「患者のための薬局ビジョン」がめざす未来像と現状

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「患者のための薬局ビジョン」がめざす未来像と現状

1. 「患者のための薬局ビジョン」とは

「患者のための薬局ビジョン」とは、かかりつけ薬剤師やかかりつけ薬局を基盤とし、患者さんのための薬局を作るための指標のことです。2015年10月に厚生労働省が打ち出した、理想の薬局像とも言えます。

日本では1974年から医薬分業が進み、2022年度の医薬分業率は全国で76.6%となっています。
(出典:公益社団法人 日本薬剤師会「医薬分業進捗状況(保険調剤の動向)」

しかし、門前薬局の乱立によって患者さんの服薬情報の一元的・継続的把握ができていない、患者さんが医薬分業のメリットを感じられないなどの問題が指摘されていました。また、団塊世代が後期高齢者になる2025年が目前に迫っており、地域医療の体制整備が急務となっています。

このような背景を受けて、患者本位の医薬分業を実現するために策定されたのが「患者のための薬局ビジョン」です。
(出典:厚生労働省「患者のための薬局ビジョン 概要」

1-1. 各種許可申請や届出を行う

「患者のための薬局ビジョン」では、次の3つの考え方がベースとなっています。

・立地から機能へ
現状では、調剤薬局のほとんどが医療機関の近隣に立地する門前薬局であり、それぞれの薬局が特定の医療機関からの処方箋を受け付けています。2025年までに、門前薬局を含むすべての薬局がかかりつけ薬局になるとともに、ICTを活用した服薬情報の一限的・継続的把握や、患者さんが自分に合った薬局を選べるような体制づくりをめざしています。

・対物業務から対人業務へ
処方箋受け取りや調製、在庫管理などの対物業務の比重を減らし、丁寧な服薬指導や処方提案、在宅訪問など、患者さんに寄り添った対応が求められています。

・バラバラからひとつへ
医療機関や薬局で異なるシステムを採用している場合でも、全国の医療関係者が必要な情報を共有できる仕組みを整えることをめざしています。

(出典:厚生労働省「患者のための薬局ビジョン  概要」

2. 「患者のための薬局ビジョン」で重要な6つの機能

「患者のための薬局ビジョン」では、今後の薬局に求める施策が具体的に明示されています。ここでは、「患者のための薬局ビジョン」の中でも、とくに重要な6つの機能について見ていきましょう。

2-1. かかりつけ薬剤師・薬局機能(地域連携薬局)

「患者のための薬局ビジョン」では、患者さんが薬についていつでも気軽に相談できる、かかりつけ薬剤師の存在が重要だと明言されています。

かかりつけ薬剤師・薬局の主な機能

  • 服薬情報の一元的・継続的把握
  • 在宅対応
  • 24時間対応・開局時間外の電話相談の実施
  • 処方医へのフィードバック・疑義照会や処方提案の実施
  • 医療機関への受診勧奨

かかりつけ薬剤師には、豊富な薬学的知識と、患者さんと信頼関係を築くためのコミュニケーション能力が必要です。薬局は、薬剤師の育成や医療機関との連携体制構築によって、かかりつけ薬剤師が活躍できる環境づくりに取り組む必要があります。

かかりつけ薬剤師・薬局機能に対応する薬局の認定制度が「地域連携薬局」です。薬局認定制度として、2021年8月より専門医療機関薬局制度と合わせてスタートしました。地域の医療施設との連携体制の構築、無菌製剤への対応など一定の要件を満たすと、都道府県知事の認定を受けて地域連携薬局と称することができます。かかりつけ薬局としての機能を証明するものでもあるため、地域連携薬局はぜひ取得したい認定です。

(出典:厚生労働省「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律(令和元年法律第63号)の概要」

2-2. 健康サポート機能(健康サポート薬局)

かかりつけ薬剤師・薬局の機能に加えて、さまざまな健康相談を気軽に行えることを健康サポート機能と言います。また、健康サポート機能を持ち、一定の基準を満たした薬局は「健康サポート薬局」の表示が可能です。

健康サポート薬局の主な機能

  • OTC医薬品、介護用品、食生活、運動など、健康にまつわるアドバイスを行う
  • 健康サポートの専門知識がある薬剤師が相談に対応する
  • 土日のどちらかも一定時間開局している
  • プライバシーに配慮したスペースで相談を受け付ける
  • 健康相談や健康サポートに関するイベントを開催する

健康サポート薬局は、地域のニーズに応じた機能を充実させることが重要です。子育て世帯が多い、高齢者が多いなど、地域の特性を踏まえた上で必要なサービスを提供しましょう。また、多職種と連携した健康サポートへの取り組みや、地域医療への参入体制を整えることなどが求められます。

2-3. 高度薬学管理機能(専門医療機関連携薬局)

「患者のための薬局ビジョン」において、かかりつけ薬局が健康サポート機能と合わせて強化すべきであるとされているのが、高度薬学管理機能です。がんやHIV、難病などを抱える患者さんに対して高度な薬学的管理を行い、一定の要件を満たせば「専門医療機関連携薬局」として認定されます。

専門医療機関連携薬局の主な機能

  • 専門医療機関と密に連携を取り、高度な薬学管理や特殊調剤に対応できる
  • 抗がん剤の副作用の対処法や、適切な治療薬を選択するためのアドバイスを行う
  • ほかの薬局に対して、医薬品の提供や専門性の高い情報発信を行う

専門医療機関連携薬局数は、2023年7月時点で全国で166軒と、まだ少ないのが現状です。しかし、今後は多様な症状を抱える在宅患者さんの増加に伴い、専門医療機関連携薬局の需要も高まるでしょう。早い段階で専門医療機関連携薬局の認定を受けておくことで、地域医療の中心的役割を担える可能性は十分にあります。
(出典:厚生労働省「認定薬局の件数」
(出典:厚生労働省「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律(令和元年法律第63号)の概要」

2-4. 服薬情報の一元的・継続的把握

今後の薬局では、ICT(情報通信技術)の活用による服薬情報の管理が進んでいくでしょう。現在は、お薬手帳といえば紙が主流ですが、厚生労働省は電子版お薬手帳の使用を呼びかけています。

電子版お薬手帳のメリットとして、患者さんの持参忘れを防げる、保存容量が大きいため長期にわたる管理ができるといったことが挙げられます。電子版お薬手帳には独自に健康診断や運動を記録できるものもあるので、さまざまな角度から健康管理を行うことも可能です。

現時点では、一部の薬局でのみしか使えない電子版お薬手帳が多いため、どの薬局でも共通して使用できる電子版お薬手帳の導入が課題となっています。汎用性の高い電子版お薬手帳の仕組みが整えば、紙に替わって普及する可能性は高いでしょう。薬局としては、いずれ電子版お薬手帳への切り替えができるよう、準備を進めておくことが大切です。

2-5. 服薬情報の一元的・継続的把握

24時間対応・在宅対応は、かかりつけ薬局の必須条件の1つです。休日や夜間などの開局時間外でも、電話相談や調剤を実施できる体制を整える必要があります。

薬局に求められる24時間対応とは、常時開局するわけではなく、緊急時の電話対応や臨時処方が行えるということです。個人薬局などで24時間対応が難しい場合は、近隣の薬局と連携して調剤体制を整えてもよいでしょう。コストを抑えて24時間対応を始めるためには、人材シェアリングサービスを活用するのも有効な手段です。

在宅対応では、在宅薬剤師の育成や、地域包括ケアシステムへの参入が求められます。複雑化するサービスに応えつつ在宅医療への進出を確実なものとするためには、対物業務や在宅業務の効率化を図り、薬剤師の負担軽減に取り組むことが重要です。

2-6. 服薬情報の一元的・継続的把握

患者本位の薬局を実現するためには、地域の医療機関と連携しつつ、患者さんや地域住民の健康維持・促進をサポートすることが重要です。

医師とは、積極的な処方提案や服薬状況のフィードバックを通して、適切な薬物療法の実施に努めます。在宅訪問では残薬が見つかることも多いため、医師に相談して処方量の調整を依頼する場面もあるでしょう。薬剤師から医療機関に対して、こまめに情報提供をすることが大切です。

また、医薬品や健康についての相談を受けた場合などは、必要に応じて医療機関への受診勧奨を行います。患者さんの同意を得てかかりつけ医に連絡するなど、適切な対応を取りましょう。

医師との信頼関係は、在宅患者獲得や地域包括ケアシステムでの活躍につながります。無菌製剤や在宅訪問などにも対応し、医療機関から頼られるような薬局をめざしましょう。

3. 在宅訪問薬局の増加

「患者のための薬局ビジョン」で、特に大きくフォーカスを当てられているのが、薬局の在宅対応です。2025年には団塊世代が後期高齢者になり始めるため、在宅薬局の需要は間違いなく増加していくでしょう。

実際に、在宅業務を実施する薬局数は年々増えています。在宅患者訪問薬剤管理指導料(医療保険)を算定する薬局数は、2018年4月で6,177軒であったのが、2020年9月で8,230軒に。居宅療養管理指導費(介護保険)を算定する薬局数は、2018年4月で22,657軒、2019年12月で25,569軒となっています。

今や在宅訪問は、地域になくてはならない薬局となるために、欠かせないサービスと言えるでしょう。
(出典:厚生労働省「在宅医療の現状について」

3-1. 2022年度調剤報酬改定による在宅訪問・ICT化の推進

2022年の調剤報酬改定は、「患者のための薬局ビジョン」を反映する内容となりました。「かかりつけ薬剤師」という文言が初めて明示され、対物業務から対人業務への移行を強く促しています。

具体的には、在宅患者さんへの緊急対応や、特定の薬学的管理及び指導を行った場合の評価が拡充されました。地域支援体制加算は4区分に細分化され、在宅訪問対応や麻薬調剤実績、夜間・休日対応など、地域医療へ貢献している薬局ほど加算される仕組みとなっています。

また、オンライン服薬指導の評価拡充・点数の引き上げ、リフィル処方箋の導入など、薬局のICT活用を推進するための施策も取り入れられています。オンライン化は、在宅訪問で重要となる多職種連携の強化でも外せない取り組みです。

在宅訪問・ICT化を進める動きは今後も続くと予想され、在宅医療での役割を持たない薬局は経営難に陥る可能性も否めません。薬局の体制が変わりつつある今こそ、在宅医療への進出を検討すべき時期だと言えるでしょう。

4. 「患者のための薬局ビジョン」実現のために薬局がすべきこと

「患者のための薬局ビジョン」では、かかりつけ薬局として高い専門性を発揮していくことが求められています。患者本位の薬局を実現するためには、在宅・24時間対応、ICT化、薬剤師の専門性向上などの課題に対して、総合的に取り組むことが大切です。

薬剤師不足や業務負担の増加などが懸念となっている場合は、オンライン体制の導入によって課題が解決できる可能性は非常に高いです。たとえば、在宅訪問システムを使えば、報告書作成や薬歴業務が効率化し、少ない薬剤師の人数でも在宅訪問業務に充てる時間が確保できます。

オンライン服薬指導では薬剤師のリモートワークも可能なため、人材不足解消も期待できるでしょう。医療過疎地や薬剤師不足に悩む個人経営の薬局ほど、ICT活用による恩恵は大きいものとなるはずです。

また、近年では在宅での終末期ケアを希望する患者さんも増えており、より専門的で高度な知識・技術が求められています。ICTを活用した在宅訪問体制の整備と、薬剤師の専門性向上に努め、地域で活躍できるかかりつけ薬局をめざしましょう。

まとめ

「患者のための薬局ビジョン」は、患者本位の医薬分業を進め、これからの時代で求められる薬局像をわかりやすく示したものです。立地ではなく機能を重視することに加えて、対物業務から対人業務への移行や、服薬情報の一元的管理が求められます。中でも注目されているのが、薬局の在宅対応です。

2025年には後期高齢者が一気に増えるため、在宅薬局の需要はますます高まると予想できます。ICTを活用した在宅訪問体制の整備を進めるとともに、地域連携薬局や専門医療機関連携薬局などの認定取得もめざしましょう。

「KIRARI PRIME サービス」では、在宅薬局の経営をトータルサポートしています。在宅訪問での報告書作成業務の効率化を実現するシステム「ファムケア」の提供や、デッドストック活用、人材シェアリングなど、在宅薬局経営にまつわるさまざまなお悩みを解決へ導きます。在宅薬局でお困りの方は、ぜひ「KIRARI PRIME サービス」にご相談ください。

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監修薬剤師:原 敦子
HYUGA PRIMARY CARE株式会社
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