薬局の人材育成とスタッフ定着「成功事例とNG事例」はココが違う
離職が発生した際、「辞めた本人の性格や適性の問題だ」と片付けてしまっていないでしょうか。しかし、それでは根本的な解決には至りません。
スタッフの定着率を高めるには、離職の原因を「組織の構造」として捉え、マネジメントの視点から職場環境を見直すことが大切です。
本記事では、薬局でよくある3つの事例を参考に、スタッフが安心して働き続けられる薬局づくりのポイントを解説します。
| 本記事は、2026年6月23日に開催したWEBセミナー「薬局マネジメントと職場コミュニケーション技術の再設計 ~スタッフ定着を阻む構造的課題と、法令・倫理に基づいた職場環境づくり~」の内容をもとに作成しています。きらりプライムサービスのセミナー情報は、こちらよりご確認ください。 |
1. 薬局における経営層と現場の「価値観のズレ」とは
2. 【CASE1】厳しすぎるマネジメントが招く悪循環
2-1. 指導とパワハラの違いを理解する
2-2. 信頼関係を壊さない指導のフレームワーク「DESC法」
3. 【CASE2】利益か、職場環境か? 経営判断が問われるケース
3-1. 長期的な人材価値を選択し、環境をリセット
3-2. 組織の危機を察知する「早期検知システム」
4. 【CASE3】属人的な教育体制で、新人が定着しない
4-1. ツールとチューター制度による「教育の仕組み化」
5. まとめ
1. 薬局における経営層と現場の「価値観のズレ」とは
スタッフが離職する背景には、経営層と現場スタッフの間に生じる「認識や優先順位の違い」があります。これは立場や役割の違いによるもので、どちらか一方が正しいという問題ではありません。
しかし、職場環境を根本から見直すためには、この相互のギャップを理解することから始める必要があります。
| 経営層 | 現場スタッフ |
| 売上効率を上げてほしい コスト意識を持ってほしい 「給与を上げれば満足するだろう」という思い込み |
人手と時間の不足を解消してほしい 給与を上げるより、従業員を大切にしてほしい ワークライフバランスを確保したい |
このような価値観のズレは、どの薬局でも起こり得ます。
重要なのは、双方の立場を理解し、法令や倫理に基づいた適切なマネジメントによって、そのギャップを埋めていくことです。
ここからは、薬局でよくある事例をもとに、スタッフの離職を招くNGマネジメントと、その後の改善策を紹介します。
2. 【CASE1】厳しすぎるマネジメントが招く悪循環
一つ目は、管理者による指導が厳しすぎることで、スタッフが萎縮し、職場環境が悪化してしまうケースです。
スタッフへの指導は、成長を促すために欠かせないものです。しかし、伝え方や関わり方を誤ると、モチベーションの低下や離職につながり、組織全体の雰囲気を悪化させる原因になります。
たとえば、在宅医療の実態を十分に把握していない管理者が、数値だけを基準に評価を行うと、「残業が少ない店舗は人員が余っている」「残業が多い店舗は業務効率が悪い」といった極端な判断につながることがあります。
その結果、実際の業務量や患者対応に必要な時間が見落とされてしまいます。
こうした状況が続くと、会議でも数字の追求や課題の指摘ばかりになり、スタッフが悩みや本音を相談しにくい雰囲気が定着してしまいます。
2-1. 指導とパワハラの違いを理解する
職場環境を改善するためには、まず「適切な指導」と「パワーハラスメント」の違いを理解することが重要です。
厚生労働省では、職場におけるパワーハラスメントについて、以下の3つの要件をすべて満たすものと定義しています。
①優越的な関係を背景とした言動であること
②業務上必要かつ相当な範囲を超えていること
③身体的もしくは精神的な苦痛を与えること、または就業環境を害すること
特に注意したいのが、人格を否定するような言葉です。
指導では「人そのもの」を否定するのではなく、「具体的な行動」に焦点を当てることが大切です。
NG(Youメッセージ)
例:「何回言えばわかるの? だからあなたはダメなんだよ」
OK(Iメッセージ)
例:「朝の申し送りに遅れると、引き継ぎが十分にできず、患者さんやスタッフに影響が出てしまいます。次回からは始業5分前には来てもらえると助かります」
このように、相手を主語にする「Youメッセージ」ではなく、自分やチーム、患者さんへの影響を伝える「Iメッセージ」を意識することで、相手の人格を傷つけることなく、行動の改善を促しやすくなります。
2-2. 信頼関係を壊さない指導のフレームワーク「DESC法」
相手を否定せず、具体的な行動改善につなげるコミュニケーション方法として、「DESC法(デスク法)」があります。
たとえば、朝の申し送りに遅刻するスタッフへ指導する場合、「もっと早く来て」「あなたのせいで業務が遅れてしまった」といった伝え方では、相手を責められていると感じさせてしまう可能性があります。
一方、DESC法では、事実や影響を整理したうえで、改善してほしい行動を具体的に伝えます。それでは、DESC法を用いた伝え方を見てみましょう。
| 例 | |
| D(Describe) 描写 |
「今朝、申し送りの時間に遅れて到着したね」 |
| E (Express) 表現・影響 |
「あなたしか分からない情報があったため、他のスタッフが対応を抱え込むことになってしまったんだ」 |
| S(Suggest) 提案・要望 |
「次からは、始業5分前には店舗に到着するようにしてほしい」 |
| C(Consequence) 見通し |
「そうすればチーム全体がスムーズに動けて、あなたの業務負担も軽くなるよ」 |
DESC法のポイントは、感情的な批判や人格否定を避け、「事実」「影響」「改善策」に焦点を当てることです。
厳しい言葉で従わせるのではなく、納得感のある対話を重ねることで、スタッフが安心して意見を出せる職場づくりにつながります。
日々の指導や個人面談では、相手の成長を支えるコミュニケーションとして、ぜひDESC法を取り入れてみてください。
3. 【CASE2】利益か、職場環境か? 経営判断が問われるケース
二つ目は、薬局長(管理者)のマネジメントに課題があり、スタッフの離職が相次いでしまうものの、すぐには改善に踏み切れないケースです。
スタッフから不満の声が上がっていても、薬局長が地域支援・医薬品供給対応体制加算などの施設基準を満たす重要な人材であり、代わりとなる適任者がいない場合、交代や異動へ踏み切ることが難しいことがあります。
そのため経営者は、「目先の収益を維持するべきか」「職場環境を改善し、スタッフを守るべきか」という難しい判断を迫られます。
しかし、収益への影響を心配するあまり対応を先送りにすると、職場の不満や疲弊がさらに広がり、結果として離職の増加や採用コストの負担につながってしまうのです。
| 経営者の法的義務 労働施策総合推進法第30条の2(いわゆるパワハラ防止法)では、事業主に対し、職場におけるハラスメント防止措置を講じることが義務付けられています。 問題が疑われるにもかかわらず、「利益への影響が心配だから」と対応を先送りにすることは望ましくありません。経営者には、事実関係を速やかに確認し、必要に応じて配置転換や指導、相談体制の整備など、適切な措置を講じる責任があります。 出典:e-Gov 法令検索|労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律 |
3-1. 長期的な人材価値を選択し、環境をリセット
心理学者クルト・レヴィンが提唱した「場の理論」では、人の行動は「個人の特性(Person)」と「環境(Environment)」の相互作用によって決まるとされています。
これは、同じ人であっても、働く環境や周囲との関係性が変わることで、能力の発揮や仕事への意欲は大きく変化するという考え方です。
この視点で考えると、特定の管理体制のもとで離職が繰り返されている場合、個人だけに原因を求めるのではなく、組織の環境やマネジメントのあり方そのものを見直す必要があります。
先ほどの例では、短期的に収益へ影響が出る可能性があったとしても、薬局長の異動や管理体制の見直しによって、職場環境を改善することが賢明な判断といえるでしょう。
目先の利益を守ることだけを優先すると、人材の流出が続き、結果として採用や教育にかかる負担も増えてしまいます。一方で、スタッフが安心して働ける環境を整えると、人材の定着率が高まり、患者さんへのサービス品質向上や安定した薬局経営にもつながっていきます。
3-2. 組織の危機を察知する「早期検知システム」
スタッフの退職意向や職場への不満は、表面化した時点ではすでに深刻化していることがほとんどです。そのため、問題が大きくなる前に組織の状態を把握し、早期対応につなげる仕組みづくりがポイントとなります。
その方法の一つが、「パルスサーベイ」です。
パルスサーベイとは、脈拍(Pulse)を測るように、短い間隔で簡単なアンケートを実施し、従業員のコンディションや組織状態を継続的に確認する手法です。
たとえば、以下のような項目を定期的に確認します。
・仕事への満足度
・職場の人間関係
・心身のコンディション
・業務負担の大きさ
回答結果からストレスの兆候を早期に把握し、必要に応じて面談や配置調整を行うことで、問題が深刻化する前に対応することが可能です。
薬局経営では、売上や加算などの数字だけでなく、「人が安心して働ける環境」を継続的に確認することが、安定した組織づくりにつながります。
4. 【CASE3】属人的な教育体制で、新人が定着しない
三つ目は、教育が特定のスタッフの経験や力量に依存し、新人が定着しにくくなるケースです。
新人指導を一部のベテランスタッフに任せている場合、そのスタッフが退職したり、業務負担が増えたりすると、十分に教育できる人材が不足してしまいます。
さらに退職が続くと、「新人が新人を教える」という状況に陥り、教育の質が安定しなくなることもあるでしょう。
十分な指導を受けられず、気軽に相談できる相手もいないまま業務を任された新人は、不安や負担を抱え込み、早期離職につながってしまう可能性があります。
このような悪循環を招く原因となっているのが、教育を特定の人物の経験や善意に頼る「属人的な教育体制」です。
4-1. ツールとチューター制度による「教育の仕組み化」
属人的な教育から脱却するためには、特定のスタッフの経験や力量に頼るのではなく、誰が指導しても一定の品質で育成できる仕組みづくりが重要です。
そのためには、教育方針や新人が習得すべきスキル基準を明確にし、管理者や教育担当者が継続的にサポートできる体制を整える必要があります。
具体的には、以下のような取り組みが効果的です。
①座学(Off-JT)と実務研修(OJT)を組み合わせる
新人教育では、知識を学ぶ座学と、実際の業務を通じて経験を積むOJTを組み合わせます。保険請求や公費制度、各種加算などの専門知識は座学で体系的に学び、その後、現場で実践することで、知識を業務で活用する力を身につけます。
②スキルシートを活用する
教育の進捗管理には、スキルシートの活用が効果的です。習得すべき業務や知識を一覧化することで、新人自身が現在の成長段階や次の目標を把握できます。指導担当者による教育内容のばらつきを防ぎ、不足しているスキルを確認しながら、個人の成長に合わせた適切なサポートを行うことも可能です。
③チューター制度の導入
新人一人ひとりに先輩スタッフが付き、日々の疑問や不安を相談できるチューター制度も有効です。身近に相談できる相手がいることで、新人は悩みを抱え込まず、安心して業務を覚えられます。
5. まとめ
心理学者マズローの欲求階層説では、人は「安心・安全」が満たされて初めて、本来の能力を発揮し、成長や自己実現へと向かうとされています。
薬局経営においても、「安心 ⇒ 信頼 ⇒ 利益」の順番を大切にすることが、人材の定着と組織の成長につながります。
風通しのよい職場環境、公平なマネジメント、継続的に人を育てる教育の仕組みを整えることで、スタッフは組織への信頼を深め、安心して力を発揮できるようになります。その積み重ねが、質の高い医療サービスの提供と、薬局経営の持続的な成長につながるのです。
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