在宅医療・在宅訪問で求められる薬局の役割と価値
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近年は薬局のサービスの幅が広がっており、在宅医療もそのうちのひとつです。現在は、すべての薬局が在宅訪問に対応しているわけではないものの、今後の薬局経営においては必要不可欠なサービスになるでしょう。
今回の記事では、在宅医療・在宅訪問で求められる薬局の役割を整理したうえで、在宅医療に薬局が介在することによる価値を考察します。
目次
2. 在宅医療・在宅訪問における薬局の役割
2-1. 医師・看護・介護など在宅医療のチーム連携
2-2. 医療・衛生の機器・ツールの提供
2-3. 服薬指導などのアドバイザー
2-4. 急変時対応・ターミナルケアへの参加
3. 在宅医療に薬局が介在する価値とは
3-1. 薬学的評価・処方医への提案
3-2. 患者さんとの密なコミュニケーション
4. まとめ
1. 地域医療に欠かせない在宅薬局
超高齢社会に突入する日本では、すべての高齢者が安全に医療を受けるために、在宅医療の拡充が急がれています。在宅療養を支えるのは、医師・看護師・理学療法士・ケアマネジャーといった専門職です。この中で、薬剤師(かかりつけ薬局)は、薬学的知見に基づく服薬指導によって、患者さんに安全な薬物療法を提供します。
在宅医療の必要性は、高齢者だけに留まりません。医療的ケア児をはじめとする小児の訪問看護や、感染症拡大や災害時の医療提供体制のためにも、在宅医療の整備が求められています。
薬局が在宅医療に関わらなければ、患者さんにきめ細かな服薬指導や適切な処方提案を行えず、医師や介護士らに負担が押し寄せることになります。地域で療養する住民に寄り添う心強いサポーターとして、在宅薬局の活躍が期待されているのです。
2. 在宅医療・在宅訪問における薬局の役割
厚生労働省による「在宅医療の基盤整備について(その2)」では、在宅医療において薬局に期待される役割がまとめられています。ここでは、厚生労働省の資料をもとに、在宅薬局の4つの役割を紹介します。
2-1. 医師・看護・介護など在宅医療のチーム連携
在宅医療による薬局の重要な役割のひとつに、多職種での連携・情報共有があります。在宅医療の質を高めるためには、患者さんに関わるすべての専門職が互いに情報共有を行い、多面的にサポートを提供する必要があります。
医師が薬を処方しても、実際の服薬状況を把握することはできません。そこで活躍するのが薬剤師です。薬剤師は在宅訪問によって、患者さんの薬歴管理や服薬状況を確認し、副作用などのモニタリングを行います。在宅訪問の様子を、薬剤師が医師やケアマネジャーらに報告することで、正確できめ細かなサポートが可能となるのです。
2-2. 医療・衛生の機器・ツールの提供
在宅医療を利用する患者さんの中には、薬局まで薬を受け取りに行くのが困難な方もいらっしゃいます。今後は、在宅薬局の薬剤師が患者さんの自宅へ直接出向き、医薬品や衛生材料を届けるサービスの重要性が高まるでしょう。患者さんは自宅にいながら、薬やガーゼ、絆創膏のほか、おむつ、介護用品、服薬ゼリーといった医療用品や介護用品を、適切な数量で受け取れるようになります。
届けた医薬品や衛生材料について、正しい使用方法を患者さんに伝えるのも薬剤師の仕事です。在宅訪問なら、一つひとつの手順を丁寧に指導できるので、患者さんもすぐに使用できるようになります。「薬局の窓口で説明を受けたけど、帰るまでに忘れてしまった」というような事態も防げます。
また、医薬品や衛生材料の保管方法についても指導し、薬剤師が自分の目で患者宅での保管状況を確かめることもできます。患者さんは十分な品質を保ちながら、医薬品等を使用することが可能です。
2-3. 服薬指導などのアドバイザー
在宅薬剤師は、患者さんの服薬状況や残薬を管理します。薬が重複していないか、飲み合わせが悪くないかを確認し、患者さんの安全を守るのも重要な役割です。
在宅薬剤師は、患者さんが正しく服薬できていない原因を探り、服薬状況を改善することができます。たとえば医薬品の管理不足で飲み忘れている場合は、医薬品ケースや服薬カレンダーの活用を提案し、患者さんが継続して服薬できるように工夫します。飲みにくいようであれば、複数の薬を一つにまとめたり(一包化)、細かく砕いたり(粉砕)など、患者さんに最適な処方を考えます。
在宅薬剤師によるアドバイスは、服薬指導だけに留まりません。OTC医薬品やサプリメント、介護用品の選び方や使い方まで、健康にまつわるさまざまな助言を行います。薬剤師のアドバイスを受けることは、患者さんの健康意識向上にも大きく貢献するでしょう。
2-4. 急変時対応・ターミナルケアへの介入
在宅薬局には、24時間体制での緊急時対応が求められています。地域に根差す薬局だからこそ、症状の悪化時にも迅速に駆けつけることが可能です。医療チームの一員として、その状況に適切な薬物治療の提案・評価を行えれば、急変時の対応がスムーズに進むはずです。
ターミナルケアにおける薬剤師の役割は、主に疼痛緩和です。薬の種類や量を調整し、患者さんに安全な調剤を行うためには、薬剤師としての高い技術と経験が求められます。患者さんやチーム医療のスタッフに、薬剤の使用方法や効果、副作用をわかりやすく伝えることも大切な仕事のひとつです。
さらに、「最期まで自宅で過ごしたい」という患者さんの気持ちに寄り添い、ご家族の精神的ケアを行うことも大切な仕事です。在宅でターミナルケアを行っている患者さんやご家族は病院と離れているため、医師や看護師とのつながりに不安を感じているケースも少なくありません。薬剤師は在宅訪問によって、そのような患者さんの気持ちを癒し、患者さんと医療機関との結びつきを強める役割も担っています。
3. 在宅医療に薬局が介在する価値とは
在宅医療に薬局が関わることによって、実際にどのような効果が期待できるのでしょうか。ここでは、在宅医療・在宅訪問における薬局の価値を解説します。
3-1. 薬学的評価・処方医への提案
在宅医療において、薬剤師の価値が最も表れるのは、薬物療法の現状把握と薬学的評価から見た処方提案にあるといえます。患者さんが正確に使用できているか、副作用はないかといったことを薬剤師が確認して、医師にフィードバックを行います。その後、医師が診断を行い、薬剤師の助言や提案を受けて、患者さんにとって最適な処方へとつなげます。このサイクルができているかどうかが、地域包括ケアシステムの質に大きく関わります。
しかしながら現在は、在宅医療の現場において、薬局・薬剤師の価値が正当に評価されているとは言い難い状況です。患者さんの中には、薬剤師を自宅に入れることを快く思っていない人もいるようです。
このような状況を打破し、薬剤師の専門性を在宅医療で活かしていくためには、薬剤師の臨床知識や経験を養い、薬局としての発信力を高めていかなければなりません。
在宅訪問においても、ただ薬を届けるだけでなく、患者さんやご家族とコミュニケーションを取りながら、医師へのフィードバックや処方提案を積極的に行い、薬局ができることを示していく必要があります。
3-2. 患者さんとの密なコミュニケーション
薬剤師の訪問によって、在宅患者さんは不安を解消し、安心して薬を服用できるようになります。患者さんの中には、「処方された薬のことがよくわからないので飲みたくない」という人も少なくありません。薬剤師が納得できるまで説明することで、患者さんが薬を服用するようになるケースはよく見られます。患者さんが安全に療養生活を進めるためには、在宅薬局・薬剤師との信頼関係が欠かせません。
薬剤師が訪問して対面コミュニケーションを取ることは、患者さん自身のQOL向上にも寄与します。外出が難しい患者さんにとって、外部の人々と会話する時間は非常に貴重です。在宅薬剤師との会話をきっかけに、リハビリを努力したり、新たなことに挑戦したりと、明るい気持ちを持つ患者さんも多いでしょう。
まとめ
在宅医療では、薬局・薬剤師の役割が重要視されつつあります。薬局・薬剤師は、薬学的知識をもって、患者さんに適切な処方を提案することが可能です。在宅訪問では、医薬品や衛生材料を届ける役目も担います。服薬指導や副作用のモニタリングを行うことも大切な仕事です。
「KIRARI PRIME」では、在宅薬局に関する経営方法や患者獲得、薬剤師育成をサポートするサービスです。薬局の強みと地域のニーズに沿った、最適な在宅薬局の経営方法をご提案します。在宅薬局にお悩みの方は、ぜひ「KIRARI PRIME」にご相談ください。
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監修薬剤師:原 敦子
HYUGA PRIMARY CARE株式会社
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