2024年度調剤報酬改定の考え方と改定ポイント

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2024年度調剤報酬改定の考え方と改定ポイント

1. 2024年度診療(調剤)報酬改定の基本方針

2024年、6年に1度の診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬におけるトリプル改定が行われます。今回のトリプル改定は、ポスト2025年を見据えて、地域包括ケアシステムや医療DXに本格的に踏み込んだ内容となりました。

ここでは、厚生労働省から3月5日に公表された「令和6年度診療報酬改定の概要【調剤】」をもとに、2024年度診療報酬改定の4つの方向性を整理します。

1-1. 医療従事者の働き方改革・賃上げの推進

2024年度診療報酬改定では、近年の物価高への対応として、医療従事者の賃上げが促されます。賃上げの原資を確保するため、以下の措置が取られます。

  • 病院、診療所、歯科診療所、訪問看護ステーションに勤務する看護職員、病院薬剤師その他の医療関係職種の賃上げのための特例的な対応…+0.61%の改定
  • 40歳未満の勤務医師・勤務歯科医師・薬局の勤務薬剤師、事務職員、歯科技工所等で従事する者の賃上げに資する措置…+0.28%程度の改定

薬局で賃上げの対象となるのは、40歳未満の薬剤師や事務職員で、改定率は+0.28%程度となります。この実現に向けて、2024年度診療報酬改定では、調剤基本料1〜3が3点ずつ引き上げられます。

診療報酬による賃上げについては、賃上げ促進税制の対象となります。薬局の規模や上乗せ要件の達成によって、給与等支給額の増加額の最大45%の税額控除を受けることが可能です。また、賃上げの実施状況については、抽出調査の実施や、賃金引き上げに係る報告書の提出等により、随時確認が行われる予定です。

1-2. 地域包括ケアシステムの深化・医療DX推進・連携強化

2024年調剤報酬改定では、ポスト2025年を見据え、地域包括ケアシステムの深化や、医療DXによる機能強化・多職種連携の推進が図られます。急性期から回復期、在宅復帰、そして緩和ケアに至るまで、段階に応じて適切なサービスを提供できるよう、薬局にはより高い専門性や能動的な介入が求められます。

また、電子処方箋やマイナ保険証の対応体制の評価として、医療DX推進体制整備加算が新設されました。現行の保険証は2024年12月に廃止が決まり、マイナ保険証への一本化が進められています。薬局でもマイナ保険証が利用できるように、体制を整えましょう。

(出典:厚生労働省「マイナンバーカードの健康保険証利用について」)

1-3. 質の高い医療の推進

安心・安全で質の高い医療を推進するため、薬局では対物中心から対人中心への転換が推進されます。薬局の対人業務で中心となるのは、かかりつけ機能です。在宅訪問をはじめ、健康相談や服薬フォローアップなど、患者個人に寄り添ったサポートが求められます。

前回の調剤報酬改定では、対物業務の実質的引き下げによって、対人業務への移行が促されました。しかし、今回の2024年度では、対人業務に係る評価の新設・見直しが行われ、より薬局・薬剤師の役割に踏み込んだ内容となっています。形式だけでなく、「地域医療のために薬局として何をしているか」という、具体的なサポートの内容が問われています。

1-4. 医療保険制度の安全性・持続可能性の向上

高齢化や医療技術の進歩、高額な医薬品開発等による医療費の増大が見込まれる中、医療保険制度の安定性・持続可能性の向上に対する取り組みも行われます。高額薬剤の保険適用や高齢者の増加により国の医療費は高騰する一方で、支え手となる現役世代は減少しており、医療保険制度の維持は困難な状況です。

薬剤師には、重複投薬チェックや残薬管理により、薬剤費削減・医療費適正化に貢献することが求められています。医薬品の適正使用を促すためにも、医師やケアマネジャー等との密な連携が欠かせません。

2. 2024年度調剤報酬改定のポイント

ここでは、厚生労働省から公表された「令和6年度診療報酬改定の概要【調剤】」をもとに、2024年度調剤報酬改定で特に注目したいポイントを取り上げます。

2-1. 地域支援体制加算の見直し

(出典:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要【調剤】」)

新制度の地域支援体制加算は、1〜4すべてで7点マイナスとなります。また、地域支援体制加算の施設基準が厳格化されました。特に押さえておきたいポイントは、以下の3つです。

  • 在宅訪問実績 24回以上
  • かかりつけ薬剤師の届出
  • 麻薬小売業者免許

上記3つは、旧制度では地域支援体制加算1の施設基準でしたが、新制度では加算1〜4に共通する施設基準に変更となります。在宅訪問を行っていない薬局は、地域支援体制加算を算定できない点に注意が必要です。

実績要件については、地域支援体制加算1及び2で大きな変更があります。

地域支援体制加算2:10項目中8項目以上

地域支援体制加算1:『かかりつけ薬剤師指導料実績・月20回以上』を含む3項目以上

ハードルが高いように思えますが、実績要件の内容自体は緩和されています。一つひとつの項目を着実にクリアし、算定をめざしましょう。

なお、基本料には新たな加算が新設されています。これらの基本料の加算がしっかり取れれば、地域支援体制加算のマイナス分を補完する以上の点数を算定することが可能です。

  • 基本料の加算(地域支援体制加算以外)

加算

点数(変更前→変更後)

【調剤基本料1】

地域支援体制加算1

地域支援体制加算2


【調剤基本料1以外】

地域支援体制加算3

地域支援体制加算4


39点→32点

47点→40点



17点→10点

39点→32点

後発医薬品調剤体制加算1(80%以上)

後発医薬品調剤体制加算2(85%以上)

後発医薬品調剤体制加算3(90%以上)

21点

28点

30点

(変更なし)

連携強化加算

2点→5点

(新)医療DX推進体制整備加算

4点(月1回)

(新)在宅薬学総合体制加算1

(新)在宅薬学総合体制加算2

15点

50点

2-2. ターミナルケアや小児在宅医療の評価拡充

2024年度調剤報酬改定では、在宅医療の質向上をめざし、在宅移行期やターミナルケア、小児在宅医療に対する評価が拡充されます。薬局・薬剤師による、地域医療への主体的な参加が求められています。

(新)在宅移行初期管理料

計画的な訪問薬剤管理指導に入る前の段階で患者を訪問し、服薬状況の確認や薬剤管理等の必要な指導を実施した場合の評価

  • 230点(1回限り)

(新)在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料1の夜間・休日・深夜加算

末期の悪性腫瘍や注射による麻薬の投与が必要な患者の急変時における緊急訪問の加算

  • 夜間訪問加算  400点
  • 休日訪問加算  600点
  • 深夜訪問加算 1,000点

在宅患者訪問薬剤管理指導料

注射による麻薬の投与が必要な患者への定期訪問の上限回数見直し

  • 月4回→週2回かつ月8回

在宅患者重複投薬・相互作用等防止管理料

薬剤師が医師とともに患者を訪問する、またICT活用等で多職種連携ができる環境で、薬剤師が医師に対して行った処方提案が反映された場合の評価の追加

  • 残薬調整以外 40点
  • 残薬調整   20点

薬剤師の負担になりやすい緊急訪問に対する点数は大きく、薬局の24時間365日対応への期待が窺えます。在宅患者重複投薬・相互作用等防止管理料では、薬剤師のチーム医療への参加にも評価が設けられ、対人業務への移行を後押しする内容となっています。

2-3. かかりつけ機能の発揮に向けた評価の見直し

2024年度調剤報酬改定では、地域ニーズに応じたきめ細かなサポートを提供するため、薬局・薬剤師の役割が具体的に示されています。

  • 24時間対応の要件見直し

休日・夜間等のやむを得ない場合は、薬局単位での対応でも可能

  • 服薬管理指導料の特例の見直し

かかりつけ薬剤師以外がやむを得ず対応する場合、薬局に勤務する常勤薬剤師(かかりつけ薬剤師指導料等の施設基準を満たす)が対応可能

  • かかりつけ薬剤師の業務範囲の見直し

かかりつけ薬剤師指導料を算定している患者に対して吸入指導を実施した場合にも、吸入薬指導加算が算定可能/調剤後フォローアップ推進のため調剤後薬剤管理指導料1・2が新設

全体的に要件が緩和され、かかりつけ薬剤師に過度な負担を与えず、柔軟な対応ができるようになりました。糖尿病と心不全の調剤後フォローアップは、調剤後薬剤管理指導料として新設され、かかりつけ薬剤師指導料との併算定が可能となります。

3. 2024年度調剤報酬改定は2ヶ月後ろ倒し・6月1日施行

2024年度調剤報酬改定は、2ヵ月後ろ倒しで6月1日に施行されました。後ろ倒しとなった背景には、診療報酬改定と同時に検討されている「医療DX令和ビジョン2030」があります。この中で、医療DXにかかる医療機関や薬局の業務負担を軽減するため、調剤報酬改定の施行時期を遅らせる運びとなりました。

なお、薬価改定は、従来通り4月1日に施行されています。薬価改定に遅れる形で調剤報酬改定が施行されるため、患者さんには処方箋の内容が変わる可能性がある旨を伝えておくと親切です。

4. 【4月1日施行】2024年度薬価改定のポイント

薬価改定は、4月1日に施行されました。改定率は、医療費ベースで▲0.97%(薬剤費ベースで▲4.67%)です。今回の薬価改定では、ドラッグラグ・ドラッグロスの解消と、医薬品の安定供給が大きなテーマとなっています。

ここでは、厚生労働省「令和6年度薬価基準改定の概要」を参考に、2024年度薬価改定の主なポイントを取り上げます。

4-1. 【新薬】新薬創出等加算の見直し

2024年度薬価改定では、新薬創出等加算において、企業指標が廃止されました。従来の評価方法では、小規模なベンチャー企業などに不利な状況である点等が考慮されたためです。ただし、「新薬創出等加算における対象企業の確認事項」に沿って開発状況を確認し、過去5年間いずれの項目も満たさない企業は加算対象外となります。

また、2024年度からは実勢価格の薬価との乖離率が、全品目の平均乖離率を超える品目については、新薬創出等加算の対象外となりました。加算額の計算式も見直されています。

4-2. 【後発品・長期収載品】保険給付の在り方の見直し

長期収載品については、保険給付の在り方の見直しが行われ、選定療養の仕組みが整えられつつあります。これは、10月1日から、ジェネリック(後発医薬品)のある特許切れの先発医薬品を患者さんが希望した場合、差額の4分の1を患者さんが負担するというものです。

長期収載品の選定療養化を控えているため、今回の薬価改定では、長期収載品について薬価改定ルールの見直しは行われていません。選定療養化実施後の状況によって、次回以降の薬価改定で検討される予定です。

(出典:厚生労働省「長期収載品の処方等又は調剤について」
(出典:厚生労働省「療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等」及び「保険外併用療養費に係る厚生労働大臣が定める医薬品等」の実施上の留意事項について」の一部改正について」

5. 2024年度調剤報酬改定を踏まえて薬局が取り組むべきこと

多くの薬局は、2024年度調剤報酬に向けて、さまざまな準備を行ってきたことでしょう。スタートが遅れた薬局も、ポイントを押さえれば今から挽回できます。諦めずに、着々と体制を整えましょう。

5-1. 在宅医療の推進

2024年度調剤報酬改定において、地域支援体制加算では、共通の施設基準として「在宅訪問の実績・年24回以上」「かかりつけ薬剤師の届出」が必須となります。つまり、24時間体制で在宅訪問を行っていない薬局は、地域支援体制加算を算定することができません。まだ体制を整えていない薬局は、かかりつけ薬局への移行と、在宅の実績作りを急ぐ必要があります。

すでにかかりつけ機能を備えている薬局は、在宅業務の効率化や、薬剤師のスキルアップを図りましょう。トレーシングレポートの書き方や多職種連携の取り方等、薬剤師がつまずきやすい業務については、薬局内で事例共有ができる仕組みを整えておくとスムーズです。

5-2. オンライン体制・ICTの整備

医療DX・薬局DXは、2024年度調剤報酬改定の重要なテーマのひとつです。オンライン体制やICTツールにはさまざまな種類があるものの、まずはオンライン服薬指導の導入をおすすめします。オンライン服薬指導は在宅訪問と併用できるので、薬剤師の業務負担軽減に役立ちます。薬剤師の在宅勤務も可能となり、働き方改革の推進や人材確保が期待できます。

電子処方箋、電子薬歴、電子版お薬手帳等も、在宅業務を円滑化できるサービスです。オンライン服薬指導や電子版お薬手帳を運用するため、LINE公式アカウントや薬局アプリを活用する薬局も増えています。

多職種連携では、迅速で正確な情報共有ができるICTツールの活用が推奨されています。緊急時は電話、それ以外の情報交換はICTツールというように、連携の一部をICTに置き換えると、きめ細かで効率的な情報共有が実現するでしょう。

まとめ

2024年度のトリプル改定では、2025年・2040年問題に向けて、医療従事者の人材確保・賃上げや、地域包括ケアシステムの推進が重視されています。調剤報酬改定では、対物から対人への転換を推進するべく、かかりつけ機能や多職種連携、薬局DXに対する評価が強化されました。

地域支援体制加算の施設基準では、「在宅実績年24回以上」「かかりつけ薬剤師の届出」「麻薬小売業者免許」が必須となります。今後、在宅訪問は、薬局の重要な役割としてさらに拡大していくでしょう。

きらりプライムサービスでは、薬局の在宅医療への参入や在宅業務効率化、24時間対応体制構築、人材育成などをサポートしています。かかりつけ薬局・薬剤師の体制整備にお困りの薬局は、ぜひ一度きらりプライムサービスにご相談ください。

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監修薬剤師:原 敦子
HYUGA PRIMARY CARE株式会社
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【当コラムの掲載内容に関するご注意点】
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