調剤薬局のマーケット動向と生き残り戦略

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調剤薬局のマーケット動向と生き残り戦略

調剤薬局の店舗数はコンビニの数を上回り、競争が激化しています。薬局には規模や立地ではなく、機能や質が問われており、いかに患者さんや地域に貢献できるかが重要なポイントとなっています。厳しい時代で薬局が生き残るためには、薬剤師のスキルを高め、地域に必要なサポートを提供することが重要です。

本記事では、調剤薬局の市場動向を押さえた後、2025年までに調剤薬局が取り組むべき4つの施策について解説します。

1. 調剤薬局のマーケットの動向

薬局の数は年々増加しており、2020年度には6万軒を超えました。そのうち約8割が、診療所・病院の近隣に構える門前薬局です。

2021年度の調剤医療費(電算処理分)は7兆7,059円で、対前年度比(伸び率)は+2.8%となっています。ただし、調剤医療費の伸び率はマイナスになる年度もあり、ここ数年業界の成長は停滞している印象です。

(出典:厚生労働省「令和3年度 調剤医療費(電算処理分)の動向」を公表します ~調剤医療費(電算処理分)の年度集計結果~」

1-1. M&Aによる市場再編

続いて、規模別に調剤薬局の動向を見ていきましょう。調剤薬局を併設するドラッグストアの業界参入により、調剤薬局ではM&Aが活発です。既に薬局業界が頭打ちにある中、今後は大手チェーン薬局やドラッグストアによる競争激化と市場再編が進み、徐々に薬局数は減少していくと考えられます。

  • 20店舗以上を経営する薬局が増加

20店舗以上を経営する薬局法人の割合は、2013年では17.6%であったのが、2021年では38.4%にまで拡大しました。資金に余裕のある大手チェーン薬局は、買収によって事業規模拡大を図っています。

  • 2〜5店舗の薬局が減少し、1店舗経営に切り替え

2〜5店舗経営の小規模薬局は、2013年で51.0%と最多でしたが、2021年には28.0%にまで縮小しています。その一方で、1店舗の薬局は2015年に2.0%にまで落ちたものの、2021年で10.4%と巻き返しています。このことから、小規模薬局は大手薬局に店舗を売却し、1店舗運営に切り替えている様子が窺えます。

  • 今後はM&Aの買収対象として6〜19店舗の薬局に注目が集まる

6〜19店舗を経営する中規模薬局は、ここ数年17%前後で横這いです。しかし、小規模薬局の集約が終われば、6~19店舗経営の薬局が次なるM&Aのターゲットとなるでしょう。

(出典:厚生労働省「薬局薬剤師に関する基礎資料(概要)」

1-2. 大規模ECサイトによる処方薬ネット販売の開始

実店舗の薬局が低成長にあえぐ一方で、大規模ECサイトによる処方薬ネット販売の参入が検討されています。既にアメリカではオンラインによる処方薬販売が始まっており、一時期は調剤薬局・ドラッグストア業界に大きな影響を及ぼしました。

日本でも、オンライン服薬指導や電子処方箋、リフィル処方箋が解禁され、オンライン処方の土壌が整いつつあります。今はまだ本格的に調剤業務を手掛けるECサイトはないものの、サービス開始までは時間の問題です。

大規模ECサイトは利便性が高いゆえに、これまで書籍・音楽・スポーツ用品など、あらゆる小売り分野に打撃を与えてきました。処方薬ネット販売が実現すれば、調剤薬局も苦境に立たされることは間違いないでしょう。

2. 規模別による調剤薬局の課題

大手薬局と中小薬局では経営方針や資金が異なるため、同じ調剤薬局とはいえ抱える課題の質が異なります。ここでは、市場動向を踏まえた上で、調剤薬局の課題を規模別に見ていきましょう。

2-1. 大手薬局の課題は地域貢献

2022年度調剤報酬改定では、大手チェーン薬局の門前薬局に対する調剤基本料が引き下げられました。これまで大手薬局は精力的に規模拡大に取り組んできましたが、今後は数よりも質が問われます。対物業務から対人業務への移行を促し、地域ごとにふさわしいマーケティングを練ることが重要です。

他薬局の買収を検討するのであれば、たとえ集客数が見込める場合でも、門前薬局は避けたほうがよいケースもあります。薬剤師の質や地域の特性を見極めて、慎重にM&Aを進めなくてはなりません。

大手薬局では、すでに薬局DXに取り組んでいるところも多いでしょう。資金力・人材力を活かして主体的に在宅医療に関わるための体制を整え、それぞれの店舗で地域密着型経営を実現させることが大切です。

2-2. 中小薬局の課題は人材確保と在宅医療

大手薬局に比べて、資金力や待遇面で劣る中小薬局は、人材獲得競争で不利な状況にあります。特に、地方やへき地、離島などでは、慢性的な薬剤師不足が深刻化しています。中小薬局にとっては、薬剤師の確保が急務の課題といえるでしょう。

薬剤師を呼び込むためには、「この薬局で働きたい」と思ってもらえるような勤務条件や福利厚生を整備する必要があります。利益率確保のためとはいえ、人件費や待遇面を削減していては、優秀な薬剤師を雇うことは難しいでしょう。オンライン化やIT化を進めて業務効率化を図り、薬剤師が働きやすい環境を整えることが大切です。

人材確保と並行して取り組むべきことに、在宅医療への進出があります。かかりつけ薬局となるには在宅対応・24時間対応が必須となるので、中小薬局にとってはハードルが高いと思われるでしょう。最初は人材シェアリングや薬剤師の教育研修など、外部のサービスをうまく活用しながら、上手に在宅訪問の体制を整えていくことをおすすめします。

M&Aについては、これまでの調剤薬局は売り手市場でしたが、今後は買い手市場となることが予想されます。大手薬局も、買収する薬局の経営状況には非常にシビアです。「経営が傾けば売却すればよい」という浅はかな考えは持たず、薬剤師の教育や在宅医療への貢献に取り組み、薬局の価値を高めることが大切です。

3. 調剤薬局が生き残るために2025年までにすべきこと

調剤薬局を取り巻く環境は厳しい状況にあるものの、ニーズに応じたサポートを提供し続ければ、地域住民からの支持を得ることができます。

厚生労働省が推進する在宅訪問・かかりつけ・健康サポート・地域連携といった機能は、超高齢社会を迎える日本に必要な医療体制です。薬局の規模に関わらず、薬剤師の質やスキルに焦点を当て、薬局経営の柱を築きましょう。

ここでは、高齢者比率が高まる2025年までに、薬局が取り組むべきサービスを取り上げます。

3-1. 在宅訪問

高齢者増加に伴い、在宅医療を受ける患者さんが増えています。通院が難しい、神経難病で特定の医療処置が必要である、自宅での看取りを希望しているなど、在宅医療を受ける理由はさまざまです。

在宅医療では、患者さんの多様なニーズに応じて、医師や訪問看護師、薬剤師、理学療法士らがチームとなり、一人ひとりの状態に応じた治療やケアに臨みます。在宅医療チームにおける薬剤師の役割は、安全かつ適切な薬物療法を支援することです。

薬剤師には、患者さんの些細な変化に気づき、適切な服薬指導を行うための観察力や判断力が求められます。また、患者さんやご家族と信頼関係を築くためのコミュニケーション能力も必要です。

3-2. かかりつけ薬局

厚生労働省は「患者のための薬局ビジョン」において、2025年までにすべての薬局をかかりつけ薬局にする目標を掲げています。かかりつけ薬局では、患者さんの服薬情報を一元的・継続的に管理し、薬や健康にまつわる患者さんの相談に応じます。また、地域活動に参加し、広い視野で地域住民の健康を支援することも大切な役割です。

かかりつけ薬局となるには24時間対応・在宅対応が必須なので、小規模薬局にとって参入のハードルは高いと言えます。しかし、オンライン導入や人材シェアリングなどを活用すれば、小規模薬局でもかかりつけ薬局となることは可能です。

夜間・休日対応では、急な頭痛や発熱などの想定できる事態に備えて薬を用意しておけば、緊急時にスムーズに動けます。業務の無理・無駄を省き、薬剤師が対人業務に専念できる環境を作りましょう。

3-3. 健康サポート

薬局の健康サポート機能とは、OTC医薬品や健康食品に関するアドバイスや、身体の不調や介護・育児といったあらゆる健康相談に応じ、地域住民の健康維持・促進を図ることを言います。地域住民がいつでも気軽に立ち寄れる、健康ステーションとしての薬局の活躍に期待が集まっているのです。

健康サポート機能を持つ薬局は、主体的に情報発信を行い、地域住民の健康を支援する必要があります。地域住民の年齢層や傾向を把握し、その地域で必要とされる健康サポートを届けることが大切です。

たとえば、高齢者が多い地域ではフレイルチェックイベントを開催したり、子育て世帯が多い地域では子ども向け参加型イベントを開催したりと、地域住民に受け入れられやすい施策を考えましょう。

健康サポート薬局

かかりつけ薬局が健康サポート機能を併せ持つ場合、一定の基準をクリアすると「健康サポート薬局」を申請することができます。かかりつけ薬局としての体制を整えたら、健康サポート薬局へのステップアップも検討しましょう。

3-4. 地域連携

実店舗を持つ調剤薬局が地域に根ざし、薬局・薬剤師の真価を発揮するためには、地域連携が欠かせません。在宅薬局の役割は、医療機関や介護施設と密に情報共有を行い、薬学的知見に基づいた指導・分析によって、患者さんの安全な在宅医療をサポートすることです。

今後は薬局も地域包括ケアシステムの一員として、服薬管理情報や薬歴といった患者情報を一元的に管理し、処方医への処方提案も積極的に行うなど、患者さんの包括的なサポートを担うことになります。

医療機関からの信頼を得るためには、情報共有に積極的であり、地域密着型で柔軟な対応ができる薬局が有利です。在宅訪問や健康サポートなど薬局の強味を周知しつつ、ICTツールの活用によってリアルタイムで情報を提供できる体制を築きましょう。

薬局認定制度:「地域連携薬局」「専門医療機関連携薬局」

「地域連携薬局」とは、かかりつけ機能を持ち、地域の医療機関と連携する薬局のことです。地域連携薬局はかかりつけ機能に対応する認定制度なので、ぜひ取得しておきましょう。

「専門医療機関連携薬局」とは、がんや神経難病など専門的な薬学管理が必要な患者さんに対して、特殊な調剤や専門的な薬学管理を実施できる薬局のことです。今後はさまざまな症状を抱える在宅患者さんが増えるので、専門医療機関連携薬局の取得をめざし、対応範囲を広げておくことをおすすめします。まだ全国的にも認定数が少ないため、早い段階で取得すると薬局の強みにもなるでしょう。

3-5. ICT活用・薬局DX

薬剤師の業務効率化や多職種連携を強化するためには、ICT活用による薬局DXを進めましょう。すでにオンライン服薬指導や電子処方箋の導入が始まっており、調剤報酬改定によって評価も確立されつつあります。

オンライン服薬指導を在宅訪問と併用すれば、薬剤師の業務負担を軽減することができます。薬剤師のリモートワークも可能なので、多様な働き方を実現できるでしょう。オンライン服薬指導は高齢者だけでなく、子育て世帯や勤労世帯にとっても便利なサービスなので、ぜひ導入しましょう。

手書きの薬歴や報告書はクラウド型システムに移行すると、薬剤師・店舗間でのやり取りがスムーズです。電子薬歴、電子版お薬手帳、報告書作成システムなど、さまざまなシステムが開発されています。使い勝手がよく、薬剤師に受け入れられやすいものを選び、計画的に薬局DXに取り組みましょう。

まとめ

薬局業界の市場は成熟しており、大手薬局によるM&Aの動きも活発です。ただ、今後は立地や規模ではなく、薬局の機能・質が重視されるでしょう。

特に、在宅訪問をはじめとするかかりつけ機能は、薬局が生き残るために欠かせないものです。医療機関と連携し、地域住民の健やかな生活を主体的にサポートすることが大切です。オンライン化・ICT化にも取り組み、対人業務の拡充に力を入れましょう。

「KIRARI PRIME サービス」では、各店舗で200名以上の在宅患者さんを抱えるきらり薬局のノウハウを活かし、在宅薬局のお悩みをサポートしています。対人業務が不安、業務量が増加して困っているなど、在宅訪問でお困りの薬局は、ぜひ「KIRARI PRIME サービス」にご相談ください。

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監修薬剤師:原 敦子
HYUGA PRIMARY CARE株式会社
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