対人業務ができる薬剤師を育成するための教育の方向性と具体的な取り組みとは

薬剤師には、従来の調剤業務に加え、服薬指導や服薬状況の確認、在宅訪問など、患者さんとの対人業務の質向上が求められています。しかし、コミュニケーションに長けた人材を育てることは難しく、具体的な施策を打てない薬局経営者も少なくありません。
この記事では、薬局における薬剤師育成の課題を考察した上で、これからの人材育成で押さえておきたいポイントと、具体的な取り組み事例を解説します。
1. 薬局における薬剤師の人材育成の悩み
2. 「対人業務ができる薬剤師」の育成ポイント
2-1. 「理想の薬剤師像」を明確にする
2-2. 研修プログラムを作成する
2-3. 評価基準を設け、到達度を確認する
3. 対人業務に強みを持つ薬剤師育成に向けた取り組み
3-1. ロールプレイや模擬患者(SP)による実践的な研修の導入
3-2. コミュニケーションスキルに特化した外部研修の活用
3-3. メンター制度による継続的なフォローアップ
まとめ
1. 薬局における薬剤師の人材育成の必要性
近年、薬剤師の育成では、対人業務の強化が課題となっています。対人業務のスキルに関しては、学校教育だけでは十分に身につけることが難しく、現場での経験に依存しているのが実情です。
薬剤師が担う対人業務には、次のようなものがあります。
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服薬指導
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服薬後フォローアップ
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薬歴管理・患者情報の共有
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在宅訪問
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多職種連携
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健康相談やアドバイスの実施
これらは薬剤師の専門性が発揮される業務であり、一人ひとりのスキルや経験によって成果が左右されやすいという特徴があります。
特に新卒の薬剤師は、患者さんへの対応や在宅訪問といった対人業務に慣れておらず、不安を抱えていることが少なくありません。中途採用の薬剤師であっても、対人スキルにはばらつきがあるため、個々のレベルに応じた育成プログラムが必要です。
対人業務に強みを持つ薬剤師は、現場での信頼を得やすいだけでなく、将来的なキャリアパスを広げる上でも大きなアドバンテージとなります。薬局全体のサービス品質を高めるためにも、体系的かつ実践的な育成体制の整備が求められています。
2. 「対人業務ができる薬剤師」の育成ポイント
薬剤師の対人スキルは、適切な環境と仕組みがあれば、確実に伸ばすことができます。対人業務ができる薬剤師を育てるためには、組織として計画的かつ継続的な育成体制を整備することが重要です。
ここでは、薬剤師の育成計画を練る際に、押さえておきたいポイントを紹介します。
2-1. 「理想の薬剤師像」を明確にする
育成計画を練る前に、薬局の理念やビジョンに沿って、「どのような薬剤師を育てたいのか」を明確にすることが大事です。理想の薬剤師像があると、育成の方向性がブレにくく、一貫した教育が行えます。
まずは、薬局の理念やビジョンの策定から始めましょう。今後強化したい領域や、在宅薬局としてどのように地域に貢献するのかなどを考えてみてください。
薬局の理念やビジョンが定まったら、それを「理想の薬剤師像」に落とし込んでいきます。
たとえば、次のような薬剤師像が考えられます。
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患者さんの気持ちに寄り添える
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医師や看護師と連携し、在宅チームの一員として役割を果たせる
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自らの言葉で薬の説明を行い、患者さんの理解度を高められる
理想の薬剤師像は経営者や教育担当者だけでなく、スタッフ全員で共有し、共通認識を持つことが大切です。
2-2. 研修プログラムを作成する
理想の薬剤師を育てるための研修プログラムを設計します。研修プログラムは、①受講者のレベルに合っていること、②繰り返し学べること、③実践に活用できることがポイントです。
新人研修のほか、中堅向けや管理薬剤師向け、店舗責任者向けなど、階層別研修を用意しておくと、中途社員やキャリアアップのフォローも行えます。
薬剤師の研修では、OJTが中心に行われています。OJTは実際の業務を通して実践的なスキルを習得できるのが魅力ですが、それだけでは弱みを克服しづらく、また指導者によって指導の差が出やすいといった側面があります。
OJTの不足分をカバーするためには、動画で学べるeラーニングなどが有効です。eラーニングは、個人が好きなタイミングで繰り返し動画を見て学ぶことができるため、基礎の定着や主体的な学習促進に役立ちます。
2-3. 評価基準を設け、到達度を確認する
薬剤師の研修は、評価とセットで設計することが重要です。成果を判断する物差しがあることで、本人や周囲が成長を実感しやすくなります。客観的な評価基準があることで、教育担当者の主観による判断の偏りも防げるでしょう。
評価項目は、技術面と態度面の両方を盛り込むと効果的です。たとえば、以下のような評価項目が考えられます。
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技術面
医薬品の情報を整理し、的確に伝えられるか
患者さんのニーズを引き出せているか など
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態度面
笑顔で対応できているか
傾聴の姿勢を持って応対しているか など
評価項目については、定期的に達成度を確認し、具体的なフィードバックを行うことが大切です。フィードバックによって、本人の自覚と成長を促し、より実践的なスキルの定着を促進できます。
また、評価項目の達成度合いによって、キャリアアップができる仕組みを整えると、薬剤師のモチベーション向上にもつながるでしょう。
3. 対人業務に強みを持つ薬剤師育成に向けた取り組み
ここからは、対人業務に強い薬剤師を育成するための、具体的な取り組み事例を紹介します。
3-1. ロールプレイや模擬患者(SP)による実践的な研修の導入
薬剤師の対人スキルを鍛えるには、ロールプレイが効果的です。薬剤師役と患者さん役を交代で演じ、服薬指導や相談対応のやりとりを体験します。
より実践に近い対応を学ぶには、模擬患者(SP)の活用も検討しましょう。SPでは、患者さんの生活習慣や感情面などが細かく設定されているため、表情や仕草といった非言語的な情報から、患者さんのニーズや心理状態を読み取る練習ができます。
ロールプレイやSP研修の内容は、録画やフィードバックを行い、薬剤師が自分の癖や強み・弱みを客観的に把握する機会を設けましょう。
3-2. コミュニケーションスキルに特化した外部研修の活用
薬剤師の対人スキルを強化するなら、「傾聴」「共感」「説明力」などのコミュニケーションスキルに特化した研修を組み込むのもおすすめです。医療接遇の専門講師や、心理学ベースの対話スキル講座などを外部から取り入れることで、新たな視点と刺激を得られます。
また、外部研修では、他薬局の薬剤師やほかの医療職と交流できるというメリットもあります。多職種連携の第一歩として、外部研修の活用も検討してみてください。
3-3. メンター制度による継続的なフォローアップ
人材育成では、継続的な支援が欠かせません。そこで有効なのが、メンター制度の導入です。メンター(Mentor)とは、直訳すると「指導者、助言者」という意味を持つ言葉で、人材育成の場面においては、「経験豊富な先輩社員が後輩社員をフォローする役割」を指します。
メンターとなる薬剤師が、経験の浅い薬剤師の悩みに寄り添いながら指導することで、個々の状況に応じたきめ細かなサポートを行うことが可能です。上司とは異なる立場であるメンターは、若手薬剤師にとって気軽に話しやすく、困ったときの支えとなります。
まとめ
薬局経営において、「対人業務ができる薬剤師」の存在は、患者さんの満足度や多職種との信頼関係の構築など、あらゆる場面においてプラスに作用します。対人業務に強い薬剤師を育てるには、理想の薬剤師像を明確にした上で、体系的な人材育成計画や、キャリアアップに通ずる評価制度を整備することが大切です。
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