薬局の倒産は過去最高水準…危ない調剤薬局の経営の共通項とは?

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1. 2024年上半期・薬局倒産件数は過去最多

東京商工リサーチによると、2024年1〜7月の調剤薬局の倒産は累計22件(前年度比266.6%増)で、シーズン過去最多となりました。現状ペースで推移すると、年間件数は40件に迫り、2021年の27件を超えて過去最多を更新する見込みです。

調剤薬局の倒産件数の推移

 

2020

2021

2022

2023

2024

1-7月

10

20

9

6

22

年間

16

27

16

12

コロナ禍であった2021年は受診控えによって薬局の倒産が目立ちましたが、コロナ収束に伴い翌年には一旦倒産数は減少しています。しかし、今回薬局の倒産数が過去最多となったことで、薬局業界の厳しい状況が浮き彫りとなりました。

(出典:株式会社東京商工リサーチ「2024年1-7月「調剤薬局」倒産 過去最多22件 大手再編と新規参入で、中小の「調剤薬局」は冬の時代へ」

1-1. 負債総額は初の100億円超

2021年1〜7月の負債総額は135億6,500万円(前年度比422.1%)と、過去最高を記録。中堅規模の倒産により、初めて負債総額が100億円を超えました。

これまでは、従業員数が10人未満の小規模薬局の倒産が主でしたが、2021年上半期では「50人以上300人未満」「300人以上」も各1件発生しています。従業員数50人以上の調剤薬局が倒産するのは、今回初めてのことです。小規模薬局だけでなく、中堅規模の薬局にも淘汰の波が迫っていることが窺えます。

地域別の倒産状況を見ると、関東が11件、近畿4件、北海道3件、東北2件、九州2件となっています。薬局数の多い首都圏の倒産が目立つものの、地域を問わず油断できない状況です。

(出典:株式会社東京商工リサーチ「2024年1-7月「調剤薬局」倒産 過去最多22件 大手再編と新規参入で、中小の「調剤薬局」は冬の時代へ」

2. 調剤薬局が押さえておきたい最新トピックス

近年、異業種や大手企業による薬局業界への新規参入が相次いでいます。ここでは、調剤薬局・薬剤師が2024年上半期にチェックしておきたいニュースを紹介します。

2-1. 大手コンビニエンスストアの処方箋受取サービス

2024年5月21日より、セブン-イレブン・ジャパンが、処方薬受け取りサービスを開始しました。同サービスは、医薬品のEC事業・ジェイフロンティア株式会社のアプリと提携し、店舗内の宅配ロッカー「PUDOステーション」を利用して、処方薬を受け取るというもの。薬局からセブン-イレブン店舗に処方薬が配送され、最短当日に無料で受け取ることができます。2024年4月末時点では、首都圏(東京都・神奈川県・埼玉県)のセブン-イレブン1,062店舗にて、処方薬の受け取りが可能です。

すでにファミリーマートでは、2022年より処方薬受け取りサービス「ファミマシー」が提供され、2023年には首都圏約4,500店舗で利用可能となっています。現在は首都圏に留まっているものの、今後オンライン診療・オンライン服薬指導の普及に伴い、コンビニエンスストアの処方箋受取サービスが全国的に展開される可能性は十分にあるでしょう。

2-2. 大手ECサイトによる処方薬のオンライン受取りサービス

アマゾンジャパンは2024年7月、アプリ上で処方薬の受取りできる「Amazonファーマシー」のサービスを開始しました。Amazonファーマシーに登録された薬局がオンライン服薬指導や処方薬の配送を行っており、現在9社・約2,500店舗が利用可能です。

Amazonファーマシーで利用できるのは電子処方箋のみで、紙の処方箋には対応していません。電子処方箋の導入率は8月25日時点で14.1%(*1)となっており、まだ普及が進んでいない現状です。また、オンライン診療を受けるには、別のアプリを利用する必要があります。これらを考慮すると、今すぐAmazonファーマシーが調剤薬局の脅威となるわけではないでしょう。

しかし、今後Amazonファーマシーの利便性が向上すれば、利用者も急増すると考えられます。アマゾンのユーザー数は2024年5月時点で約6,724万人(*2)と、主要ECモールの中でも最大です。患者さんがAmazonファーマシーに流出する可能性を考慮し、地域の調剤薬局として対策を練る必要があります。

*1(出典:デジタル庁「電子処方箋の導入状況に関するダッシュボード」
*2(出典:ニールセン デジタル株式会社「ニールセン、デジタルコンテンツ視聴率のMonthly Totalレポートによる オンラインモールジャンルの利用状況を発表」

3. 経営が危ない調剤薬局の共通項

中小薬局は存続をかけて、M&Aによる事業継承を選択するケースも増えています。昔ながらの体制を維持するだけでは、経営が危機に陥る可能性が高いです。ここでは、経営が危ない調剤薬局の共通項を3つ紹介します。

3-1. 立地に依存している(門前薬局)

調剤薬局の約8割は、病院やクリニックの近隣にある門前薬局です。調剤報酬改定でも、門前薬局への評価は厳しさを増しています。門前薬局が乱立する中、「医療機関に近い薬局」という特徴だけでは、他薬局との差別化を図ることも困難です。薬局が生き残るためには、立地に依存しない経営戦略を立てる必要があります。

厚生労働省は「患者のための薬局ビジョン」(2015年)において、2025年までにすべての薬局をかかりつけ薬局にすることを目標として掲げました。薬局のサービスの多様化・拡充化が進むと、「24時間対応してくれる」「相談しやすい薬剤師がいる」など、立地以外の基準を重視する患者さんも増えるでしょう。

調剤薬局には、立地よりも機能が問われています。地域医療への貢献という観点から、薬局のサービスを見直しましょう。

3-2. ドラッグストアとの差別化ができていない

近年、調剤薬局併設型のドラッグストアが増えています。経済産業省によると、ドラッグストアの店舗数と調剤医薬品の販売額は、2021年頃より急増しています。

ドラッグストアの店舗数・調剤医薬品販売額

 

店舗数

調剤医薬品販売額

(百万円)

2021年度

17,816

652,635

2022年度

18,571

737,497

2023年度

19,198

813,374

(出典:経済産業省「時系列データ|商業動態統計(ドラッグストア商品別販売額等及び前年(度、同期、同月)比)

ドラッグストアの調剤医薬品販売額は、この3年間で約1,607億円も増加しており、主要な収入源となっていることがわかります。

調剤薬局併設型のドラッグストアには、処方薬を待つ間に買い物ができるというメリットがあります。行きつけのドラッグストアがある人や、主婦の人に便利です。

しかし、調剤薬局が物販でドラッグストアと同じような商品を扱っても、品揃えや価格で太刀打ちすることはできません。ドラッグストアに対抗するには、調剤薬局とドラッグストアのニーズの違いを理解し、調剤薬局の強みを全面的にアピールしていく必要があります。

調剤薬局を利用する患者さんの多くは、薬剤師の専門性やアドバイスを重視しており、薬局ならではの丁寧なサポートを求めています。薬剤師のスキルアップや薬局の機能拡充に焦点を当て、地域密着型経営に力を入れましょう。

3-3. 薬局DXに取り組んでいない

多様化する薬局の機能に応え、対物業務から対人業務へシフトしていくには、デジタル化やICT化が不可欠です。国としても、薬局を含む医療業界のDXを推進しており、2024年度診療報酬改定では医療DX推進体制整備加算が新設されました。

このような流れに反し、まだDXに踏み切れない薬局は少なくありません。とくに、資金の少ない中小薬局にとって、ICT機器やロボットの導入は、コスト面でのハードルが高くなっています。

中小薬局がデジタル化を進めるにあたっては、目先のコストにとらわれず、長期的な費用対効果を検討することが大切です。たとえば人材不足に悩んでいる場合、薬剤師を新規採用するよりも、システムを導入するほうがコスト削減につながる可能性があります。システム導入によって、ヒューマンエラー防止や業務効率化が実現すれば、人材が少なくても質の高いサービスを提供できるでしょう。

ICT機器やシステムは開発・改良が進んでおり、以前に比べると費用も低くなっています。中小薬局も、ぜひシステム導入を検討してみてください。

4. 調剤薬局経営を立て直すための施策

一時期は出店するだけで儲かると言われた調剤薬局ですが、今は生き残りをかけた経営戦略を練らなければ、十分な利益を生み出すことが難しくなっています。

薬剤師の役割が拡大している今こそ、薬局の経営方針を見直す時期です。ここでは、調剤薬局経営を立て直すための5つの施策を紹介します。

4-1. かかりつけ薬局(在宅対応・24時間対応体制)の整備

ポスト2025年に向けて国は在宅医療の整備を進めており、薬局にも地域包括ケアシステムの一翼を担うことが求められています。在宅医療は地域医療の中心的サービスであり、安全かつ適切な薬物療法を提供するために薬剤師の介入が望まれています。

2024年度調剤報酬改定では、地域支援体制加算の施設基準に、「在宅薬剤管理の実績・24回以上」「かかりつけ薬剤師の届出」が加えられました。地域支援体制加算を算定するためには、在宅対応・24時間対応が必須条件です。

薬剤師や薬局スタッフにも在宅医療に参入する意義について理解してもらい、薬局が一丸となってかかりつけ機能を発揮していくことが大切です。薬局の人材教育の一環として、在宅薬剤師や在宅薬局スタッフの育成も取り入れていきましょう。

きらりプライムサービスでは、24時間365日体制をサポートするため、「オンコール対応型人材シェアリング」を行っています。希望の時間帯に、弊社薬剤師スタッフがオンコールを代行するサービスです。

また、「教育研修サービス」では、在宅薬剤師・在宅薬局スタッフの早期スキルアップをサポート。在宅現場研修や緩和ケア研修、薬剤師のマインドセット研修など、ご要望に応じた研修を設計いたします。

4-2. エリアマーケティングの実施

調剤薬局の基本である地域密着型経営を成功させるには、エリアマーケティングが欠かせません。地域の環境やニーズに応じた経営戦略を練り、薬局の独自性を確立させましょう。

エリアマーケティングの流れ

①エリア・競合・顧客を分析する
②薬局の強みを見出す
③地域の医療機関や施設に周知活動を行う

競合の薬局やドラッグストアのサービスを把握すると、差別化のポイントを見つけやすくなります。患者さんに困っていることや薬局にしてほしいことを尋ねて、ニーズを探るのもよいでしょう。

自薬局の強みやPRポイントを認識できたら、周辺の医療機関や施設に営業を行います。在宅医療では、医師や訪問看護師、ケアマネジャーといった多職種との連携が重要です。とくに、在宅患者さんを獲得したいのであれば、医師との連携が不可欠です。在宅医療に対する熱意や真摯な姿勢が伝われば、医療チームの一員として信頼してもらえるでしょう。

きらりプライムサービスの「在宅患者獲得サービス」では、医療機関や施設との連携体制の構築をサポートしています。薬局の強みや地域に応じた、確度の高い営業が強みです。弊社営業スタッフに同行してノウハウを学んでいただけるので、営業力の内製化にもお役立てください。

>>薬局のエリアマーケティングについては以下の記事もご覧ください。

薬局経営者は必見!在宅患者を増やすためのマーケティングノウハウ

4-3. ICT化・デジタル化の促進

薬局でICT化・デジタル化を導入すると、業務効率化や薬剤師の働き方改革、多職種連携基盤の形成が図れます。現場の薬剤師の悩みや患者さんの不満の解消を優先し、必要なシステムから導入を検討しましょう。

薬局におけるICT化・デジタル化の例

オンライン服薬指導

パソコンやスマートフォンなどの情報通信機器を用いて、画面越しに服薬指導を実施する。オンライン診療と組み合わせれば、患者は診療から薬の受け取りまでをオンラインで完結できる。在宅訪問との併用も可。

電子処方箋

処方箋を電子化し、デジタルデータによって運用する仕組み。複数の医療機関からの処方を一元管理できるので、重複投薬チェックにも役立つ。

報告書作成システム

在宅訪問における報告書作成業務を効率化し、クラウド上で報告書のやり取りを行うシステム。書類作成や郵送の手間・ミスを削減。

電子お薬手帳

紙のお薬手帳の情報をデータ化し、クラウド上で保管するお薬手帳。

調剤ロボット

調剤の自動化・半自動化ができるロボット。ヒューマンエラーを防止し、正確で安全・スピーディーな調剤を実現する。

調剤予約システム

処方箋をインターネット上で受け付け、患者が予約した時間に薬の受け取りができるシステム。患者さんの待ち時間削減に貢献。

在庫管理システム

在庫医薬品の数量や期限などを自動的に管理するシステム。在庫の適正化やデッドストック削減に役立つ。

自宅にいながら薬を受け取れるオンライン服薬指導は、医療過疎地に住む高齢者や多忙な子育て世代・勤労世代にとって便利なサービスです。条件を満たせばリモートワークも可能なため、薬剤師の多様な働き方を実現する手段にもなります。在宅訪問を行う薬局であれば、必ず導入しておきたいサービスです。

在宅医療で必要となる報告書や薬歴のシステムは、外出先でも操作できるクラウド型がおすすめです。薬剤師間連携や多職種連携がリアルタイムで行えるので、オンコール体制の構築にも役立ちます。

きらりプライムサービスでは、クラウド型報告書管理システム「ファムケア」を提供しています。外出先で報告書の作成・送信ができ、リアルタイムな情報共有が可能です。薬剤師の業務負担を軽減し、記入漏れ・算定漏れ・送付漏れなどのヒューマンエラーも防ぎます。

4-4. 健康サポート機能の強化

かかりつけ薬局機能に加えて、健康サポート機能を持つ薬局は、一定の要件を満たせば「健康サポート薬局」として認められます。健康サポート薬局では、薬以外の健康にまつわるあらゆる相談を受け付け、地域住民の健康維持・増進を促進しサポートします。

薬局の健康サポート機能の例
・地域における医療機関との連携体制の構築
・利用者のプライバシーに配慮した相談窓口の設置
・一般用医薬品や健康食品、サプリメント、介護用品のアドバイス
・土日の一定時間の開局
・地域ニーズに応じた健康イベントの実施

健康相談会を実施したり、患者さん一人ひとりの相談に親身に応じたりする中で、薬局のファンを増やすことができます。地域との関係性が強まり、ほかのかかりつけ薬局との差別化が図れるでしょう。

4-5. 地域連携薬局・専門医療機関連携薬局の認定取得

2021年8月、薬機法改正を受けて、「地域連携薬局」と「専門医療連携薬局」の薬局認定制度がスタートしました。

・地域連携薬局

地域連携薬局は、かかりつけ機能に対応した認定制度。在宅医療への移行がスムーズに行えるよう、地域の医療機関と連携を取りつつ、患者さんの療養をサポートします。

・専門医療機関連携薬局

専門医療機関連携薬局は、「患者のための薬局ビジョン」の「高度薬学管理機能」に対応する薬局認定制度。がん等の専門的な薬学管理が必要な患者さんをサポートするため、専門医療機関との連携を取り、より高度な薬学管理や特殊調剤に対応します。

地域連携薬局は、かかりつけ機能に加えて、無菌調製や麻薬調剤などが要件となります。健康サポート薬局と混同されやすいものの、「予防の段階から健康の維持・増進をサポートする」のが健康サポート薬局、「病気になったあとも地域で安心して医療を受けるためのサポートをする」のが地域連携薬局です。どちらもお互いに役割を補完しながら、地域住民の安全な医療を支えています。

2024年7月時点における全国の認定薬局数は、地域連携薬局が4,300件、専門医療機関連携薬局が201件となっています。専門医療機関連携薬局はまだまだ少ないのが現状ですが、今後在宅患者さんの多様化が進むにつれて、需要も増していくでしょう。

まとめ

2024年1〜6月は、調剤薬局の倒産件数が過去最多となりました。このペースで推移すれば、年間で40件近くの調剤薬局が倒産すると予想されています。

立地に依存している門前薬局や、薬局DXに消極的な場合などは、薬局経営が危険な状況にあると言えます。これからの薬局には、在宅医療を主とした地域医療での活躍が求められています。ICT化やデジタル化にも取り組みながら、地域の薬局としての価値を高めていきましょう。

きらりプライムサービスでは、薬局の在宅訪問経営をサポートしています。在宅医療への参入から施設営業、患者獲得、薬剤師育成まで、在宅薬局にまつわるさまざまな課題にお応えします。在宅訪問にお困りの薬局経営者の方は、ぜひ一度きらりプライムサービスにご相談ください。

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監修薬剤師:原 敦子
HYUGA PRIMARY CARE株式会社
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【当コラムの掲載内容に関するご注意点】
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