薬価差益に依存しない薬局経営~利益を確保しつつ新たな収益源を創るために

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薬価差益に依存しない薬局経営~利益を確保しつつ新たな収益源を創るために

1. 薬局の利益に関わる「薬価差益」とは?

薬価差益とは、「薬の販売価格(薬価)」と「仕入れ価格」の差から得られる利益のことです。薬価は厚生労働省が定めた公定価格であり、薬価基準に記載されています。

薬局は、薬価基準に示された価格で、患者さんに薬を販売します。薬局は医薬品卸から薬を仕入れますが、この仕入れ価格は購入先との交渉によって決まります。

薬価差益の求め方

薬価差益=薬価-仕入れ価格(税抜)

薬価差益は上記の式で求められますが、実際には消費税がかかるため、薬局の手元に残る利益は、以下となります。

実際の利益=薬価-仕入れ価格(税抜)×(消費税率+1)

例として、薬価が250,000円、仕入れ価格が200,000円の場合、薬価差益による利益は以下の通りです。(消費税10%)

250,000-200,000×1.1=30,000(円)

かつては薬価差益が30%であった時代もありましたが、現在は10〜20%となっており、薬価差益で得られる利益は少なくなっています。

2. 薬価差益を左右する「薬価改定」について

薬価は、厚生労働省により定期的に見直しが行われます。これを「薬価改定」といいます。薬価改定は2年に1度行われていましたが、2021年度から毎年実施されるようになりました。

原則として、薬価改定では、医療機関・薬局と医薬品卸での取引価格(市場実勢価格)に基づき、薬価を決定します。薬価と市場実勢価格の差をパーセンテージで表した数値を「乖離率」と言い、乖離率が大きいほど薬価改定の対象となります。

一般的に、医薬品の取引価格は薬価を下回るので、薬価改定のたびに薬価が引き下げられます。薬価が引き下げられると、薬局が医薬品を購入する医薬品卸の経営にも影響が及びます。薬局が薬価差益を得るためには仕入れ価格を下げる必要がありますが、医薬品卸も経営が厳しいため、値引きに応じてもらうのは難しいのが現状です。このような背景もあり、薬価差益は年々減少を辿る一方となっています。

また、中には「逆ザヤ」と言って、薬価よりも仕入れ価格が高い医薬品もあります。逆ザヤの医薬品は販売するたびに赤字となるので、薬局が抱える不安要素の1つです。

2-1. 2023年度薬価改定のポイント

2023年度の薬価改定では、乖離率4.375%を超える品目が改定対象となりました。実際に改定されたのは1万3,400品目で、全医薬品の69%にあたります。

今回の薬価改定のポイントは、「不採算品再算定」と「新薬創出・適応外薬解消等促進加算」です。

・不採算品再算定

「不採算品再算定」とは、薬価が下がり採算が取れなくなった品目のうち、必要性の高い医薬品に限り薬価を引き上げる制度のことです。今回、物価高騰や安定供給への特例措置として、1,100品目を対象に不採算品再算定が適用されました。アセトアミノフェン、葛根湯エキス、生理食塩液などが、薬価引き上げとなっています。

・新薬創出・適応外薬解消等促進加算

「新薬創出・適応外薬解消等促進加算」とは、後発品(ジェネリック医薬品)のない新薬に対して、薬価の引き下げを猶予する制度です。今回の改定では、新薬創出等加算品600品目のうち143品目を対象に、臨時・特例的対応として加算額の増額が行われました。

厚生労働省によると、薬価引き下げが48%(9,300品目)、薬価維持が46%(9,000品目)、不採算品再算定による薬価引き上げが6%(1,100品目)となっています。2023年度薬価改定による薬剤費の削減額は、3,100億円(国費722億円)となる見込みです。

2021年度薬価改定における薬剤費の削減額は4,300億円であったため、2022年度では1,200億円ほど下回ることになります。今回の薬価改定では特例措置も取られていることから、薬価改定の制度そのものが厳しくなっているとも考えられるでしょう。とはいえ、現状では毎年薬価改定が行われるため、薬局は薬価改定を加味した上で経営戦略を打つ必要があります。

(出典:厚生労働省「令和5年度薬価基準改定の概要について」/https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001069997.pdf

3. 薬局が薬価差益を確保する方法

薬価改定のたびに薬価差益が減少する中で、少しでも利益を確保するために薬局ができることは何でしょうか。ここでは、薬局が薬価差益を確保するための2つのポイントを解説します。

3-1. デッドストックを活用する

在庫管理をしっかり行っていても、医薬品には消費期限があるため、デッドストック(不動在庫・不動薬品)を抱えることもあります。デッドストックが出た場合は、早めに対処して損失軽減を図りたいものです。

デッドストックの活用方法として、主に以下の4つが挙げられます。状況に応じてベストな取引を行い、医薬品の廃棄を防止しましょう。

・自社内の他店舗で余剰医薬品をやり取りする

自社で複数店舗を運営している場合は、お互いにデッドストックをやり取りすることができます。各店舗の在庫リストの共有体制を整えておきましょう。

・地域の薬局に買い取ってもらう

地域の薬局と交流がある場合は、他薬局にデッドストックを買い取ってもらえます。薬剤師会を経由して、デッドストックの取引を行う方法もあります。

・マッチングサービスを活用する

社内や近隣での取引が難しい場合は、医薬品を買いたい薬局と売りたい薬局が出会える、デッドストックのマッチングサービスの利用がおすすめです。マッチングサービスによっては、現金での売買ではなく、医薬品の等価交換を行えるケースもあります。

・業者に一括で買い取ってもらう

デッドストックをまとめて業者に送り、買い取ってもらえるサービスです。売買の手間がなく、スピーディーに現金化できるのがメリットですが、相場よりも買取価格が低い傾向にあります。消費期限切れまで時間がないときや、すぐに現金に換えたい場合におすすめです。

3-2. 共同購入・医薬品購入交渉サービスを活用する

薬価差益を確保するためには、仕入れ価格をいかに抑えるかが課題です。ただ、医薬品卸の経営も難航している中での価格交渉は厳しく、仕入れ数が少ない小規模薬局ほど不利になります。

そこでおすすめしたいのが、「共同購入」もしくは「医薬品購入交渉代行」の活用です。

・共同購入とは

ボランタリーチェーンなどに加盟し、複数の薬局で医薬品を一斉に購入すること。購買力が高まることで、医薬品の仕入れ価格の値下げを依頼しやすくなるのが特徴です。共同購入だけでなく、ボランタリーチェーンのさまざまなサービスが付随します。ボランタリーチェーンによっては、加盟料や月会費が必要となるケースもあります。

・医薬品購入交渉代行とは

薬局と医薬品卸との間にほかの会社が介入し、価格交渉を行ってくれるサービスのこと。月会費は発生せず、交渉成立時に手数料を支払うケースが一般的です。

共同購入・医薬品購入交渉代行サービスを利用すれば、個人薬局や小規模薬局でも仕入れ価格を抑えられる可能性が高まります。ただし、サービスによって条件やコストが異なるため、共同購入・医薬品購入交渉代行を選ぶ際は、以下の点をチェックしましょう。

  • 医薬品との関係性に影響はないか
  • これまでの医薬品卸を継続して利用できるか
  • 支払いサイトやシステムの変更を強制されないか
  • 契約期間や違約金はあるか
  • ランニングコスト・イニシャルコストを考慮しても利益が見込めるか
  • 医薬品卸に対して交渉力・営業力があるか

まずは共同購入・医薬品購入交渉代行サービスに依頼し、試算シミュレーションの見積りを取ってもらいましょう。長い付き合いになるので、信頼できるサービスを選ぶことが大切です。

4. 薬価差益に依存しない薬局経営の方向性

今後、薬価が上がることは考えにくく、薬価差益もさらに減少していくでしょう。薬局が収益を増やすためには別の方向からアプローチを行い、薬価差益に頼らずとも利益を創出できる仕組みを整える必要があります。

ここでは、薬価差益に依存しないための薬局経営の方向性をお伝えします。

4-1. 在宅医療への参入によって患者数拡大を図る

まだ在宅対応に踏み切っていない薬局は、在宅訪問をスタートすることで新たな収益源を得られます。薬局の在宅訪問には、患者数拡大以外にもさまざまなメリットがあります。

  • 患者さんと深く関われるので、薬局・薬剤師としてのやりがいを感じられる
  • 地域包括ケアシステムの一員として、地域医療の質向上に貢献できる
  • 医師との信頼関係が構築できる
  • 在宅訪問に関連する調剤報酬の加算が可能となる
  • かかりつけ薬局や地域連携薬局、健康サポート薬局の認定の道が開く

厚生労働省は、すべての薬局が在宅対応・24時間対応を整備し、かかりつけ薬局になることを期待しています。調剤報酬改定でも在宅訪問に関わる加算が強化されており、今後、安定した利益を見込むためには、在宅医療への参入は必須といえるでしょう。

高齢化が進む中、最期まで自宅で過ごしたいと希望する人も増えています。地域のニーズに応える薬局となるためにも、在宅訪問は欠かせないサービスです。

4-2. 薬局DXによる業務改善を推進する

薬局の利益を確保するためには、経費削減や業務負担軽減など、さまざまな面から業務改善に取り組む必要があります。そのために重要となるのが、薬局DXです。薬局DXとは、ITツールやデジタル技術を駆使して、薬剤師の業務改善を図ることをいいます。

たとえば在宅訪問では、クラウド型報告書作成システムを導入すると、薬剤師の報告書記入の負担が減り、情報共有もスムーズになります。薬剤師は対人業務に専念できるうえに、訪問軒数を増やすこともできるでしょう。このように、薬局DXには薬剤師の働き方を改善し、薬局の利益を上げる効果が期待できます。

以下は、薬局DXでいち早く取り入れたい施策です。

  • オンライン服薬指導の導入
  • 電子処方箋の導入
  • 在宅訪問の報告書作成システムの導入
  • クラウド型電子薬歴の導入
  • チャットツールなどを活用した服薬フォローアップ

オンライン服薬指導や電子処方箋は、在宅訪問を円滑に進めるためにも有用です。オンライン服薬指導については、調剤報酬改定でも拡充されているため、ぜひ対応しておきましょう。

薬局DXにあたっては、薬剤師のITリテラシーの向上や、セキュリティ対策なども必要となります。費用対効果を分析しつつ、薬局内でしっかりと運用方針や教育体制を整え、安全に薬局DXを進めましょう。

 

まとめ

薬局経営において、薬価差益を少しでも多く確保するには、以下の対策が有効です。

  • デッドストックの活用:マッチングサービスや業者の一括購入を利用する
  • 共同購入:ボランタリーチェーンなどに加盟して一斉購入に参加する
  • 医薬品購入交渉代行:第三者の企業に価格交渉を依頼する

一方で、薬価差益に依存しない薬局経営を確立することも大切です。在宅医療への進出や薬局DXを実現し、患者数拡大や対人業務の質向上をめざしましょう。

「KIRARI PRIME サービス」では、在宅薬局経営にまつわるさまざまな課題解決をサポートしています。在宅患者獲得サポートでは、在宅訪問を始めたものの患者さんが増えないという薬局に向けて、地域に適した患者獲得手法をご提案。また、医薬品卸の制限のない医療品購入交渉やデッドストック活用により、薬価コスト削減もサポートしています。在宅薬局にお悩みの方は、ぜひKIRARI PRIMEサービスにご相談ください。

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監修薬剤師:原 敦子
HYUGA PRIMARY CARE株式会社
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