「2025年に生き残る薬局」をめざして 今から取り組みたい6つのテーマ

-
団塊世代がすべて後期高齢者となる2025年に向けて、地域包括ケアシステムの構築が急がれています。今後ますます高齢者が増え、在宅医療を利用する患者さんも増える見込みです。薬局にも、在宅医療を中心とした地域密着型経営が望まれています。
本記事では、厚生労働省が発表したアクションプランを踏まえ、2025年に薬局が生き残るために取り組みたい6つのテーマを解説します。
目次2. アクションプランの基本的な考え方
2-1. 対人業務のさらなる充実
2-2. ICT化への対応
2-3. 地域における薬剤師の役割3. 薬局が取り組むべき6つのテーマ
3-1. 患者さんファースト
3-2. かかりつけ薬局
3-3. 健康サポート
3-4. 地域密着
3-5. 在宅訪問推進
3-6. 薬局DX
1. 薬局ビジョン実現に向けたアクションプランとは
2022年7月、厚生労働省から「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループとりまとめ〜薬剤師が地域で活躍するためのアクションプラン〜」(以下アクションプラン)が公表されました。アクションプランでは、薬局の現状や時代の変化を踏まえた上で、薬局薬剤師の業務や薬局の機能のあり方を示し、それを実現するための方策がまとめられています。
アクションプランが作成された背景には、2025年問題があります。2025年問題とは、団塊世代が全員75歳以上になることによって引き起こされる社会問題の総称です。2025年以降は医療ニーズが極大化するのに対し、医療従事者は不足すると予想されており、地域包括ケアシステムを早急に整備する必要があります。薬局薬剤師にも薬の専門家として、地域包括ケアシステムの一翼を担うことが求められているのです。
アクションプランには、薬局薬剤師が地域医療に主体的に参加できるよう、具体的な対策が示されています。薬局経営の戦略を立てる際に、ぜひ役立ててください。
2. アクションプランの基本的な考え方
アクションプランには、3つの基本的な考え方が示されています。この基本的な考え方はお互いに補完し合うものであり、すべての進捗を管理することが大切です。
2-1. 対人業務のさらなる充実
薬局には、処方箋対応を中心とした対物業務から、調剤後のフォローや在宅業務といった対人業務への移行が求められています。かかりつけ薬局の割合は増えているものの、実際にかかりつけ薬剤師を持つ人は多くはありません。地域住民にかかりつけ薬剤師のメリットを実感してもらうにも、薬局で対人業務や健康サポート業務を充実することが重要です。
薬剤師が対人業務に専念するためには、対物業務の効率化・自動化もポイントとなります。対人業務の拡充と対物業務の効率化は、並行して進めることが大切です。
2-2. ICT化への対応
薬剤師には、デジタル技術を駆使して、サービスの質及び利便性の向上を進めていくことが求められています。オンライン服薬指導や電子処方箋等を、薬剤師が安全かつ有意義に利活用することで、医療サービスの質向上がめざせます。
薬局DXには、現場の理解や薬剤師のITリテラシー教育等も必要です。適切な設備の導入や薬剤師の教育を進め、計画的に薬局DXを進めましょう。
2-3. 地域における薬剤師の役割
地域包括ケアシステムにおける薬剤師の業務は多岐にわたり、薬局が単独ですべての機能に対応するのは簡単ではありません。より効率的・効果的に地域医療に貢献するには、地域の薬局・薬剤師が協力し、地域全体でサービス提供に臨む必要があります。
特に、新興感染症や災害時等の有事対応は、地域全体で協力して提供すべきサービスです。薬局間や自治体と協力し、地域の実情に応じた薬剤師サービスを提供できるように検討しましょう。
3. 薬局が取り組むべき6つのテーマ
ここでは、アクションプランに記されている具体的対策の内容を、6つのテーマに分けて解説します。いずれも、今後薬局が生き抜くために必要となるサービスです。
3-1. 患者さんファースト
薬局には、患者さんと信頼関係を築き、患者さん一人ひとりに丁寧なサポートを行う”患者さんファースト”の姿勢が求められています。患者さんファーストを実施する上で、まず取り組むべきなのが、対物業務から対人業務への移行です。薬局・薬剤師は、地域や患者さんのニーズを把握し、対人業務の質向上をめざしましょう。
アクションプランの中で、特に推進すべき対人業務として、以下を挙げています。
- 調剤後フォローアップ(服薬フォローアップ)の強化
- 医療計画における5疾病(がん、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病、精神疾患)への対応
- 薬剤レビューの実施
- リフィル処方箋への対応
服薬フォローアップは、副作用の発見や服薬アドヒアランスの向上が期待でき、薬剤師の専門性が活かせる業務です。現在はICT活用によって、SNSやアプリ等でも服薬フォローアップが行えます。患者さんからスムーズな回答が得られるよう、事前に服薬フォローアップの流れについて伝えておくと安心です。
5疾病への対応として、薬剤師には、疾患特性に応じた細やかな対応や医師への情報共有が求められています。がん等の専門的な薬学管理や特殊調剤に対応できる薬局として、専門医療機関連携薬局を取得するのもよいでしょう。
3-2. かかりつけ薬局
薬局の地域包括ケアシステム参画において、特に重要視されているのが、かかりつけ薬局・薬剤師の存在です。「患者のための薬局ビジョン」では、患者さん本位の医薬分業に向けて、2025年までにすべての薬局をかかりつけ薬局にすることを目標としています。
かかりつけ薬局の3つの機能
患者さんの処方情報を一元的・継続的に把握し、副作用や効果の確認、重複投薬の防止に努め、薬学的管理・指導を行う
夜間や休日、在宅医療に対応し、24時間体制で在宅患者さんをサポートする
必要に応じて、医師に対し疑義照会や処方提案、フィードバックを実施し、医療機関と連携して患者さんの健康と安全を守る |
(出典:厚生労働省「患者のための薬局ビジョン」)
2022年7月におけるかかりつけ薬剤師指導料の届出薬局数は、保険薬局全体の58.4%*と、目標達成にはほど遠い状況です。一方で、調剤報酬改定でもかかりつけ機能に対する評価は強化されており、かかりつけ機能の充実度が加算獲得にも大きな影響を与えています。2025年以降も生き残るためには、かかりつけ薬局となることが必須条件といえるでしょう。
薬局のかかりつけ機能と対応する認定薬局制度に、「地域連携薬局」があります。地域連携薬局とは、患者さんの入退院時等に、医療機関との適切な情報連携に対応できる薬局のことです。患者さんにより安心して薬局を利用してもらうためにも、ぜひ地域連携薬局の取得をめざしましょう。
*(出典:厚生労働省「中央社会保険医療協議会 総会(第562回) 議事次第」)
3-3. 健康サポート
健康サポートとは、かかりつけ薬局・薬剤師が、地域住民の健康維持・増進を主体的に支援する取り組みです。地域における薬局の役割として、健康サポート機能の強化が求められています。
薬局の健康サポート機能の例
- 健康相談スペースの設置
- 要指導・一般用(OTC)医薬品の情報提供等によるセルフメディケーション支援
- 必要に応じた受診勧奨
- 糖尿病の重症化予防
- 禁煙支援等の健康増進の取り組み
- 健康情報冊子の作成
- 健康講座・イベントの開催
かかりつけ機能に加えて健康サポート機能を有し、一定の基準を満たした薬局は、「健康サポート薬局」の認定を受けることが可能です。厚生労働省は、2025年までに10,000~15,000軒の健康サポート薬局の整備を目標としているものの、2023年9月時点における健康サポート薬局の届出数は3,195軒*と、約2割に留まっています。
健康サポート薬局は、世間的な認知度が低いことも課題です。地域全体に健康サポート薬局の機能やメリットを知ってもらうには、薬局が主体的なアピールをしていく必要があります。薬局単独だけでなく、自治体とも連携して、さまざまな健康事業に取り組みましょう。
*(出典:厚生労働省「健康サポート薬局の届出件数(令和6年3月31日時点)」)
3-4. 地域密着
薬局には、地域包括ケアシステムの一員として医療機関や自治体と連携し、その地域に根付いたサービスを提供する地域密着型経営が求められています。アクションプランでは、地域全体で薬剤師サービスを提供するために、以下の取り組みを進める必要があるとしています。
- 多職種連携・薬薬連携の強化
- 健康サポート機能の推進
- 地域の実情に応じたサービスの提供体制の構築
在宅医療では、在宅医師、訪問看護師、ケアマネジャーのほか、入院先の医療機関の医師や薬剤師等、さまざまな専門職との情報共有が必要となります。しかし現時点では、薬局が退院時カンファレンスやサービス担当者会議に参加する例は多くはありません。薬局には、多職種連携・薬薬連携の重要性を十分に理解し、積極的にカンファレンス等へ参加する意識を持つことが求められています。
他職種からの要望では、「どの薬局が在宅に対応しているか知りたい」「対応可能な医療サービスについて知りたい」といった意見が多くあります。他職種に理解してもらえるよう、在宅薬局・薬剤師は積極的に自分たちの強みを外部へ伝えていくことが大切です。
地域の実情に応じたサービスには、医薬品の供給拠点、夜間休日対応、災害等の有事対応、薬事衛生等が挙げられます。地域の地域連携薬局や専門医療機関連携薬局とも連携し、患者さんに最適なサポートを提供できる体制を築きましょう。
3-5. 在宅訪問推進
かかりつけ薬局の条件のひとつが、在宅対応です。地域包括ケアシステム構築にあたって、薬局の在宅医療への参入に大きな期待が集まっています。
在宅薬局の運営では、薬剤師やスタッフからの協力が不可欠です。薬局・薬剤師が在宅医療に参入する意義・役割について伝え、在宅に適したマインドセットの醸成を図りましょう。
また、在宅薬剤師には、幅広い医療知識と洞察力・判断力、そしてコミュニケーションスキルが求められます。薬局は教育制度を整え、薬剤師が安心して在宅現場で活躍できるようサポートしましょう。
薬局が在宅訪問を始めるには、在宅訪問に関する申請・届出を行う必要があります。以下の記事に、薬局の在宅訪問の始め方について詳しく解説しているので、参考にしてください。
≫在宅訪問を推進する薬局が増加中! 在宅サービスをスムーズに始める6つのステップ
3-6. 薬局DX
薬局DXとは、デジタル技術を駆使して、薬局の組織や企業文化・風土に変革を起こす取り組みです。薬局DXによって対物業務を効率化し、薬剤師の業務負担を軽減できれば、薬剤師の働き方改革や患者さんの利便性向上が実現します。
薬局DXの例
オンライン服薬指導 |
在宅訪問との併用で、薬剤師の在宅業務の負担軽減につながる。薬剤師のリモートワークが可能となり、働き方の多様化を推進できる。リモート薬剤師の採用も可能。 |
電子処方箋 |
患者さんの処方薬を正確に把握・管理できる。紙の処方箋を管理する手間が削減できる。医療機関との連携もスムーズに。 |
調剤ロボット |
現在、ほとんどすべての調剤業務で自動化・半自動化が可能。調剤業務の負担が軽減でき、ヒューマンエラー防止にもつながる。 |
報告書/計画書/ トレーシングレポート作成システム |
在宅業務で必要な報告書や計画書、トレーシングレポート等が作成できるシステムがあると、在宅業務効率化につながる。訪問先でも記入・送信ができるクラウド型がおすすめ。 |
医薬品在庫管理システム |
医薬品の在庫管理を自動で行うシステム。在庫管理、発注業務にかかる負担を削減できる。正確な管理によるデッドストック削減効果も。 |
薬局DXを行う際には、現在の課題を洗い出し、目標達成後のビジョンを持つことが大切です。効率化したいことや期待する効果が明確にわかっていると、システム選びもスムーズに進みます。
注意点として、ただシステムを導入するだけでは、薬剤師が使いこなせずにDXが頓挫する恐れもあります。システムのマニュアル整備や薬剤師のITリテラシー教育を進め、安全かつ効果的な運用に努めましょう。
まとめ
2025年には、4人に1人が後期高齢者となり、さまざまな社会問題が起こると予想されています。医療制度崩壊や医療従事者不足も懸念される中、地域包括ケアシステム構築が急がれており、かかりつけ薬局・薬剤師の重要性も高まっています。
2025年以降も生き残る薬局となるためには、かかりつけ機能に加え、健康サポート機能の強化や多職種連携の構築、地域密着型経営を推進する必要があります。対人業務の拡充のため、薬局DXによって対物業務の効率化や働き方改革も進めましょう。
KIRARI PRIMEサービスは、在宅薬局経営をトータルサポートするサービスです。在宅訪問導入から、薬剤師育成、在宅患者獲得、コスト削減等まで、在宅薬局にまつわるお悩みを解決に導きます。在宅でお困りの薬局経営者の方は、ぜひKIRARI PRIMEサービスにお問い合わせください。
===================監修薬剤師:原 敦子
HYUGA PRIMARY CARE株式会社
===================
【当コラムの掲載内容に関するご注意点】
1.当コラムに掲載されている情報につきましては、事実や根拠に基づく執筆を心がけており、不適切な表現がないか、細心の注意を払っておりますが、その内容の正確性、有効性につき何らかの保証をあたえるものではなく、執筆者個人の見解である場合もございます。あくまで、読者様ご自身のご判断にてお読みいただき、ご参考に頂ければと存じます。
2.当コラムの情報は執筆時点の情報であり、掲載後の状況により、内容に変更が生じる場合がございます。その場合、予告なく当社の判断で変更、更新する場合がございます。
3.前各項の事項により読者様に生じた何らかの損害、損失について、当社は一切の責任も負うものではございませんので、あらかじめ、ご了承ください。