医師の働き方改革「タスクシフト・シェア」で薬局経営者・薬剤師が求められること

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医師の働き方改革「タスクシフト・シェア」で薬局経営者・薬剤師が求められること

1. 医師のタスクシフト・シェアとは

医師のタスクシフト(シフティング)・タスクシェア(シェアリング)とは、医師が担当する業務を可能な範囲でほかの医療従事者と分担することにより、医師の業務負担軽減を図る取り組みです。タスクシフトは業務移管のことで、医師の業務を他職種が引き受けることをいいます。一方、タスクシェアは、医師が1人で行っていた業務を他職種と共同で実施することです。

医療現場では、医師の長時間労働や地方での深刻な医師不足が問題となっており、今後高齢者が増える中で、さらなる医師への負担増加が危ぶまれています。このような背景を踏まえて、医師の労働環境を改善するため、2024年4月から医師の働き方改革が施行される予定です。医師の働き方改革では、医師に対して時間外労働の上限規制が適用されることになるため、医療現場では医療の質を維持しながらどのように業務改善を実現するかが課題となっています。

そこで、医師の働き方改革を推進するための具体的な手段のひとつとして、注目を集めているのがタスクシフト・シェアです。タスクシフト・シェアでは、医師の業務負担軽減だけでなく、各医療従事者が専門性を発揮することによる医療の質向上にも期待が寄せられています。

出典:厚生労働省「医師の働き方改革について」

 

2. タスクシフト・シェアで薬剤師に求められる役割

医師のタスクシフト・シェアによって、薬剤師には新たな役割が与えられることになります。ここでは、「現行制度の下で実施可能な範囲におけるタスクシフト/シェアの推進について」に基づいて、タスクシフト・シェアによって薬剤師に期待される役割を見ていきましょう。

2-1. 周術期における薬学的管理

患者さんの手術前後の期間における薬剤管理を、医師に代わって薬剤師が行うことが期待されています。医療技術は日々進歩しており、新薬の登場によって薬物療法も複雑化している中で、医師1人で薬剤の対応をすることは容易ではありません。薬学の専門家である薬剤師が介入することで、医師の薬剤の取り扱いにかかわる業務負担が軽減できます。

以下は、周術期における薬剤師の業務例です。

術前

・薬歴の確認

・薬物療法に関する情報共有

・術前の休止・継続中の医薬品の確認

・アレルギー歴や副作用歴の確認

・術中・術後に仕様予定の医薬品の評価

術中

・医薬品の適正な管理

・医薬品に関する情報提供

・医薬品の選択および投与量・投与速度の算出への関与

・使用中の医薬品の状況把握

・注射薬調製

術後

・術中の有害事象の情報収集

・麻酔覚醒レベルの確認

・バイタルサインの確認

・中止していた医薬品再開の確認

退院後

・薬物療法に関する情報共有

・定期的な服薬状況の確認

・薬物療法のモニタリング

・処方内容見直しの提案

・定められた範囲内での実技指導

出典:一般社団法人 日本病院薬剤師会 「周術期薬剤業務の進め方」

特に、手術室やICU、救命救急等のハイリスクな部門における薬剤師へのタスクシフト・シェアは、手術を安全に進めるために大いに貢献するとして体制整備が急がれています。

調剤薬局では、主に患者さんの入退院時や、社会復帰におけるサポートを担うことになります。周術期にある患者さんをサポートし、医療機関と連携を強化するためには、在宅訪問の体制を整えることが重要となるでしょう。

2-2. 薬物療法に関する説明

従来は、医師が処方する医薬品の効果や副作用について伝えていましたが、タスクシフト・シェアによって、薬物療法に関する説明は薬剤師より行うことが可能となりました。医師が患者さんに治療方針を伝えたあとに、薬剤師は以下に示す説明を行えます。

・薬物療法のスケジュールの説明

・医薬品の効果や副作用の説明

・副作用軽減のための対応

・薬物療法に関する相談対応

限られた診察時間内で、医師が細かく薬物療法の説明をするには限界があります。しかし、薬剤師が薬物療法に関する説明を担えば、薬の飲み方や保管方法などの細かい点を、患者さんが納得できるまでしっかり伝えることが可能です。薬剤師から丁寧に説明を受けることで、患者さんははじめて飲む薬でも安心して飲めるようになり、効果的に薬物治療を進めていけるでしょう。

2-3. 医師への処方提案・処方支援

薬学に知見のある薬剤師が医師と協働して処方を考えることで、より質の高い薬物療法の提供が可能です。薬剤師が積極的に処方提案をすると、患者さんの状況に合わせたきめ細かな処方が可能となり、過剰処方の防止にも役立ちます。

薬剤師による処方提案・処方支援の内容

・患者さんの持参薬の確認と処方内容の評価

・アレルギー歴・副作用歴・バイタルサイン・検査結果などの確認およびカンファレンスに参加し、患者さんの状態を把握した上での処方提案・処方支援

・残薬状況や副作用の確認、必要に応じて医師への情報提供

病棟では、作成したプロトコルに基づき、薬剤師が処方オーダーの代行入力を行う取り組みも始まっています。薬剤師の薬学的知見が生かされるとともに、医師の処方入力の負担も減るため、チーム医療として理想的な医療提供体制であると言えるでしょう。

調剤薬局が医師への処方提案を行うためには、適切なフォローアップで患者さんの服薬状況を把握すること、そして医療機関との連携を密にして信頼関係を築くことが大切です。

3. タスクシフト・シェアに向けて薬局が取り組むべきこと

医師のタスクシフト・シェアは今後もますます進み、薬局や薬剤師の業務範囲も広がると考えられます。薬局経営者は、タスクシフト・シェアに十分対応できる体制を整え、医師との信頼関係を築いていくことが大切です。

ここでは、タスクシフト・シェアに向けて、薬局が取り組むべきことを解説します。

3-1. 業務効率化による対人業務の充実化

タスクシフト・シェアをただ受け入れるだけでは、薬剤師の負担は増す一方です。新たな仕事で薬剤師としての専門性を発揮するためにも、今ある業務の効率化を促しましょう。

タスクシフト・シェアで任される業務は、患者さんへの薬物療法の説明や、適切な処方提案など、対人業務に関するものがほとんどです。薬局業界でも対物業務から対人業務への移行が求められる中、対物業務にかかる効率化は率先して取り組むべき事案といえるでしょう。

たとえば、調剤ロボットを導入すれば、薬剤師の業務負担軽減・調剤ミス予防が図れます。薬剤師の業務負担軽減や医療機関との連携強化には、薬歴管理システムの導入も効果的です。薬剤師の薬歴作成がスムーズになることに加え、システムのメッセージ機能を用いれば他職種への情報提供もスピーディに行えます。

3-2. 薬剤師のスキルアップ

医師のタスクシフト・シェアによって、薬剤師の服薬指導がより重要になっています。調剤から服薬、対物から対人へのシフトのなかで、最も高めたいスキルはコミュニケ―ション力です。患者様の理解度の把握と適切な指導、医師との情報共有や処方内容の提案など、薬剤師が担う役割が広がるなかで、スムーズな連携や信頼関係構築の重要度が増しています。セミナーや書籍による研鑽に加えて、現場でのフィードバックなど、薬剤師に気づきをもたらす機会を積極的に作っていく必要があります。

医師とのコミュニケーションにおいて、医薬品に関する質問にはすべて答えられるよう、薬学の知識は常にアップデートしなければなりません。薬剤師の知識・技術向上のためには、薬局による勉強会の開催や、セミナーへの参加促進が有効です。

需要が高まっている地域包括ケアへの参加に向けて、在宅医療への進出も検討すべきでしょう。在宅訪問で薬学管理や患者や家族への支援、緩和ケアに関わる中で、薬剤師としての経験も培われていきます。

また、かかりつけ制度や認定薬局制度をうまく活用し、薬局としての方向性を示すことは、薬剤師のモチベーションも高まります。薬剤師と今後のビジョンについて相談しつつ、タスクシフト・シェアに向けての準備を整えましょう。

まとめ

医師の長時間労働などを解決するため、2024年より医師の働き方改革がスタートします。そこで、医師の業務負担軽減や医療の質向上を推進する取り組みとして注目されているのが、タスクシフト・シェアです。

タスクシフト・シェアによって、薬剤師は処方提案や薬物療法の説明など、薬学的知見を活かせる専門性の高い仕事が任されることになります。調剤薬局でも積極的にタスクシフト・シェアに関われるよう、業務効率化や薬剤師のスキルアップに取り組みましょう。

KIRARI PRIMEサービスでは、在宅薬局経営の効率化や薬剤師の教育をサポートしています。在宅訪問の効率化を図る在宅支援システム「ファムケア」を提供するほか、在宅薬剤師のノウハウを伝える勉強会・セミナーも随時開催中です。在宅薬局・在宅訪問でお悩みの方は、ぜひKIRARI PRIMEサービスにご相談ください。

 

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監修薬剤師:原 敦子
HYUGA PRIMARY CARE株式会社
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