求められます。薬学は日々進歩しているので、常に知識をアップデートすることが大切です。また、現場で薬学的知識・技術を活かすための観察力や洞察力、判断力も求められます。
薬剤師のスキルアップを促進するには、勉強会や講習会の開催や、資格取得補助や資格手当等福利厚生の充実を図りましょう。薬局内で教育体制を整備すると、薬剤師も安心してスキルアップに臨めます。
薬局内でスキルアップのノウハウがない場合は、外部の研修を活用するのもおすすめです。きらりプライムサービスの「教育研修サービス」では、薬局のご希望に応じた研修を設計します。豊富な現場経験を持つ薬剤師によるOJT研修のほか、完全オンラインのe-Learningも準備しているので、ぜひご活用ください。
3-4. 薬局DXの推進
在宅医療の効率化・最適化を図るには、ICTツールやSNSを活用した薬局DXを進めましょう。特に在宅医療では、現場と薬局間で円滑な連携を取るために、デジタル化・オンライン化が欠かせません。多職種連携においても、迅速で正確な情報共有が行えるICTツールの活用が推進されています。
薬局DXの流れ
①課題を把握する |
患者さんの待ち時間が長い、在宅の報告書作成・送付にミスが多い、多職種連携ができていない、薬剤師の薬歴残業が多い…等 |
②課題解決に向けて導入ツールを選定する |
(例) 多職種連携ができていない→ICTツールの導入 薬剤師の薬歴残業が多い→電子薬歴の導入 |
③マニュアル・教育体制を整備する |
システム運用マニュアルの作成、薬剤師のITリテラシー教育、患者さんへの周知パンフレット作成…等 |
④DXの実行、改善 |
システムやツールを導入し、修正しながら業務の質を高めていく |
薬局DXを推進するサービス・ツールには、オンライン服薬指導、電子処方箋、電子薬歴、調剤ロボット、在庫管理システム等があります。オンライン服薬指導や服薬フォローアップの手段として、LINE公式アカウントや専用アプリを導入する薬局も増えています。サービスを選ぶ際は、費用や機能について比較検討を重ね、薬剤師や患者さんが使いやすいものを選びましょう。
きらりプライムサービスの在宅支援システム「ファムケア」は、報告書やトレーシングレポートの管理を電子化するクラウド型システムです。報告書の記載ミス・算定漏れ・送付漏れを防ぎ、在宅業務の効率化を図ります。リアルタイムでの情報共有ができるので、オンコール体制やかかりつけ薬局体制の整備にもお役立てください。
まとめ
2024年は、トリプル改定や医師の働き方改革が施行されました。薬局には地域包括ケアシステム構築に向けて、地域医療の中で薬剤師の専門性を発揮することが望まれています。
2024年、薬局業界では後継者不足・人材不足が深刻化し、M&Aは引き続き活発に行われる見込みです。薬局が生き残るためには、かかりつけ機能を強化し、地域密着型経営を徹底する必要があります。ICTツールやシステムを導入し、多職種連携や対物業務の効率化にも取り組みましょう。
KIRARI PRIME サービスは、在宅薬局経営の総合支援サービスです。在宅訪問の始め方から在宅患者獲得、人材シェアリング、在宅薬剤師の育成まで、幅広くサポートしています。在宅薬局についてお困りの薬局経営者の方は、ぜひ一度KIRARI PRIME サービスにお問い合わせください。
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監修薬剤師:原 敦子
HYUGA PRIMARY CARE株式会社
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