個人薬局が在宅訪問をするための基礎知識

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個人薬局が在宅訪問をするための基礎知識

1. 薬局の在宅訪問とは?

少子高齢化が進む日本では、自宅で医療が受けられる在宅医療の需要が増えています。薬局にも、在宅医療の担い手としての役割が求められるようになりました。

在宅訪問を利用することで、外出困難な患者さんは、自宅にいながら処方薬の受け取りや服薬支援を受けられます。薬剤師は患者宅に訪問して服薬指導や服薬支援を行い、医療機関やケアマネジャーと連携しながら安全な薬物療法の提供に努めます。

今後は超高齢社会の突入に伴い在宅患者さんも増加すると予想され、薬局には地域包括ケアシステムの一員として、主体的な在宅医療への参加が求められています。

2. 個人薬局が知っておきたい在宅訪問の流れ

ここでは、個人薬局が在宅訪問(訪問調剤)サービスを開始する際の基本的な流れを解説します。在宅訪問の申請を行っていない薬局は、必要な手続きを済ませるところから始めましょう。

2-1. 各種届出・申請を行う

在宅訪問を始めるには、薬局で在宅訪問サービスを開始する旨を、地方厚生局などへ申請する必要があります。以下を参考に、必要な書類を提出してください。

・在宅薬局に必要な届出

書類名称

提出先

在宅患者訪問薬剤管理指導に係る届出書

地方厚生(支)局

介護給付の請求及び受領に関する届

都道府県国民健康保険団体連合会

居宅療養管理指導・介護予防居宅療養管理指導事業所の指定に係る記載事項

各都道府県の介護保険担当部署

(1)生活保護法等指定介護機関指定申請書

(2)中国残留邦人等支援法指定介護機関指定申請書

(1)は2000年(平成12年)3月31日以前に生活保護法等指定医療機関の指定を受けた薬局は申請不要。

(2)は2008年(平成20年)3月31日以前に生活保護法等指定医療機関の指定を受けた薬局は申請不要。

(1)(2)ともに2014年(平成26年)7月1日以降に新規開設した薬局はみなし指定されているため申請不要。

各都道府県の生活保護・介護保険担当部署

・必要に応じて提出する書類

書類名称

提出先

麻薬小売業者免許申請書

管轄区の保健所等

麻薬小売業者譲渡許可申請書

管轄区の保健所等

無菌製剤処理加算の施設基準に係る届出書

地方厚生(支)局

麻薬小売業者免許の申請は任意ではあるものの、今後在宅でも終末期ケアを受ける患者さんが増えることを考えると、在宅薬局としてぜひ持っておきたい免許です。

2-2. 薬局内掲示物・必要書類を作成する

申請や届出を行い、指定を受けた薬局は、掲示物や文書の作成が義務付けられています。掲示物は薬局内の見やすい場所に掲示しましょう。

薬局内掲示物(必須)

・運営規定(介護保険)

・介護保険サービス提供事業者としての掲示(介護保険)

・訪問薬剤管理指導の届出を行っている旨の掲示 (医療保険)

契約書類の作成

・重要事項説明書(介護保険)

・契約書(介護保険)

どちらも2通作成し、1通は患者さん、1通は薬局が保管します。

在宅訪問業務にあたり薬剤師の記入が必要な書類の作成

・薬学的管理指導計画書(医療保険、介護保険)

・居宅療養管理指導記録簿(介護保険)

・在宅患者訪問薬剤管理指導記録簿(医療保険)

・医師への報告書

・居宅療養管理指導サービス後の領収書(介護保険)

在宅薬局として認知してもらうためには、在宅訪問パンフレットを作成して配布するなど、地域住民や医療機関にアピールすることも大切です。

2-3. 在宅訪問の依頼を受ける

患者さんに在宅訪問サービスを提供する導入としては、大きく分けて2つのパターンが考えられます。

①医師から直接依頼を受ける
②患者本人やケアマネジャーなどから相談を受ける、あるいは薬剤師が必要性を感じ、医師へ依頼する

多くの場合、医師から直接依頼を受けて在宅訪問を開始します。医療機関との連携体制を整備し、信頼関係を築いておくことが、在宅患者さんの獲得につながるでしょう。

2-4. 医師から訪問指示を受ける

在宅訪問を開始するには、医師からの訪問指示が必要です。薬剤師から医師へ在宅訪問を依頼する場合、患者さんの状況などを医師に報告し、在宅訪問を希望する旨を伝えます。薬剤師による訪問の必要性があると医師が判断した場合には、訪問指示のある処方箋と、訪問薬剤管理指導依頼書あるいは情報提供書が発行され、在宅訪問が正式に認められます。

訪問指示を受けたら、医師から提供された患者情報を確認し、必要な書類を揃えて在宅訪問の準備を始めましょう。

2-5. 初回訪問で患者さんからの同意をもらう

初回訪問では、重要事項説明書や契約書を持参し、在宅訪問のサービスや料金について説明を行います。患者さんの症状を把握し、サービスの内容について詳しく理解してもらうためにも、患者さんの家族やケアマネジャーに同席してもらうのが望ましいでしょう。在宅訪問では、患者さんの家族やケアマネジャーとの連携も重要となるので、積極的に交流を持つことが大切です。

患者さんから在宅訪問サービス開始の同意を得たら、重要事項説明書と契約書に、患者さんと薬剤師の双方が記名・押印し、それぞれ1通ずつ保管します。

2-6. 在宅訪問開始

初回訪問後に訪問スケジュールを組み、在宅訪問が開始します。薬剤師は処方箋に基づいて調剤を行い、訪問日時に患者宅へ向かいます。患者宅では、服薬状況や管理状況、体調の変化、副作用の有無などを総合的に判断した上で、薬学的管理指導を実施しましょう。

在宅訪問では、患者さんとの距離が近いため、より深いコミュニケーションが求められます。患者さんや家族の希望を汲み取りつつ、適切に薬物療法が進められるようサポートしましょう。

2-7. 状況共有・他職種連携・薬剤師による提案

在宅訪問を終えたら、医師に患者さんの体調変化や服薬状況などを報告します。必要に応じて、薬の減量や剤形の変更などの提案を行うことも大切です。また、可能であれば次回の訪問計画についても記載しましょう。

必要に応じて、ケアマネジャーや訪問看護師などの他職種にも報告します。医薬品情報の提供や副作用のチェックポイントなど、薬学的知見に基づいた情報を共有しましょう。カンファレンスにも積極的に参加し、多職種間でこまめな情報共有を行ってください。

3. 個人薬局経営者が知るべき訪問調剤の基礎知識

在宅訪問では、外来とは異なる対応が必要なケースもあります。ここでは、在宅訪問で薬剤師が実施する業務について確認しましょう。

3-1. 訪問計画(薬学的管理指導計画書)を立てる

患者さんの家で訪問調剤をすることが決定した後は、医師から患者さんの病状や訪問指導の内容が記載された書類が薬局に届きます。それらの書類を確認して医師と相談しながら、訪問回数や訪問間隔などを記載した訪問計画を立てます。これを「薬学的管理指導計画書」と言い、原則として患者宅に訪問する前に策定します。

薬学的管理指導書は、最低でも月1回の見直しが必要です。処方薬の変更や副作用の出現があった場合は随時見直し、最新の情報に更新します。作成した薬学的管理指導計画書は、薬歴に添付するなどして保管しましょう。

3-2. 服薬支援

在宅訪問では、患者さんが安心して服薬できるようにさまざまな服薬支援を行います。以下は、薬剤師から提案できる服薬支援の一例です。

・一包化
・粉砕
・お薬カレンダーの提供
・残薬調整および処理

在宅訪問の初期段階では、患者宅で多くの残薬が見つかるケースが多々あります。高齢になると処方薬が増える傾向にあるので、服用タイミングに合わせて一包化し、服薬カレンダーやお薬ボックスにセットするなどの工夫をして飲み忘れを防ぎましょう。個々の患者さんの残存能力を維持するため、過剰な服薬支援をしないように気を付けることがポイントです。

状況によっては、処方医への疑義照会を行い、服用状況の改善を図る必要もあるでしょう。飲み忘れが大量にある場合は、残薬を使用して処方日数を減らすといった対応も考えられます。

錠剤の服薬が難しい場合は、薬の粉砕することを医師に提案してもいいでしょう。患者さんの状況を考慮して、最適な処方について考えてください。

3-3. 患者さんの体調変化について知る

服用する薬によって、患者さんの体調に変化が生じることもあります。薬剤師は副作用について理解を深め、患者さんが体調を崩した際に、さまざまな可能性を考慮することが大切です。

食事や排泄、睡眠、日常動作などの変化について聞き取ると、副作用の判断材料となります。たとえば、食欲減退や口の中に苦味を感じるといった味覚の変化は、薬の副作用で起きるケースも少なくありません。薬の副作用と日常生活を結びつけて考えると、些細な変化を見逃さずに適切な処置を考えることができます。在宅現場で適切な判断ができるよう、薬剤師の専門性向上を図りましょう。

患者さんの些細な変化に気づくためにも、日頃から十分なコミュニケーションを取ることが大切です。顔色や声音などにも注意して、普段の患者さんの状態を把握しておきましょう。副作用や体調変化が見られた場合は、主治医にフィードバックを行うことも重要です。

4. 在宅訪問・訪問調剤のQ&A

ここでは、薬局の在宅訪問で気になるQ&Aをまとめました。在宅訪問を始めたい個人薬局は、ぜひ参考にしてください。

4-1. 患者さんに在宅訪問を勧めることはできるの?

在宅訪問には医師からの訪問指示が必要であり、薬局・薬剤師の判断で在宅訪問を提供することはできません。しかし、薬局で在宅訪問の必要性が見られた場合には、薬局から医師へ相談することが可能です。介護保険を使うためには要介護認定を受ける必要がありますが、医療保険でも訪問調剤を実施できます。

「残薬が多そう」「服薬状況が気になる」といった心配がある場合は、患者さんの状況を医師に伝えて、在宅訪問ができないか打診してみましょう。医師からの信頼がなければ許可が下りないケースも考えられるので、日頃から医療機関との連携体制を持つことが大切です。

4-2. 在宅訪問での患者さんの負担額は?

在宅訪問の費用は、利用する保険の種類や負担割合、同じ建物内の訪問調剤を受ける患者さん(単一建物診療患者)の人数によって変わります。

1回の在宅訪問でかかる訪問費用(薬代除く)は、以下の通りです。

・単一建物診療患者が1人の場合

介護保険

自己負担1割:517円

医療保険

自己負担1割:650円

自己負担3割:1,950円

・単一建物診療患者が2~9人の場合

介護保険

自己負担1割:378円

医療保険

自己負担1割:320円

自己負担3割:900円

上記は目安であり、麻薬など特別な薬剤の使用や、中心静脈栄養法を行う場合などは加算されます。また、別途薬代(医療保険)が必要です。

4-3. 在宅訪問の回数制限はあるの?

在宅訪問の利用回数には制限があります。原則として月4回までとなりますが、緊急時などは追加訪問が可能です。

1ヶ月あたりの訪問回数

基本

月4回まで(医療保険、介護保険)

末期の悪性腫瘍患者・中心静脈栄養法の対象患者

週2回、月8回まで(医療保険、介護保険)

緊急時訪問

月4回まで(医療保険のみ)

緊急時訪問では、介護保険の対象患者さんも医療保険を利用することになります。

まとめ

在宅訪問(調剤訪問)では、薬剤師は患者さんの自宅や施設に訪問し、服薬指導・服薬支援を行います。高齢になり薬局へ行くのが困難になった患者さんにとって、メリットの多いサービスです。

薬局が在宅訪問を行うためには、事前に必要書類の提出が必要です。医師からの訪問指示を受け、患者さんの同意を得た後に在宅訪問が始まります。

薬剤師は薬の配達以外にも、薬の飲み残しを減らすための工夫や、残薬の調整といった服薬支援を行う役目を担っています。必要に応じて医師や訪問看護師、ケアマネジャーといった他職種と連携し、包括的に在宅医療を進めることが大切です。

「KIRARI PRIME サービス」は、個人薬局への在宅訪問支援を行っています。「KIRARI PRIME サービス」を活用いただくことで、個人薬局でもリスクとコストを抑えて在宅訪問を始めることが可能です。在宅訪問の始め方がわからない、薬剤師不足に困っているなど、在宅訪問についてお悩みの方は、ぜひ「KIRARI PRIME サービス」にご相談ください。

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監修薬剤師:原 敦子
HYUGA PRIMARY CARE株式会社
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