在宅薬局を成功させるために 薬剤師に求める役割・スキル・人物像

-
薬局の在宅訪問は、薬剤師一人ひとりの専門性やスキルによって大きく質が変わります。患者さんが安心して在宅医療を受けられるように、在宅薬剤師の育成に取り組む必要があります。
今回は、在宅薬剤師に求められる役割・必要なスキルと、在宅薬局に欠かせない「かかりつけ薬剤師」について解説します。在宅薬局にふさわしい薬剤師の採用・育成の参考にしてください。
目次
1-1. 服薬指導・管理
1-2. 多職種連携・情報共有
2. 在宅薬剤師に必要なスキル
2-1. コミュニケーション能力
2-2. 総合的な判断力
3. 在宅薬局に欠かせない「かかりつけ薬剤師」
4. かかりつけ薬剤師・在宅薬剤師に求められる人物像
まとめ
1. 在宅薬局・薬剤師の役割
在宅医療への参入は薬局が生き残る道ではありますが、在宅医療に薬局・薬剤師が関与する意義を理解して主体的に取り組まなければ、患者さんにとって価値あるサービスを提供することはできません。
まずは、在宅医療における薬局・薬剤師の主な役割を確認しましょう。
1-1. 服薬指導・管理
在宅薬剤師は、患者さんの自宅に医薬品や衛生用品を届けて、患者さん一人ひとりに応じた服薬指導や薬剤の管理を行います。
在宅薬剤師の業務例
- 患者さんの状態に応じた調剤(一包化、粉砕、無菌調剤など)
- 薬の飲み合わせの確認
- 残薬管理
- 薬の保管状況の確認
在宅の患者さんは高齢者が多いので、身体機能の低下によって服薬困難になりやすく、重複投薬相互作用のリスクもあります。このような問題点を考慮し、患者さんの状況を把握したうえで、薬を飲みやすいように一包化したり、飲み忘れを防ぐために服薬カレンダーを用意したりといった工夫をし、安全な薬物療法の提供に努めるのが薬剤師の役割です。
患者さんの自宅で残薬が見つかった際には、処方医に次回の処方で数を調整できないか提案することもあります。残薬は国の医療費の約2割を占めるとも言われており、医療費を抑制するためにも薬剤師による残薬管理に期待が集まっています。
1-2. 多職種連携・情報共有
在宅医療では、医師や看護師、ケアマネジャーなどの専門職と連携して、患者さんの療養をサポートします。在宅薬剤師はチーム医療の一員としての自覚を持ち、広い視野で在宅医療に関わることが求められます。
薬剤師が在宅訪問で異変や違和感を覚えたら、速やかに他職種に情報を共有する必要があります。薬剤師にとっては些細なことでも、他の専門職にとっては貴重な情報となる可能性もあります。
薬局は、他職種とこまめな情報共有ができるよう、ICTを活用した連携体制を構築する必要があります。システムやチャットツールを利用すれば気軽に情報交換が行えるため、より多くの情報を多職種間で共有できるでしょう。
2. 在宅薬剤師に必要なスキル
在宅訪問では窓口対応にはない業務も含まれるため、薬剤師にも在宅業務に見合ったスキルが求められます。薬学に関する専門的な知識が求められるのはもちろんですが、それだけでは在宅業務は務まりません。
ここで紹介するスキルを参考にして、在宅薬剤師の採用・育成に役立ててください。
2-1. コミュニケーション能力
在宅薬剤師で最も重要なスキルのひとつが、コミュニケーション能力です。在宅訪問では、患者さんと密なコミュニケーションを取りながら、長期間にわたって信頼関係を築いていきます。
在宅医療の対象疾患には、がん終末期や重症小児、精神疾患なども含まれるので、患者さんやご家族に対する心のケアも必要です。薬剤師には、患者の訴えを聞いて受け止め、辛い感情に共感するといった高度なコミュニケーション能力が求められます。
また、在宅医療では、医師・歯科医師・訪問看護師・ケアマネジャー・介護スタッフ・理学療法士など、さまざまな専門職と連携して患者さんをサポートします。チーム医療における薬剤師の役割は、薬学的知識に基づいて安全かつ適切な薬物療法を進めることです。
専門の異なる職種同士がお互いを理解するのは、簡単なことではありません。薬剤師には、薬学の専門家として知識・技術を提供しつつ、他職種の意見も尊重するという柔軟なコミュニケーション能力が必要です。
2-2. 総合的な判断力
在宅訪問では、患者さんの健康状態や部屋の様子などを観察し、症状を推察したうえで適切な判断を行います。
たとえば、患者さんがいつもより少しぼんやりしている場合、「調子が悪いのかな」と見過ごしてしまうのは危険です。”少しぼんやりしている”程度でも、薬の副作用や精神症状の発現などが考えられるからです。最初の小さな変化を見逃してしまうと、後々大きな病気や症状の悪化につながる恐れがあるので、訪問時は毎回慎重に対応する必要があります。
薬の副作用が出現した場合には、処方医に患者さんの状態を伝え、必要に応じて処方提案を行います。場合によっては、患者さんの精神状態などをヒアリングして、多職種に共有する必要もあるでしょう。在宅薬剤師には、小さな変化から情報を読み取って、深く考察する力が求められます。
3. 在宅薬局に欠かせない「かかりつけ薬剤師」
在宅対応・24時間訪問が必須であるかかりつけ薬局には、かかりつけ薬剤師の存在が不可欠です。かかりつけ薬剤師は、患者さんの服用薬をすべて管理し、薬を通して患者さんや地域住民の健康を支えます。さらに、開局時間外でも患者さんからの相談を受け付け、「薬や健康についていつでも気軽に相談できる存在」として患者さんをサポートします。
かかりつけ薬剤師になる要件
①薬局勤務経験が3年以上ある
②当該薬局に週32時間以上勤め、かつ1年以上在籍している
③認定薬剤師を取得している
④医療にかかわる地域活動に参加している
かかりつけ薬剤師になるには、「薬剤師認定制度認証機構が認証している認定薬剤師の取得」が必要です。認定薬剤師には、主に生涯研修・特定領域・専門薬剤師の3つの分野があり、各分野でさまざまな資格があります。どの資格をめざせばいいか悩む場合は、勤務先の薬局と相談しながら決めるとよいでしょう。
かかりつけ業務は調剤報酬でも点数が高いため、薬局の収入アップにもつながります。在宅薬剤師に特別な資格は必要ないものの、かかりつけ薬局として質の高い医療サービスを提供するには、かかりつけ薬剤師の配置は必須といえるでしょう。
4. かかりつけ薬剤師(在宅薬剤師)に求められる人物像
患者さんひとりにつき、かかりつけ薬剤師はひとりしか選ぶことができません。患者さんに選ばれるかかりつけ薬剤師となるために、薬局内でめざすべき薬剤師像を共有しておくことが大切です。
かかりつけ薬剤師に求められる人物像
- 専門知識や経験が豊富にある
- 患者さんや医療関係者と信頼関係を築くことができる
- 患者さんに寄り添った対応ができる
かかりつけ薬剤師には医薬品だけでなく、OTC医薬品やサプリメントなどの幅広い知識が求められます。今後、在宅医療では高齢者に多い糖尿病・認知症・がんなどの症状を抱える患者さんが増えると予想されるため、さまざまな疾患に関する専門的な知識も必要となるでしょう。薬剤師に主体性が問われるのはもちろんですが、薬局としても薬剤師が学べる機会を積極的に提供して成長をサポートすることが大切です。
まとめ
在宅薬剤師は、患者さん一人ひとりに応じた服薬指導・管理を行い、円滑な多職種連携のもとで安全な薬物療法を提供します。高いコミュニケーション能力や、些細なことに気づく観察力、総合的な判断力が求められる仕事です。
在宅薬局を推進するためには、かかりつけ薬剤師の配置も欠かせません。かかりつけ薬剤師を確保することで、より質の高い在宅医療が提供でき、地域住民の健康維持・促進を広くサポートできます。
「KIRARI PRIME サービス」は、在宅薬局経営をサポートするサブスクリプションサービスです。「KIRARI PRIME サービス」では、在宅薬剤師の教育研修支援として、在宅業務に必要なノウハウをOJT研修でお伝えしています。在宅薬剤師スタッフ育成、管理者育成、在宅業務導入など、お悩みに応じた研修を設計いたします。在宅訪問でお困りの薬局経営者の方は、ぜひ「KIRARI PRIME サービス」にご相談ください。
===================監修薬剤師:原 敦子
HYUGA PRIMARY CARE株式会社
===================
【当コラムの掲載内容に関するご注意点】
1.当コラムに掲載されている情報につきましては、事実や根拠に基づく執筆を心がけており、不適切な表現がないか、細心の注意を払っておりますが、その内容の正確性、有効性につき何らかの保証をあたえるものではなく、執筆者個人の見解である場合もございます。あくまで、読者様ご自身のご判断にてお読みいただき、ご参考に頂ければと存じます。
2.当コラムの情報は執筆時点の情報であり、掲載後の状況により、内容に変更が生じる場合がございます。その場合、予告なく当社の判断で変更、更新する場合がございます。
3.前各項の事項により読者様に生じた何らかの損害、損失について、当社は一切の責任も負うものではございませんので、あらかじめ、ご了承ください。